白いルームメイトたちのしがないぼやき
同じ顔で、同じ体で、同じ姿勢で、同じ方を向いて、同じ空間にいる。
俺は一番上にいるルームメイトの顔を見たことがない。それどころか目の前にいる奴の顔だって知りやしない。そもそもこんな暗い場所じゃ目なんて効きやしない。
俺がぼやいていると、
「君は面白いことを言うんだね。話がすでに矛盾していることに気づいていないのかい?」
目の前の奴が反応した。
「みんなそれぞれ違うんだよ。ほら、僕と君だって全然性格が違うじゃないか。性格は顔に出る。きっと君はキツい顔をしているんだ」
「お前はシャバ憎のようだな」
「同じ箱の中にいる君にシャバ憎だなんて言われたくないよ」
「だからシャバ憎なんだお前は。いいか、俺は前世の記憶を持ってる。その分、お前よりは精神的に長く生きてる」
「前世なんて、本当にあるのかな」
「当たり前だ。俺たちは死んだら再生するんだ。俺だってもう数え切れないくらい再生してる」
「僕も前世の記憶欲しいな」
「死と生を繰り返してりゃそのうち嫌でも身につくだろうよ」
「死にたくないな」
「バカ言ってんじゃねえ。俺たちの仕事は死ぬことなんだぞ。ほら、今少し体が軽くなっただろ。先頭の奴が出て行ったんだ。そうやって俺たちは順番に死んでいくんだ」
「そうなんだ。じゃあ、あんまり痛くない死に方がいいな」
「痛みなんかねえよ。掴まれて、かまれて、ぐしゃぐしゃにされて、くずかごにポイされて終いだ」
「やっぱり矛盾してるよ」
何日か経ったある日、目の前の奴が話しかけてきた。
「光が見えるよ」
「どうりで体が軽いわけだ。よかったな、次はお前が死ぬ番だ。そして最後が俺。俺が死ねばこの空間もぺしゃんこだな」
「外の世界ってもっと愉快な場所だと思ってた」
「そこから何が見える」
「行き止まりだよ。外の世界って僕たちがいる世界とあんまり変わらないんだね。この箱から出て行っても結局は箱の中なんだ」
「高望みしちゃダメだ。どうせ俺たちゃ消耗品だからな」
「お迎えが来たよ。じゃあね」
「じゃあな」
俺にも光が見えた。もっと眺めていたかったのに、大きな手が隠しやがった。
死ぬ前に一つ願望を言うなら、次は上から一番目がいい。
聞き流してくれて構わない。
これはティッシュペーパーのしがないぼやきだ。




