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侯爵領に向かって

「パメラ様。カーライル先生を訪ねていらっしゃらないのですか?」


「行きますわよ。ただそっちは後で」


 馬車の中でゆったりと揺れる途中。アレクシスの質問にパメラはそう答えた。


 今日だけはアルトナイス学園の生徒パメラではなく、アルトヴィア帝国第一皇女としての公式日程だった。


 日程といっても公務ではなく休養だが。


 とにかく皇女としての活動なので、学園の護衛実習パートナーに過ぎないアレクシスが同行する必要はない。そもそも護衛実習という関係を取り払って見れば、騎士見習いに過ぎない彼はこのような席に護衛という名目で参加できる立場でもない。


 ……だがパメラはこれまでも学園の生徒としてではない行動にもアレクシスを引き入れてきたし、今回も一緒に休養を楽しむ友達という無理強いを貫いて彼を連れてきた。


 困っている騎士団長と苦笑いを浮かべながら彼に了解を求める父皇の姿を見ることにも慣れてしまった。


「貴方も私のせいで困るなら率直に言ってくれてもいいですの」


 パメラは考える途中思わず言った。


 アレクシスが自分に視線を向けると、パメラは苦笑いをしてから自分の胸に手を置いた。自分自身を指す意味だった。


「正直、私の無理やりで始まった関係なのでしょう。幸いに貴方が受け入れてくれてこの関係が続いてはいますけれど、正直それとは別に私の無理強いに貴方を巻き込んでいるという自覚程度はあるんですの」


「自覚があっても自制しなければ意味がありませんと思いますが」


「辛辣ですね。そうですわ、そういう正直さが必要だということですわよ」


 アレクシスは腕を組んで頭を少し横に傾けた。表情だけは無表情だったが、態度は何か考えているようだった。


 数秒ほど黙っていたアレクシスが再び口を開いた。


「自分は正直に言う方だと思いますが。自分が無口だということは概して大きな不満がないという意味です」


「もう、そんなこと言わなく本当に正直に話してみてくださいね」


 パメラは一瞬意地悪な心が湧き上がって微笑んだ。


 若い気持ちでアレクシスを少し困らせたいという衝動に駆られた。


 しかしアレクシスはそのような気持ちに気づかず真剣に話した。


「正直にとおっしゃるならば。……なぜアルニム侯爵領なのですか?」


「え? そっち?」


 パメラは思わず聞き返したが、アレクシスの表情は穏やかで真剣だった。問題提起というより純粋に気になっているだけだということが顔から明らかになった。


 確かにこんな人だったわ――パメラは心の中で自己完結をし、心構えを少し変えた。


「セイラさんが話してくれた攻略対象者について。覚えてますの?」


「全部覚えています。ならば今回の件はハゴール・リーディム・アルニム侯爵の令息についてですか?」


「間接的には」


 ハゴール・リーディム・アルニム。アルニム侯爵の息子であり最も有力な後継者。


 セイラが前世でプレーしたというゲームでは攻略対象者の一人だったようだが、彼は通常の攻略対象者とは違った。攻略ルートに進入しなければ彼の役割は悪人で、さらにその悪性で主人公と対立して死ぬルートもあるとか。


 そして彼の暗躍はゲームのストーリーが始まる前からすでに進行していた。


「セイラさんの言う通りなら、ゲームのストーリーが始まったのは私とセイラさんが十六になった頃。でもアルニム侯爵領息は学園に入学する前から人を操って動いていました」


「中にはアルニム侯爵の命令や介入もあったということもありました。……なるほど。アルニム侯爵を調べるのが今日の目的ですか?」


「そういうわけですの」


 ゲームでハゴールが悪人として行ったことは個人的なことではなかった。大部分が侯爵家の権力と関連があり、アルニム侯爵もハゴールに命令を下したり事件に関与する場合があった。


 アルニム侯爵の描写は詳しくなかったので彼が具体的にどれだけ介入したかは分からない。だが少なくとも彼が介入したという情況は確実にあり――何よりも現実の彼を見ればかなり積極的だったということは難しくなく推察できた。


 アルニム侯爵は権力欲がかなり強い野心家だから。


「もともとアルトヴィアは三つの公爵家が王家と共に権力を分ける形でしたけれど、アルトヴィア王国末期になるとテリベル公爵家以外の公爵家はかなり萎縮した状態でした。そこで隙間を占めようとしたのがアルニム侯爵家でしたし」


 アディオンがテリベル公爵家を敵対した時、アルニム侯爵はその機会を逃さなかった。最も積極的にアディオンを助け、裏でも緻密に動いてテリベル公爵家が絶滅した後の残存勢力を大部分吸収した。


 実際、今のアルニム侯爵は残りの二人の公爵よりもさらに大きな力を持っている。皇帝アディオンを除けば最大の権力者と言っても過言ではないほど。


「まぁ、戦争英雄であり強大な力で国を制圧して帝国を宣布した父上に比べれば大したことじゃありませんけれども。今は皇権が強力すぎて諸侯一人の力で皇帝を凌ぐことはできませんから」


「とはいえ諸侯の中で最高権力であることは明らかです。そしてその力をさらに拡張しようとすることも。それを警戒しているのですか?」


「いくら私でもそんな大局的な視界で眺めているんじゃありませんよ。それよりゲームのストーリーは結局私と直接関係があるし、何よりも……放っておくと学園と生徒たちが被害を受けますから。私の目が届く所で勝手に行動するのを見逃すことはできません」


 そういう意味で皇女として休暇を楽しむという名目でアルニム侯爵領を訪問すること。それが今の状況だった。


 アルニム侯爵はアディオンがテリベル公爵家を制圧する際、最も大きな功績を立てた貴族。そのような彼の領地を皇女が休養地に選ぶということに対外的な問題点はない。むしろそれを利用して皇家とのつながりをより一層強固に誇示するのがアルニム侯爵にも得だろう。


 それを知っていたので、パメラは今度の侯爵領行を決めた。

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