怪しい改良
「禁書庫の魔法は極度に精巧で強力です。ですが隙がないわけじゃありません」
パメラは慎重に魔力を動かし術式を構築しながら、声だけをアレクシスの方へと放った。
「出入り機能が前提になっている以上仕方のないことでしょうね」
「出入り機能? 徹底的に禁止すべきではありませんか?」
帝国法が規定する最高レベルの禁止区域。当然出入りを封鎖すべきだというのがアレクシスの考えだった。
しかしパメラは首を横に振った。
「たとえ数多くの制約と手続きがあったとしても、この国の皇帝は厳然たる適法な過程で禁書庫に入ることができますの。それに禁書庫から物を持ち出すことはほとんどありませんけれども、新しい物を保管することはありますもの。ところで出入りが全く不可能だったら困ることになるでしょう?」
「それはそうですね」
アレクシスも説明を聞いて納得した。
考えてみれば禁書庫に新しい物を追加することは発生するしかない。今この瞬間にも帝国のどこかで禁書に指定されるような物が生産されているかもしれないから。
アレクシスは考え、自らさらに納得し頷いた。
「確かに。そういえば騎士団の任務中、そのような禁止された物品の捜索および押収があります」
「そのような禁止された物品も分類によって様々な処理および封印方法がありますの。そのうち、書籍に分類されるものが禁書庫に保管されています」
新たに発見された禁書を禁書庫に封印するためには、いったん入ることができなければならない。当然だが見落としがちな事実だった。
門を眺めていたアレクシスはふと妙な感じを受けた。パメラが描いていく魔法陣が精巧で一定の形を少しずつ形成するように見えた。
「これはどのような過程ですか?」
「正式に存在する出入手続きを装うことですわ」
アレクシスはその言葉を聞いただけでその概要を理解した。
正当な手続きを通じた出入りのために、門の魔法には開放のための特定の手続きや専用の魔法があるだろう。
門の魔法を強制的に破壊したり突破したりするのではなく、適法な手続きを偽装することで門の魔法を欺くこと。今パメラが今行っている仕事がそれだった。
しかし、パメラが眉をひそめている理由は分からなかった。
「……おかしいですわ」
「何をおっしゃっているのですか?」
「門の魔法は以前より改良されました。けれども……こういう迂回手段を使うにはむしろもっと簡単になったような気がします」
「簡単とは?」
パメラは重々しく頷いた。
ティステだった時代、カーライルと一緒に禁書庫に潜入した時も同じ方法を使った。
当然の話だが、迂回方法などが情報として残っているはずがない。二人は現場で門の魔法をリアルタイムで分析し、それと共にバレないための偽装工作まで並行し、作戦を立てて魔法を構想するのに長い時間をかけた。
潜入に成功したと言うのは簡単だったが、実際に当時は毎日こっそりと訪ねてきて作業をゆっくり進行する方式でほとんど一ヶ月がかかった。おかげで門の魔法の仕組みをほぼ完璧に把握したものの……だからこそ今の状態が納得できなかった。
たとえその発想を実行しようとしても、門の魔法は侮れなかった。術式自体の暗号化水準も非常に高かっただけでなく、一時間ごとにパターンが変わった。何か一つでも間違って触れた瞬間警報が鳴るというオプション付きで。
そのような所をわずか一ヶ月で突破したのはむしろすごいことだと自負するに値することだった。
そんな記憶のあるパメラから見ると、今の門は不自然だった。
「一見にはもっと複雑で隙間が狭くなったようですけれど……短所を補完したふりだけしてそのまま残しておいた部分がありますの」
「どういう意味ですか?」
「かつては術式の暗号パターンの変化が定型化されていました。種類自体はすごく多かったのですけど、結局その多くのパターンを全部覚えちゃったら止める方法がありませんでした。それが以前のここのセキュリティホールでした。今は魔法が改良されたようですけれども、問題があります」
アレクシスは門を見ながら眉をひそめた。
彼の魔法の知識と技量はまだあの複雑な術式の全貌を見抜くほどではない。だが非常に複雑で扱いにくい術式であることは理解できた。
あんな術式に修正を加えようとするなら非常に優れた技量と途方もない時間と努力が必要だろう。
パメラはアレクシスが難度を理解したことを把握して話を続けた。
「今はパターンが完全な無作為に変わりました。覚えるだけじゃ突破することができません。けれど……術式のごく一部だけは昔のパターンがそのまま残っています」
「改良が不完全だということですか?」
「そうですわ。初対面の人なら把握するのが難しいでしょう。むしろほとんどはパターンがランダムですのでもっと難しいかもしれません。でも以前のパターンを覚えている人が見ると、残っているパターンに基づいて全体を逆算することができます」
これでは既存の術式を覚えている人を止めることができない――それがパメラの言いたいことだということを、アレクシスはついに理解した。
もちろん禁書庫への侵入を試みる恐れのない者がそれほどありふれているはずがない。だがティステとカーライルが歴史唯一の事例だったはずがない。
術式を改良した者が単なるバカである可能性はあまりないだろう。これほどの術式を改良するためにはそれだけの知識と技術が必要であり、そのような簡単なことさえ考慮できないほどの者なら明らかに力不足だ。
それがあまりにも不可解だった。
「わざわざ弱点を残した可能性はありませんか?」
アレクシスは話しながらも眉をひそめた。わざわざそんなことをするメリットがないということは言ったアレクシス自身も知っているから。
パメラも眉間にしわを寄せた。
「可能ではあるでしょう。でもあえてそんなことをする理由が見えませんね。でもまぁ、真相がどうであれ……この状態ならカーライルが禁書庫に再び潜入したという話も信憑性があります」
「すでに経験があるなら簡単に侵入できたはずですね」
「そうですわ。以前は二人で協力してからも一ヶ月かかりましたけれど、こんな状態なら……あの時の記憶があるカーライルなら一時間もかからなかったでしょう。今のように」
ガチャッ。
魔法陣が強い光を放った直後、門から音が鳴り響いた。
「開きました。入ってみましょう」
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