アディオンの手記
しかし手記はすぐには見つからなかった。
禁書庫は長い歴史ほど収容された禁書が多く、多いだけに広い。パメラが〈瞳の軍勢〉を動員しても一度に見られる領域には限界があった。
しかし妨害のない状況で地道に捜索すれば結局目につくものを発見できるものだ。
「アレクシスさん。見つけたみたいです」
パメラは魔法の瞳が発見した場所に向かった。
禁書庫の監視魔法に見つかる危険のため、魔力で案内することはできなかったが、アレクシスは気配を確認したのかパメラとほぼ同じタイミングでそこに現れた。
アレクシスは到着するとすぐに口を開いた。
「確かに。あれの可能性が非常に高そうです」
パメラが発見したもの。一言で言えば封印されていない本だった。
本棚自体は他のものと同じだった。本棚のいくつかの部分が封印されたのも同じだった。ところがその中の一区画だけが魔法の封印が施されておらず、そこに差し込まれた本はただ一つだけだった。
パメラは他の区画の封印された魔法陣に触れないように注意しながら本を取り出した。
「……どうやらこれが合っているようですわね」
「タイトルのない本ですね。内容を見る前に確認する方法がありますか?」
「まぁ、魔法で内容をあらかじめ確認することくらいはできますけれど……それ以前に見覚えがありますわ。これ、父上が学園に在学中だった頃に使っていた手記なんですの」
アディオンはもともと見聞きしたことをすべて手書きの形で詳しく残すのが好きだった。
今でもパメラは娘として時々そういう姿を見ることがあるから、その習慣は変わらないだろう。
ティステとして記憶する当時のアディオンも同じだった。学園にいる時は手記をいっぱいにして新しく買ったことが多く、たまには手記の内容について討論したりノートを買いに行く時にティステが同行したこともあった。
……婚約者として一種のデートでもあったわね。
そう考えると少し妙な気分になったが、パメラは首を横に振って考えを振り払った。
「これを探しに来たのですが、いざ本当に探すと疑問になりますわね。どうして手記をこんな所に保管したのでしょう?」
「現皇帝の手記です。相当な価値があるでしょう」
「それには私も同意しますけれど、だからといって禁書庫に保管することはよほどでなければないと思いますが。他の手記があるわけでもないと思いますし」
もし他の所に似た手記がまたあるかも知れないから〈瞳の軍勢〉を継続活動させているが、まだ発見されていない。
むしろどんな形で保管されたのか直接確認しただけに、残った場所を確認する速度がさらに速くなった。すでに禁書庫の大部分を確認したほど。それでも見つかっていないから、わずかな残りの本棚に別の手記がある可能性は少ないだろう。
「何であれ内容を見ればわかるでしょう」
パメラはそう言って本を開いた。そして最初のページを読んで頷いた。
「予想通り父上の手記ですわ。時期は前世の私が処刑された年で。ノートの厚さと父上の記録パターンを考えれば……うむ、前世の私が処刑される当日までじゃないでしょうね。その直前くらいに終わりそうですわ」
学園での手記。つまりティステを騙し、リニアと共にティステを裏切った忌まわしい時期の記憶。
カーライルはこれを読んだらパメラが激しい感情を感じるだろうと言った。しかし彼がそんなことを言おうがなかろうが違いはなかっただろう。まだ内容をきちんと確認しなかった今も、もしかしたら前世の濡れ衣と関連した記録が見られるかもしれないと思ったらお腹の中が怒りで沸き上がっていたから。
パメラはゆっくりとページをめくりながら内容を一つ一つ確認した。アレクシスも傍で一緒に見た。
『学園でティステ公女に会った。美しく気品のある彼女が私の婚約者であることがいまだに信じられない。私が彼女に慣れる日は永遠に来ないのではないか』
……なのに。
『優しくて聡明な彼女が未来の妻であることが嬉しい』
『彼女なら私が王位に就いた時も一番良い助力者になってくれるだろう』
『聖女のリニアも言った。私の傍を守ってくれる人はティステ公女以外にはいられないと』
これは何だろう。
ティステに関する話が出る時は必ずアディオン王子の称賛と好感が一緒に出た。しかも聖女リニアは二人の未来を心から祝福していた。何も知らない人が見たら王子と公女のピンク色の恋物語を想像しながら顔を赤らめるほど。
だが……この話の結末が裏切りと処刑だということを、他の誰でもないティステ本人が知っている。
それでもパメラは少し驚いた。ティステがアディオンに抱いた感情はあくまでも人間的な好感だけで、理性的な愛ではなかったから。ところが手記の内容通りならアディオンは次第にティステに惚れていた。そんな彼がなぜ裏切ったのか理解できないほど。
そうだった手記の雰囲気が変わったのは――テリベル公爵の話が出てからだった。
『テリベル公爵が謀反を企てる証拠を確保した』
パメラは眉間にしわを寄せた。
テリベル公爵の反逆。すでに歴史として知っている事実だが、まだ信じがたいという感情が強かった。彼女が覚えているテリベル公爵はいろいろな面で非人間的で権力欲の強い人間ではあったが、露骨に反逆を起こそうとする人ではなかったから。
『王家に不満を持った勢力がテリベル公爵派に合流している』
『彼はイメージが良すぎる』
『中道派が彼の扇動に乗せられている。このままでは危ない』
手記にはアディオン王子が確保した証拠の具体的な話まであった。
しかし……アディオンはずっと希望を捨てなかった。
『ティステは公爵の逆心を知らない』
『公爵は娘の反対を恐れて娘にも逆心を隠した』
『ティステが無関係だという確実な証拠を確保した。彼女は大丈夫だ』
反逆者の娘を妻に迎えることはできないと絶望しながらも、なんとかティステを守るために血眼になった文章。だんだんパメラはこれがアディオンの手記なのか疑問に思った。
そんな時、決定的な局面が近づいた。
『ある日、悪魔のささやきが聞こえてきた』
読んでくださってありがとうございます!
面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!
一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!




