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第5話: 礼儀作法と新たな気づき

朝の空気が澄んでいる庭で、私はいつものように散歩を始めた。昨日までと同じコースなのに、今日は少し足が軽い。息切れも最初の頃ほど酷くない。


「……昨日より、少しだけ楽かも」


それに気づいた瞬間、胸に小さな喜びが広がる。変わりたいと思って始めたことが、確実に自分の体に影響を与えている。それがわかるだけで、前に進む力になる気がした。


庭師のルイスが近くで剪定作業をしていた。彼はこちらに気づくと、手を止めて笑顔を向けた。


「お嬢様、今日も散歩ですか?」


「ええ。なんだか、少しだけ体が軽くなった気がするわ」


そう答えると、ルイスは嬉しそうに頷いた。


「それは良い兆候ですね。続けることが何より大切です。頑張ってください、お嬢様」


その言葉に背中を押されるように、私はさらに庭を一周することにした。まだ体は重いし、疲れるけれど、昨日よりも自分が進んでいる実感がある。それが何よりの励みだった。



その日の夜、日記を開き、今日できたことを書き込む。


――――――――――――――――――

今日の記録

•運動:庭を二周。少しずつ体力がついてきた気がする。

•食事:軽めの朝食。無理なく続けられそう。

•小さな成功がモチベーションになる。焦らず続けることが大切。


――――――――――――――――――


ペンを置き、少しだけ机に頬杖をつく。これまで振り返りたくなかった舞踏会の記憶が、ふと蘇ってきた。あの広間で浴びた視線、エドガーの冷たい言葉。貴族たちの嘲笑。悔しさで胸がいっぱいになる。


「ただの悪役令嬢で終わるのは……絶対に嫌」


私は自分にそう言い聞かせるように呟いた。あの場で感じた屈辱は、私を立ち止まらせるものじゃない。むしろ、もっと強くなるための糧にする。


「次は……社交界での振る舞いを学ばないと」


兄のローレンスの言葉が頭をよぎる。見た目だけでなく、内面を磨き直さなければ、社交界では通用しない。次の目標が明確になった気がした。


翌朝、私は侍女たちに新しいお願いをした。


「これから礼儀作法や話し方を学び直したいの。必要な本や教材を集めてもらえるかしら?」


侍女たちは驚いた顔をしていたが、すぐに「もちろんです」と応じてくれた。彼女たちの協力を得て、私は少しずつ「社交界のクラリッサ」を再構築する準備を始める。



その日の午後、私は机に向かい、初めて礼儀作法の本を開いた。きれいに並んだ文字を眺めると、少し気が遠くなりそうになる。


「これを全部覚えなきゃいけないのね……」


ため息をつきながらも、私は手を動かし始めた。ダイエットと同じで、一度に全部を完璧にするのは無理だ。でも、小さな一歩から始めればいい。


「少しずつ……進めばいいんだから」


この世界に転生してから、私は初めて未来に対して前向きになれている気がした。鏡に映る自分の姿はまだ変わらないけれど、確かに内側から何かが変わり始めている。それだけは信じられた。


「絶対に変わるんだから……!」


私は机に置いた手を握りしめ、静かに誓った。この世界での新しい未来を、自分の手で掴むために――。

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