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街での話

 しかしパメラは彼の決断を待ってくれなかった。


「えいっ」


「うぅっ」


 パメラは迷うアレクシスの口におやつを押し付けた。アレクシスはこぼさないためにも一口大いにかじった。


「……美味しいです」


「どんな味ですの?」


「香ばしくて甘いです」


 実はアレクシスはこれより甘くないのが好みだが、この程度なら偽りなく美味しいと言えるほどになった。


 パメラは満足そうに笑ってパンをそのまま自分の口に持っていった。よりによってアレクシスが食べた部分をそのまま継続する位置だった。


 アレクシスは何か言いたい気持ちがあったが、何が言いたいのか自分でも分からなかった。それで一応思い浮かぶことを話した。


「パメラ様、もうすぐ食事の時間なのですが、お召し上がりいただけますか?」


「大丈夫ですわ。なんとかなるんですもの。それよりあそこに行ってみましょう!」


 パメラはまたアレクシスの腕を引っ張りながらどこかに向かった。


 今回はオープンテラスのあるカフェだった。客もそれなりにいたし、テラス近くの席だと外の音もある程度聞こえるだろう。


 パメラはためらうことなくテラスに向かった。


「パメラ様。危ないです」


「大丈夫ですの。防御魔法があるから」


「だとしても同じ場所で長く外に露出するのは良いことではありません」


 パメラは今潜伏護衛たちの魔法を受信する魔道具を持っている。


 遠くからでも保護魔法で対象を守るための用途、遠隔護衛を可能にするありふれたが強力な道具。表向きには何もないように見えるが、実際には村一つを吹き飛ばすほどの魔法が直撃してもパメラには傷一つない。それ以上の魔法は同行した護衛騎士が対処するだろうし。


 しかし外部に露出された席に長く滞在することは街頭を歩くこととは違う。


 パメラもそれは理解した。だがそれでも頬を膨らませて不満を示した。


「貴方は今日私の護衛で同行したのじゃないって言ったでしょう」


「これくらいは護衛としてでなくても進言できる内容です」


 アレクシスはそう言ったが、直後にため息をついた。パメラの態度を見ると意地をずっと張るという気がしたから。


 どうせここはアルニム侯爵領の領都。こんな所でパメラを襲う人はいないだろう。


 まずパメラは皇女ということがすぐにバレないように髪の毛と瞳の色を魔法に変えた。そしてアレクシスと護衛を含め、三人とも普通の服装を着用した。


 この人たちが皇女と貴族だということを知っていようが知らないようが、侯爵領の領都で襲撃事件が発生すれば侯爵領の治安が疑われる。アルニム侯爵なら自分の権力欲と名誉欲のためにもそのような事態を座視しないだろう。


 パメラたちの護衛とは別に、侯爵家の人々も護衛と治安監視のために領都のあちこちに配置されている。たとえ襲撃が発生してもパメラの護衛たちと彼らの力なら問題ないだろう。


 それを知りながら心配を覚えるのは職業病だろうか。アレクシスは突然そう思った。


 彼がそんなことを考えている間、状況は少し違う方向に勝手に進んだ。


「これとこれとこれをください。あ、そしてこれも」


 パメラが勝手にあれこれ注文したのだ。それにアレクシスの分まで。


 アレクシスはパメラを止めようとしたが……その前に耳に入る話し声があった。


「それ聞いた? この前坑道が崩壊したって」


「もちろん知ってるよ。どこに行ってもその話だけだもん」


 アレクシスは何気なく話が聞こえてきた方を横目で見た。


 カフェの奥の席に座った客さんだった。外見も、感じられる魔力も平凡な男女だった。一般領民と見ても間違いはないだろう。


 気になるのは話の内容そのものだった。


「中に閉じ込められた人たちもいたと聞いたけど」


「幸い救出はすべて終わったんだって。けど坑道を復旧するのが長くかかりそう」


「復旧人力がどんどん投入されていたって。うちの兄もこの前選ばれたよ。多分数ヶ月はかかるって」


 アルニム侯爵領の経済は鉱山業だけに依存しない。だが鉱山業がかなり大きな比重を占めるのは事実であり、それだけ採掘はもちろんこのような不意の事故が発生した時の対処法と人材も発達している。


 事故が発生したことや復旧を進めていること自体は不思議ではないが……。


 考えていたアレクシスはふとパメラを見た。彼女はニヤニヤ笑ってアレクシスをじっと見ていた。


「パメラ様?」


「それなりの意味はありましたよね? 今日歩き回ったこと」


 アレクシスはやっとパメラの意図を理解した。


「そういえば街中でも事故について話す人たちが結構いました。すべて情報収集のための活動でしたか?」


「遊ぶのは本気でしたわ。収集の方はおまけでした。……正直、こんなに分かりやすいネタが出るって私も思っていなかったんですけれども」


 パメラは舌打ちをした。


 ……なんとなく「ただ安心して遊びたかったのにどうしてこうなったの」と独り言が聞こえたような気がしたが、アレクシスは無視することにした。


「坑道事故自体は理解しましたが、人力が投入され続けているというのはおかしいです」


「そうですわ。街で聞いた話の中でも似たような話が多かったですの」


「ですが坑道は本質的に狭い場所です。装備や人員を投入するには限界があるものです」


 もちろん具体的な規模や人数を把握したわけではない。


 だが人員が投入され続けているという他にも、路上で通りがかりに聞いた話の中には「数ヶ月前に動員された人がまだ帰ってこない」とか「予定された期限がどんどん遅れている」といった内容もあった。


 連絡が途絶えたわけではなく、しばらく家族の傍に戻ってきて再び派遣される人もいた。だから人が消えるわけではないと見てもいいが……気になることがあった。


「セイラさんが言ったゲームで『精神操作』のあの人の特技は人を操ることだって言いましたわね。……数百人、時には千人以上の人員を」

申し訳ございませんが、明日は更新がございません。

実は水曜日から急激に体調が悪くなりました。具体的には肩の激痛により食事や事務作業などに支障が生じ、小説の執筆にも支障が出ています。


昨日更新できなかったのは病院訪問などによるものでした。

今日はなんとか更新したのですが、現在作業が難しい状況で明日は更新できそうにありません。

明日追加で病院を訪問する予定で、作業を続けて日曜日には更新できるようにできるだけ努力します予定ですが……日曜日も更新できない可能性もあります。


一応明日更新できない分は来週の火曜日に補充するようにします。

日曜日に更新できなくなった場合は活動報告で報告させていただきます。

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