侯爵とのやり取り
「ご厚遇、ありがとうございます」
パメラは旅行の荷物を整理した後、食堂に案内された。
アルニム侯爵邸の食堂は一ヶ所だが貴賓が訪問した時にもてなす用途を含んでいるため、かなり大きかったしテーブルも大きかった。宴会場も別にあるがそこを使うほど人数が多くはない上、パメラが必要ないという意思を伝えたから無難に食堂が選択された。
テーブルに座っているのは邸宅の主人であるアルニム侯爵と息子のハゴール、そしてパメラとアレクシスの四人だった。
「本当に自分も参加していいのですか?」
「無論。騎士見習いである以前に伯爵領息の君なら十分資格を備えている」
アルニム侯爵はお人好しに見える微笑で言った。しかしアレクシスは少し渋い顔だった。
今回の休養に同行した護衛の中にはアレクシス以外にも貴族出身の騎士がいるし、甚だしくは当主の令嬢令息ではなく一家の当主本人である場合もある。それでもアレクシス自身だけがこのような席に同席したことに居心地が悪かった。
パメラはその気持ちを理解し苦笑いした。
[忘れないでくださいね。名目上は貴方は騎士見習いではなくタルマン伯爵の令息として私の休養に同行したんですの]
[婚約者でもないのにそういう立場で同行するのも常識的ではないと思いますが]
[あら。じゃあ常識的な立場にしてあげることもできるんですわよ?]
アレクシスはそれを聞いてうわべの平静を崩すところだった。なんとか我慢はしたが、驚いた心を落ち着かせるためにテーブルの下で自分の太ももを軽くつねった。
一方、二人の思念通信に気づかなかったアルニム侯爵は依然として人の良い笑みを維持しながら言った。
「パメラ様は学園でタルマン伯爵の令息と護衛実習関係を結んだと聞きました。プライベートでも傍に置くほど信頼されているようですね」
「そうなのですわ。立場のため簡単に人を傍に置くことができませんので、アレクシスさんのように信じられる人がいるというのが私には大きな幸運ですの」
「はは、あの騎士団長殿の息子ですから当然そうでしょう。私の息子も見習いたい騎士見習いだとよく言っていました」
侯爵はハゴールに視線を向けた。するとハゴールは無邪気に笑いながら頷いた。
ハゴールは侯爵と同じ金髪と紫色の瞳を持つ美少年だったが、印象は侯爵とかなり違った。素敵な紳士という感じが強い侯爵とは違って、ハゴールは可愛くて天使のような美貌が目立った。
そのような容貌に一助するもう一つの要素は非常に小さいということ。
パメラと同い年だと事前に聞いていなかったら、おそらくパメラより三年四年は幼いと思ったような体格だった。それが可愛い外見と結びついてまるで無邪気な子どものように見えた。
しかし十一歳の貴族ならただ無邪気な子どもではない。しかもハゴールはセイラが言ったゲームで悪役でもあった存在。油断してはいけないだろう。
しかし、言いたくてたまらない言葉があった。
[正直、セイラさんの情報がなかったらあの人が裏で暗躍するということを信じられなかったと思いますわ]
[同感です。ですが別途収集した情報と交差検証した結果は、アルニム侯爵令息が疑わしいということでした]
アルニム侯爵とハゴールは同じく要注意人物。そのことを念頭に置きながら、パメラは表に出さないまま話しかけた。
「学園では会うことがなかったでしたね。とても残念ですわ。でもすごく成績がよくて友達に親切だという話は聞きました」
「光栄です。「パメラ第一皇女殿下こそ名声が高いです。特に魔法の方はもう生徒のレベルじゃないっていう風に言われてるんでしょう。僕は最近の学期に魔法の授業をほとんど受けなくて接点が少なかったのが残念です」
パメラはハゴールと話をしながらも時々侯爵の様子を調べた。
侯爵は微笑んで見つめ、時にはやり取りに参加するだけ。これといった意図や企みは見られなかった。それがどこまで本心でどこから見た目なのかはパメラやアレクシスにも知る方法がなかった。
だがパメラはそれなりに推測していた。
[多分ハゴールを私の婚約者にしたいという欲はあるのでしょう。けれど急がない感じですわね]
アレクシスのことを話したのは、おそらくパメラの意思や二人の関係について探ってみようという意図だったのだろう。
しかし侯爵はそれ以上の何かを言及したりはしなかった。
その後もやり取りは無難で平凡に流れた。たまに学園や社交界に対する話をしたり、魔法についてやり取りをしたりした。
そうするうちに話がアルニム侯爵領に対する主題にまで流れた。
「最近、侯爵領で重点的に見ている事業はありますの?」
「ふむ。昔から多くのことが行われていますが、最近の重点といえば……そうですね。鉱山の開発が活発に行われています」
「鉱山? もともとアルニム侯爵領の資源が豊富なのは知っていますけれど、鉱山なら昔から発達してきたと聞きました。採掘ならともかく、開発が活発ではなさそうだと思ったのですけれども」
「新しい鉱脈が見つかりました。ところがそこで採掘されるのがもともと我が領地ではほとんど出土されなかった珍しい鉱物です。それを採掘するには相応の装備と人材が必要なのですが、まだ準備が十分に整っていない状況ですので」
「なるほど。そういえば他の鉱業が主力の領地や事業と接触しているという話を聞きました。そのためだったのですわね?」
「ええ」
パメラは一瞬鋭い眼差しが出るところだった。それをやっと我慢してうわべでは微笑んだが、その代わりにポケットの中に入れておいた紙に魔法で文字を書いておいた。
その後も鉱業についての話を少し交わした後に、侯爵邸での食事の時間が終わった。
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