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怒り後の疑問

「……ありがとう」


 しばらく静かにすすり泣いていたパメラがやがて身を引いた。彼女の顔はいつも通りですすり泣いた跡のようなものはなかったが、顔を整える魔法の光の残滓が少し光って消えた。


 パメラはその後も気を引き締めるように目をしばらく閉じてから開けた。その時やっと彼女の表情が完全にいつものように戻った。


 感情を落ち着かせた彼女が最初にしたことは手記を再び広げることだった。


「パメラ様?」


「ちょっと気になることがありまして」


 パメラはアレクシスも見られる角度から手記のページを素早くめくった。大まかな内容だけが確認できる程度の速度だったので最後のページまで確認するのに時間はかからなかった。


 読み終えた後パメラは手記を再び本棚に差し込んだが、その後もあごに手を当ててしばらく手記を睨んだ。


 アレクシスはパメラの傍で一緒に手記を見ながら口を開いた。


「なぜあの手記をあえてここに保管したのか考察なさるのですか?」


「あら。どうしてわかったんですの?」


「態度が丸見えでした。そしてそろそろパメラ様の〈瞳の軍勢〉が禁書庫を全部確認した頃でもあります」


 パメラは優しく笑った。


 アレクシスが自分の意図を見抜いたことが役に立つと思った。しかしそれよりも彼が自分の本音に気づいてくれたことが、なぜか純粋に嬉しかった。


 だが彼が指摘したことに対する考えのせいで今は純粋に喜んでばかりいるわけにはいかなかった。


「確かにおかしいですわ。ここに保管したものも、保管した方法も」


「同意します。あえてこのように読める形で禁書庫に保管したのがおかしいですね」


 パメラが手記を読み直したのはティステ関連以外に危険な内容があるかどうかを確認するためだった。


 そのように確認した結論は〝なし〟だった。当初、手記そのものが予想通りティステが処刑される直前頃で終わった。パメラが一度読むのを止めた部分以後はアディオンのためらいや決定に対する後悔程度だけが記載されていただけだった。


 その上、時期的にその後を扱うほどの手記が禁書庫にあるか確認したがなかった。アディオンの手記自体がこれ一つしか保管されていなかったということだ。


「手記そのものに何か魔法が隠されているのではないでしょうか?」


 アレクシスはまず疑問を投げかけたが、パメラは首を横に振った。


「それはもう確認してみました。手記にかかった魔法は禁書庫から搬出できないように制約することだけでした。もちろん私が気づかないほど隠密な魔法がもっとある可能性もあるでしょうけれども」


「ならば内容を隠すためですね。それにしてもおかしいのですが」


 アレクシスの言葉にパメラは渋い顔で頷いた。


「対外的に公開されたら困るような内容ではありますわね。悪女に追い込まれて処刑された私が、ティステが実は無実だったということですから。でも他に大事な機密が書かれたわけでもありませんから、隠したいならそのまま燃やしてしまえばいいんですもの」


 最初の問題はそれだった。


 手記で重要な内容はティステの処刑に関することだけ。特に手記を必ず保存しなければならないほど重要な内容はなく、処刑に対する内容が保存する価値があるとも考えにくい。それなら煩わしく禁書庫に保管するのではなく、そのまま手記そのものを廃棄するのが確実だ。


 アレクシスは頷いて同意を示して本棚を、正確には本棚の封印魔法を見ながら話を引き継いだ。


「あえてこんな風に保管したのもおかしいです。禁書庫から持ち出せないようにするのはともかく、本棚を封印せずに放置しておく理由が考えられません。もちろん禁書庫は適法な手続きでは皇帝陛下しか入ってこられない場所ですが、適法な過程を踏まずに侵入する人もいないとは言えませんから」


 実際カーライルが無断で侵入して手記を読んだし、今推論を話している二人も同じケースだ。


 しかも封印魔法は本棚自体に施された魔法であり、区画を封印する時はただ簡単な魔法で本棚に命令を下すだけで良い。


 すなわち、あえて区画を封印せずに放置したということは深刻なほど愚かだったり、あるいは何かの意図による故意である可能性が高い。


 パメラとアレクシスはそこまではすぐに思いついた。しかしそこから先には進めなかった。どのように推測しようが判断材料があまりにも足りなかった。


「これではまるで禁書庫に侵入する者がいたら読んでみろと堂々と放置しているようです」


 アレクシスがふとそう言った直後、パメラは眉をひそめて唇に手を当てて考え込んだ。


「見せるために、ですね。バカみたいですけど、本当にそうかもしれない可能性もあるかも?」


「何のためにですか?」


「それはわかりません。でも活用しようと思ったら何とかできそうですわ。たとえば父上に反逆しようとする者を探し出すとか。禁書庫に不法侵入する者がいるとすれば、皇帝に忠誠を尽くす者よりはそうでない者である可能性が高いでしょうから。もちろんそうだとしても禁書庫への侵入自体が非常に難しいですけれども」


 パメラは「一応可能性の一つとしてそうだという話です」と締めくくりながらも、内心その可能性を考え続けた。それ以外は特に思い浮かぶものがないということにもっと近いだろうが。


 理性的には可能性はあまりないと思ってはいた。


 禁書庫に密かに侵入するのは能力だけでなく、それだけの動機も必要。だが両方とも備えている人はほとんどいない。しかもそのような者を探し出すために手記をここに置くということもあまり効果的な方法ではない。冷静に言えば憶測だろう。


 なのになぜだろうか。パメラはその憶測が根強く頭に焼き付いていて離れないような気がした。


 でも明確な根拠がないものを今この場でずるずると引きずる必要はないだろう。そう思ったパメラは首を横に振りながら思いを振り払った。


「帰りましょう。見るものは全部見たよですから」

読んでくださってありがとうございます!

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