瓦礫の中の二人
パメラは周囲の状況を確認した。
二人を中心に小さいが確かな空き空間が形成された。そしてそれを守っているのは空間を隙間なく包む氷壁だった。
パメラは氷壁に手を伸ばして触れた。そこから感じられるのはやはりアレクシスの『霊氷』の魔力だったが、外側に別の力が一緒に流れているのも感じられた。
「護衛の皆さんが保護魔法をかけてくれました。物理的にパメラ様の傍に来られない代わりに、遠隔で魔法を使って守ってくれたようです。それがなかったら自分の魔力の消耗が大きかったでしょう。最悪、壁を維持できなかったかもしれません」
「感謝を伝えないと。とりあえず生きて脱出するのが大事ですけれども」
パメラは小さないが複雑な魔法陣を描いた。魔力が注入された魔法陣が光を放ち回転を始めたが、間もなくパメラが舌打ちした。
「ち、〈転移〉ができませんね。外と空間を連結することができません。どうやら通信を遮断している魔法が〈転移〉まで防いでいるようですわ」
「困ったことです」
アレクシスは氷壁に近づき、手が通れるほどの大きさの穴を開けた。その穴から外の瓦礫を目で見て手で触って確認した。魔力を通じて確認したものとほとんど違いはなかった。
アレクシスがそうしている間、パメラは探索の魔法を展開した。岩にかかっている魔法のせいで探索も妨害されたが、幸い空間転移や通信魔法とは異なり完全に遮断されることはなかった。人々の具体的な位置までは分かりにくかったが、生きているかどうかと坑道の崩壊範囲がどの程度なのかは大まかに知ることができた。
「幸い死んだ人はいないようですわね。アルニム侯爵の方も含めて」
「それはよかったです。……この事態が故意的なものではないならですね」
「正直曖昧ですね。故意的だということを立証することも容易ではないし、そもそも動機も想像がつきません」
パメラは渋い声で言った。
そうだ。そもそもパメラが最初の坑道崩壊が故意なのかを疑ったのは、ハゴールが操縦する人を確保するための言い訳を作るためだと考えたためだった。そしてそれはパメラを坑道に閉じ込めることとは何の関係もなかった。
アルニム侯爵はテリベル公爵の空席を占めた貴族だが、セイラが言ったゲームではテリベル公爵のような逆心まで抱いてはいなかったという。さらに、アルニム侯爵は皇家と親しくなり皇帝の信任を基に政局を掌握している。
つまり侯爵にはあえてパメラをこのような危険な状況に陥れる理由がない。むしろ侯爵領でこのような事故でパメラの身辺に問題が発生すれば侯爵の立場が困難になるだけだ。
「今度の崩壊は偶然だと思いますか?」
「その可能性が高いと思いますわ。もちろん私が知らないだけで隠された意図があるかもしれませんけれども」
アレクシスはしばらく考えて頷いた。彼が見てもアルニム侯爵があえてパメラを危険にさらす理由を推し量ることが難しかったから。
何よりも今はのんびりと悩んでいる時ではない。
「とりあえずここで生き残ることに集中しましょう。どうなさいますか?」
「瓦礫を片付けて出かけられそうですの?」
パメラの質問にアレクシスはもう一度穴から瓦礫に触れた。その手を通して魔法的に瓦礫の状態や周辺の状況をある程度察した後、眉間にしわを寄せながら再び口を開いた。
「とりあえず瓦礫を片付けながら前進することは可能だと思います。ですが脱出までつながるかどうかは確信できません」
「確認したところ、鉱山全体が倒壊したわけじゃありませんでした。思ったより坑道が崩壊した範囲が広くないんですの」
パメラは自分が探知した崩壊範囲を伝えた。大まかではあるが、ある程度状況を把握するには役に立つ情報だった。
アレクシスは「ふむ」と状況を検討してから頷いた。
「最後の手段で脱出を試みることはできそうです。ですが瓦礫を片付けながら前進すること自体が容易ではありません。最悪、脱出する前にまず瓦礫の下敷きになってしまうこともあります」
「じゃあとりあえず救助を待ちましょうか?」
「まずはそうして、救助が来る気配がないなら直接脱出することにした方がいいと思います」
パメラは頷いて突然床に座った。そして自分の横を手のひらで叩いた。
「どうせ救助を待っている間はやることもないから座って待ちましょう」
「たまにパメラ様のそういう平然さが羨ましいですね」
「あら。貴方が傍にいるから平気になれるんですもの。私一人だったらパニックになっていたかもしれません。いや、もしかしたらそうする前に瓦礫の下敷きになって死んだかもしれませんし」
「そんな姿が想像がつかないです」
アレクシスはそう言いながら苦笑いしたが、パメラは本気だった。
瓦礫が崩れた瞬間、パメラは魔法を展開しようとした。だが戸惑って魔法陣をまともに構成できなかった。パメラ一人だったらきっと間に合わなかっただろう。
魔物やカーライルと戦う時は冷静かつ迅速な判断が可能だった。しかしその時はあらかじめ状況を知って備えることが可能だった。
今回は坑道の状態が不安だということを直前に聞いたため、あらかじめ準備するだけの時間もあまりなかった。そして何よりも崩壊は実際にはしないだろうと油断していた。無意識に最初の崩壊が意図的なものだと断定していたため、侯爵には自分を危険にさらす理由がないと考えていたから。
そんな油断を反省する一方、アレクシスへの感謝の気持ちも込めてパメラは微笑んだ。
「座りなさいってば。どうせ待つ間は暇だからちょっと話でもしましょう」
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