第1話: 婚約破棄!?悪役令嬢の新たな人生が始まる
目を覚ますと、そこは豪華なシャンデリアが煌めく天井だった。
「……え?」
柔らかすぎるベッドの感触に驚きながら、私は状況を確認しようと周囲を見渡す。枕元には金細工が施されたランプ、大理石のような机、その上には真紅の宝石が飾られた小箱が無造作に置かれている。
「ここ、どこ?」
私が住んでいた1Kのアパートには、こんなものはなかった。いや、こんな豪華な装飾を見たのは、映画の中くらいだ。
一瞬、自分が夢でも見ているのかと思ったけれど、腕をつねるとしっかり痛い。それに、体が重い。なんだか妙に窮屈で、肌に何かふわりとした絹の感触がある。視線を下に向けると、ふんわりとした白いナイトガウンが体を包んでいることに気づいた。
そして次に目に入ったのは、部屋の端に置かれた大きな鏡。半信半疑で立ち上がり、その鏡に近づくと……そこに映っていたのは、ぽっちゃりどころか「見事な体格」の女性だった。
「えっ……これ、私?」
驚きながらじっくりと自分の姿を見つめる。顔はふっくらしていて、頬は丸く膨らんでいる。二の腕もぷよぷよで、どう見ても痩せているとは言い難い。
そんなはずはない。私はつい昨日まで、普通の会社員として働いていた。多少むくんでいる日もあったけれど、こんなに丸々した体型ではなかった。
思い出そうとすると、突然脳裏に稲妻のような記憶がよみがえる。確か……残業帰りに交通事故に遭った。そこまでは覚えている。でも、気がつけばこんな場所に?
「これって……もしかして、転生?」
状況を飲み込めないまま、鏡に映る自分を見つめ続ける。何かが引っかかるような違和感を覚えた。どこかで見たことがある、この顔。この部屋の豪華な雰囲気。この体型も……。
「まさか……」
一気に思い出がフラッシュバックした。私はゲームの中のキャラクター「クラリッサ・エヴァンス」に転生してしまったのだ。このキャラクターは、乙女ゲームの悪役令嬢。ヒロインをいじめる役回りで、婚約破棄されて破滅するのがお決まりの運命。
「いやいやいや、なんで私が悪役令嬢に転生するの!?」
しかも、ただの悪役令嬢じゃない。この体型。どう見てもゲームで描かれたクラリッサよりも太りすぎている。ゲームの中では意地悪で高慢な美女だった彼女が、ぽっちゃり体型になっているなんて。
「これ……詰んでない?」
私はその場にへたり込み、鏡の中の自分を見つめながらため息をついた。婚約破棄されるのはゲームのストーリー上仕方ないとしても、この体型のままじゃさらに惨めな未来が待っているのが目に見えている。
「まずい。絶対になんとかしなきゃ」
けれど、どうやって?
そのとき、扉がノックされる音が聞こえた。続いて、優雅な侍女が中に入ってくる。
「クラリッサ様、お目覚めですか? 本日は王宮で舞踏会がございます。準備を整えていただけますか?」
舞踏会? ゲームの中で、クラリッサが婚約破棄されるきっかけとなるあのイベントのことだ。
「ちょっと待って、それって……もうストーリーが始まってるってこと?」
私は一瞬頭を抱えたが、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。大丈夫、きっとなんとかなる。いや、なんとかするしかない。
「準備をお願いするわ」
そう告げると、侍女たちが手際よく動き出し、私は王宮での運命の舞台へ向かうことになるのだった――。