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第4話: 厳しい兄と甘い父

散歩を終えて部屋に戻ると、召使いが父の執務室へ呼びに来た。散歩の疲れもあり、少し重たい足を引きずるようにして執務室の前に立つ。


「お嬢様、どうぞお入りください」


召使いに促され、恐る恐る扉を開けると、そこにはいつもの厳格な表情の父がいた。重厚な机の向こう側で、深く椅子に腰掛けている。


「クラリッサ、話は聞いている。」


その声に思わず背筋を伸ばした。父の言葉は静かだが、その目は私を試すように鋭い。視線を避けたい衝動を抑えながら、私は彼の前に進み出た。


「エドガー殿下との婚約破棄の件……お前も分かっているな。これは我が家の名誉に関わる問題だ」


「……はい、申し訳ありません」


私は小さく頭を下げた。けれど、その言葉が終わらないうちに父はふっとため息をつき、少しだけ口元を緩めた。


「だがな、クラリッサ。お前はまだ若い。間違いを犯したなら、そこから学び直せばいい」


え……? 予想外の言葉に、私は顔を上げた。父の厳しさの中に、確かに優しさがあった。


「変わるつもりなら、私はお前を支えるつもりだ。クラリッサ、お前に期待している」


その言葉が胸に響く。婚約破棄という大問題を起こしたにも関わらず、父は私を見放さないと言ってくれた。私はぐっと拳を握りしめ、小さく頷いた。


「ありがとうございます、父様。必ず変わります。努力します」


父はそれ以上何も言わず、深く頷いた。厳しいけれど、私を信じてくれるその眼差しを感じながら、私は執務室を後にした。



その夜、部屋で日記をつけていると、突然ドアをノックする音が聞こえた。扉を開けると、そこには兄のローレンスが立っていた。完璧に整った顔立ちと冷静な瞳。その視線はいつもながら鋭い。


「……兄様?」


「少し話がある。入ってもいいか?」


私は軽く頷き、兄を部屋に招き入れる。ローレンスは椅子を引き、自分で席を作ると、まっすぐ私を見つめた。


「クラリッサ、お前が変わるって話、本当なのか?」


その質問に、私は一瞬言葉を詰まらせた。けれど、ここで逃げるわけにはいかない。


「……ええ。本気よ」


そう答えると、ローレンスは腕を組み、じっと私の目を見据えた。


「なら、言っておく。外見を変えるだけでは何も変わらない。お前が本当に変わりたいなら、社交界での振る舞いも一から学び直せ」


「……社交界?」


「そうだ。お前の態度や言葉遣い、すべてが問題だった。それを変えなければ、周囲の見る目は変わらない」


その冷静な指摘に、私は息を呑んだ。言葉が鋭すぎて胸に刺さるけれど、兄の言う通りだ。


「……分かったわ。やるしかないものね」


私がそう答えると、ローレンスはわずかに口元を緩めた。そして、すぐにいつもの厳しい表情に戻る。


「期待している。ただし、中途半端な気持ちならすぐに見抜かれると思え」


それだけ言うと、彼は立ち上がり、何事もなかったかのように部屋を出ていった。



残された私は、机に置いた日記を見つめながら深く息を吐いた。甘く支えてくれる父様と、現実を突きつけてくる兄様。両方の言葉が頭の中で混ざり合い、私を奮い立たせた。


「変わらなきゃ……本当に」


鏡に映る自分を見つめながら、私は心に決めた。外見だけじゃない。内面からも変わらなければ、私は未来を掴むことができない。


「絶対に変わってみせる……!」


新たな決意を胸に、私は翌朝からさらに努力を続ける準備を始めた。

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