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第8話:優しさの裏側

午後の穏やかな光が部屋を照らし、私は机に向かって本を読んでいた。今日の題材は「社交界の会話術」。正しいタイミングで褒め、適切に話題を切り替える技術が書かれているが、内容の難しさに頭を抱えてしまう。


「褒めるのも技術がいるなんて……」


ため息をつきながらページを閉じる。茶会での失敗が頭をよぎるたびに胸が痛むが、だからこそ学ぶしかない。それは分かっているのに、この分厚い本を前にすると気力が削がれる。


「少し休憩しようかしら……」


そんなことを考え始めた時、扉がノックされた。


「クラリッサ様、ソフィア様がお見えになりました」


「……ソフィアが?」


驚きながらもすぐに身支度を整え、応接室へ向かった。前回の訪問から間もない彼女が再び現れた理由が気になりつつ、扉を開ける。


応接室には、前回と同じように純白のドレスに身を包んだソフィアが座っていた。穏やかな笑みを浮かべている彼女を見た瞬間、私は自然と緊張してしまう。


「突然お邪魔して申し訳ありません、クラリッサ様」


「いえ、何か御用でしょうか?」


ぎこちないながらも礼儀正しく応えると、ソフィアは手に持った包みをそっとテーブルに置いた。


「これを、クラリッサ様にお渡ししたくて」


包みの中から現れたのは、美しい缶に入ったお茶だった。ラベルには繊細な書体で「フィットティー」と書かれている。


「これ、何のお茶かしら?」


「最近、社交界で話題のお茶なんです。特別なハーブがブレンドされていて、飲むだけで体が軽くなる効果があるそうです」


ソフィアの説明に、私は思わず顔を上げた。飲むだけで体が軽くなる――つまり、ダイエット効果があるということだろうか。


「そんなお茶が……?」


驚きつつも、その効果に興味を引かれる。これまで散歩や食事制限を頑張ってきたけれど、目に見える成果を感じるには時間がかかる。もしこれが本当に効果があるなら、私の努力を助けてくれるかもしれない。


「クラリッサ様が努力されていること、周囲の方々から伺っています。ですから、これが少しでもお役に立てばと思いまして」


ソフィアの優しい微笑みに、私は言葉を失った。本当に善意からの行動なのだろうか。それとも――。


「ありがとうございます。大変嬉しいわ」


疑念を抱きながらも、私は笑顔で礼を述べた。



ソフィアが帰った後、私はお茶缶を手に取りじっと見つめた。美しい装飾に特別感を感じつつも、どこか違和感が心に引っかかる。


「本当に、これで痩せられるのかしら……」


缶を開けると、ほのかにハーブの香りが漂う。悪いものには見えないけれど、簡単に効果を得られるものなど世の中に存在しない。前世でも「簡単に痩せられる」という広告が溢れていたことを思い出す。


「でも……試すだけなら」


軽い気持ちで、お茶を淹れる準備を始めた。湯気とともに立ち上る香りは心地よい。カップを手に取り、少しだけ口に含む。


「美味しい……」


味は申し分ない。だが、これが本当に効果をもたらすのか、まだ判断はつかない。少しずつ飲み干しながら、私は机に戻り本を再び開いた。



翌朝、鏡を見ても、体に変化があるわけではなかった。当たり前だ。たった一杯のお茶で劇的な変化があるはずもない。


「やっぱり、努力するしかないのよね……」


私は缶をそっと片隅に置き、再び本に向き合う決意を固めた。ソフィアの意図が善意なのか、それとも別のものなのか。その答えはまだ分からない。けれど、どんな助けがあろうと、自分の未来を切り開くのは私自身だ。

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