第3話: 新たな自分への第一歩
3話: 新たな自分への第一歩
馬車が屋敷に到着すると、私は真っ直ぐ自室に向かった。扉を閉めると同時に、全身の力が抜け、ベッドに倒れ込む。
「……最悪」
思わず呟いた言葉は、あまりに無力だった。広間で感じたあの視線、嘲笑の数々が頭から離れない。そしてエドガーの冷たい言葉――「体型が王太子妃に相応しくない」。思い出すたびに胸が痛む。
「でも……このまま終わるわけにはいかない」
私は立ち上がり、大きな鏡の前に立つ。そこには疲れ切った顔と、ふっくらとした体型の自分が映っている。前世では仕事に追われながらも、見た目には気を使っていた。それが今はどうだろう。
「変わらないと……」
このままでは、ゲームの通り破滅するだけだ。自分を変える。それが今の私に残された唯一の選択肢だ。
私は机に向かい、紙とペンを取り出した。そして前世で得た知識を思い出しながら、自分を変えるための計画を立て始める。
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クラリッサ再生計画
1.食事の見直し(栄養バランスと量の調整)
2.毎日の軽い運動(庭での散歩から開始)
3.夜更かしをやめ、規則正しい生活を送る
4.日記をつけ、進歩を記録する
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「まずは、食事と運動から始めてみよう」
転生者としての知識を使えば、前世より効率的に結果を出せるかもしれない。私は深呼吸をして自分を奮い立たせた。
翌朝、私は侍女に軽めの朝食を頼んだ。普段ならバターたっぷりのパンや甘いお菓子が並ぶところを、野菜スープとフルーツに変更する。
「クラリッサ様、いつもと違いますね」
侍女たちは驚いた様子だったが、私は笑顔で答える。
「今日から少しずつ変えたいの。協力してちょうだい」
スープを一口飲むと、野菜の優しい味が口に広がる。思ったより満足感があることにホッとしながら、私は次の挑戦――庭での散歩に向かった。
◇
庭に出ると、澄んだ朝の空気が心地よい。ゆっくりと歩き始めるが、数分もしないうちに息が上がってしまう。
「これが……今の私の体力……」
自分の現状に軽く絶望しかけたその時、ふと視界の端に動く影が見えた。見ると、庭師らしい若い男性が剪定バサミを片手に立っていた。彼はこちらに気づくと、微笑みながら歩み寄ってきた。
「お嬢様、散歩ですか?」
「ええ……ちょっと体を動かそうと思って」
息切れしながら答えると、彼は楽しげに笑った。
「良い心がけですね。毎日少しずつ続ければ、必ず変わりますよ」
その言葉に救われる思いがした。彼の名前を聞くと、「ルイス」と名乗った。クラリッサの人生に、初めて優しい言葉をかけてくれる人が現れた気がする。