ティステの怒り
腹が立つ。
まるで今自分が処刑場に立っているような錯覚。死ぬ直前のティステが今この場に降臨したように、あの時の怒りと絶望が生々しく蘇った。
今パメラが落ち着いているように見えるのはただ、感情があまりにも激しく爆発してしまったあまり半分麻痺したことに過ぎなかった。
「正直、父上が思いつかなかった方法を今すぐ三つは言えますわね。それが本当に効果があるかどうかはわかりませんけれども、少なくとも他の方法をもっと思い浮かべる余地があったということでしょう。それでも父上はそうしなく、何かに追われるように私を侮辱して殺しました」
気がつくと、パメラは気を散らす思いをそのまま口にしていた。
アレクシスが黙って聞いている間、パメラは今目の前にいない父上に文句を言うように続けた。
「ティステの人柄と人望のせいでけなすしかなかった、って。ならどうしてそれを利用するという考えはないのです? 私の、ティステの勢力は父上とは確かに別物だったのに」
むしろティステに真実を伝え、協力を要請したなら。
ティステは父のテリベル公爵と仲が良くなかった。父が逆心を抱いているということまでは知らなかったが、後ろで正しくない方法で勢力を伸ばしていたということは知っていたから。
むしろアディオンが王位継承者として、あるいは即位した後にテリベル公爵と敵対するようになれば、ティステは彼の妻として尽力するとまで考えた。一人だけ考えたのではなく、アディオンに直接話したこともあった。実際に父のでたらめな話を壊すことで自分の意志を直接証明することまでした。
たとえばテリベル公爵家のイメージに多大な影響を及ぼしたティステ自身が父の不穏さを公開し糾弾したとしたら?
「もう過ぎ去った過去についてわいわい言ったって今更のことであるだけ。私も本気で方法論なんか論じたくはありません。けれど手記にはそのような方法が書かれてもいませんでした。思いつかなかったのか、考えても書かなかったのかは分からないんですけれども」
「……父親だからこそ敵対できないと思ったのかもしれません」
「それは重大な侮辱ですわ」
パメラはアレクシスを睨みつけた。
もちろんアレクシスへの感情ではなかった。ただ今沸き上がる感情を隠すことができなくて表に出てしまい、偶然視線の方向がアレクシスに向かっただけ。
だが怒りすぎて涙まで滲み出る目に会った瞬間、アレクシスはまるで自分が罪を犯したような気分になった。
「私は、ティステは婚約者と国のために父上と敵対する覚悟があることを明確にしました。それは本気だったんですの。それでも本気で敵対できないと思ったら、それはティステの覚悟と意志を信じてあげられなかったということです。たとえ意志を信じたしても、試みさえせずにあんな方法を取ったのは能力を信じられなかったという意味ですの」
心であれ能力であれ。どちらにしても信じてくれなかったというのは侮辱だった。それがパメラの怒りの最大の原因だった。
愛? 裏事情? 関係ない。全然関係ない。結局真実は一つだけだ。彼らはティステの無実を知りながら殺した。世の中が記憶する結果はその裏切りだけ。結局この世には結果だけが残るのだ。
「愛してはいませんでした。……前世の私は愛というものを正しく理解し経験したことはありませんでした。けれど婚約者として、そして未来の王妃として常に尽力していたのに……結局ゴミのように切り捨てるほどに過ぎなかったってことでしょう」
「いいえ、足りなかったのはパメラ様のご努力ではありません。陛下のご考慮とご信頼が足りなかっただけです」
アレクシスは断固として言った。
パメラの視線に驚きが混ざり合った。
アレクシスの断固たる口調と目は単なる慰めのようではなかった。彼がどれほど共感するかは分からないが、少なくとも共感であれ否定であれ軽い気持ちで決める人ではない。パメラは彼にその程度の信頼を抱いていた。
アレクシスは真剣な表情と口調で続けた。
「もっと良い方法があったかどうかはわかりません。ひょっとしたらそれが被害を最低限に抑える最善の方法だったのかもしれません。ですが罪のない人の命を代価にする方法は最善であっても正しい方法にはなれません」
「……ちょっと意外ですわ。騎士見習いの貴方なら父上のやり方をある程度理解してくれると思っていたのに」
「効果については理解しています。ですがそれが正しい方法であるかどうかは別の問題です。パメラ様のおっしゃる通り、被害者が加害者の事情に配慮してくれる理由なんてありません」
もちろん、アディオンが軽い気持ちで決めたわけではなかった。彼は参謀たちと一緒に他の方法を数え切れないほど探したが、それらの効果が不十分であるしかない理由があった。それほどテリベル公爵の勢力掌握の手腕がすごかった。
将来、国の責任を負う王子としては被害を最低化するために必要な犠牲を決断する心構えも必要だろう。
だがアディオンはティステの人柄だけでなく能力を大いに認めながらも、ティステを犠牲にするという方法に埋没していざティステの能力を借りるという発想を思い出せなかった。アレクシスはそれだけでも大きな間違いだと思った。
アレクシスがそれを伝えるとパメラは頭を下げた。
アレクシスが静かに待っている間、パメラは黙って唇をかんだ。それから突然アレクシスの方に足を動かした。「パメラ様?」と呼ぶ声が聞こえたが答えなかった。
何も言わずに動いていたパメラは、そのままアレクシスの胸に額をぶつけた。
アレクシスはもう一度パメラに話しかけようとして、……止まった。
「ありがとう」
小さい声だったが、禁書庫の静けさはその声もよく聞こえるようにした。
もちろん他の音も。
「……」
アレクシスの胸を借りて顔を隠しているパメラからすすり泣く声が聞こえた。押さえつけたような小さなかすかな音だったが、何の音もない禁書庫からはとてもよく聞こえた。
アレクシスが途方に暮れてじっとしている間、その音だけがしばらく静かに鳴り響いた。
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