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第2話:婚約破棄理由

豪華な馬車に揺られながら、私は不安と緊張で胸がいっぱいだった。舞踏会といえば、華やかな貴族たちが集い、音楽と美酒に酔いしれる社交の場。けれど私にとっては、これから訪れる“婚約破棄”の運命を迎える場所だ。


「本当にこれ、避けられないのかな……」


窓から見える夜空には満天の星が輝いているが、そんな光景に心を癒される余裕はない。馬車が王宮の広場に到着し、扉が開かれると、きらびやかな灯りが目に飛び込んできた。大きな門の向こうには、豪華な装飾が施された広間が待ち受けている。


「クラリッサ様、ご到着です」


侍女が私の手を取り、馬車から降りるのを助けてくれる。私は深呼吸をして気持ちを落ち着けながら、堂々と胸を張って歩き出した。せめて、この瞬間だけでも“貴族の令嬢”らしく振る舞わなくては。


扉が開かれると、華やかな音楽と貴族たちの笑い声が迎えてくれる。男性も女性も美しいドレスやタキシードを身にまとい、優雅に踊ったり会話を楽しんだりしている。


その中心に、彼はいた。


エドガー・アルフレッド。私の婚約者だった王太子。鋭い目と整った顔立ちは相変わらずで、その隣にはヒロインであるソフィアが控えている。純白のドレスに包まれた彼女は、天使のように輝いていた。


「……これ、やっぱり詰んでる」


自分の姿を振り返るまでもなく、彼らとの違いは歴然だ。けれどここで逃げるわけにはいかない。私は心を落ち着けるために小さく息を吐き、広間の中央へと足を進めた。



エドガーの視線が私に向けられた瞬間、広間の空気が変わった気がした。貴族たちがざわめき、ひそひそと私を見ながら囁き合う。


「クラリッサ、お前に話がある」


エドガーの冷たい声が広間に響いた。ざわざわとした周囲の視線が一斉に私へと向けられる。


「……何かしら、エドガー殿下?」


私は震える声を隠しながらそう返す。彼は少しだけ眉を寄せ、淡々とした口調で言葉を続けた。


「君とはこれ以上、婚約を続けることはできない。この場をもって、君との婚約を破棄することを正式に宣言する」


その言葉が広間に響き渡った瞬間、空気が凍りついたようだった。いや、それは私だけが感じたものではなく、広間にいる全員が驚きの表情を浮かべているからだろう。


「婚約……破棄?」


私の声は、震えていた。それが怒りなのか悲しみなのか、自分でも分からなかった。ただ、貴族たちの視線の中に確かに嘲笑が混じっているのを感じた。


「理由は明白だろう。君のその態度と体型。もはや王太子妃として相応しいとは思えない」


その言葉に、広間の隅々から失笑が漏れる。それが、私をさらに追い詰めた。


「……そうですか」


それだけを口にするのが精一杯だった。目の奥が熱くなる。けれどここで泣くのは、彼らの嘲笑に屈することになる。私は必死に涙をこらえながら、静かに頭を下げた。


「殿下がそうおっしゃるのなら、従います。これ以上、私から申し上げることはありません」


一瞬、エドガーの表情が揺れた気がしたが、彼はすぐに顔を背けた。


「では、それで構わない」


その瞬間、私は踵を返し、広間を後にした。侍女が慌ててついてくるが、私の心の中は嵐のようだった。



馬車の中で、私は拳を握りしめた。悔しさと怒りが胸を締め付ける。だけど、このまま終わるわけにはいかない。自分の未来をこんな形で閉じてしまうわけにはいかないのだ。


「絶対に変わる……私の人生、この手で取り戻す!」


涙を拭いながら、私はそう誓った。この婚約破棄は、終わりではなく始まりだ。この屈辱をバネにして、私は新しい自分を作り上げてみせる。


馬車の中で立てたその決意が、私の未来を大きく変えていく――。

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