小さな結論
「少なくともあの御方が望むことをお手伝いしようという考えはある」
「姫様が望むもの? 何だそれ?」
「……それは言えない」
ロナンは腕を組んで眉をひそめた。しかしアレクシスは彼の不満を知りながらも言えることが何なのか慎重に考えた。
今思う『パメラが望むもの』とは、彼女がティステの転生者として成し遂げようとするもの。その中には復讐も当然含まれている。
彼女の転生ということ自体も信じがたい話であるだけでなく、復讐を助けるというのは結局皇帝への反逆。ロナンにそんなことを話すことはできない。
しかし、そもそも自分がそのような行為を助けようとする心を少しでも抱いたということ自体がアレクシス自身にとって意外でもあった。
「ロナン。お前が見るに俺は騎士としてどうだと思う?」
「は? いきなり何言ってんだ?」
ロナンはそう言いながらもあごに手を当ててアレクシスを真剣に見つめた。
まるでアレクシスの質問に対して今から観察して答えを出すというような姿勢。アレクシスはその見せかけのアクションが少し面白いと思ったが話はしなかった。
ロナンはそれから十秒ほど後で肩をすくめた。
「改めて思ったけど、別に結論は変わらねぇぜ」
「お前がそんなに即興的に人の印象を決める奴じゃないからな」
「まぁそれはいいさ。一応テメェの能力だけはすげぇよ。正直に学年首席であること自体もすへぇけど、最初から飛び級してもおかしくねぇ奴だからなぁ」
能力に対する賞賛は聞き慣れたものなのであまり興味はなかった。
しかし他の部分がアレクシスの注意を引いた。
「能力〝だけは〟?」
「……まぁ、そうだなぁ……」
ロナンは彼らしくなく言葉じりを引き伸ばした。その後は口を閉じて視線までそらした。
今度はアレクシスの方が腕を組んで相手をじっと見つめた。
「何だ?」
「もともとこんな所で話すようなことじゃねぇけどさ」
そしてロナンは指パッチンをした。小さくて隠密な魔法が二人を包んだ。やり取りを隠すための魔法だった。
ロナンの適性は『土』、中でも人形に特化した変種。このような防音魔法を使える適性ではない。
しかし大商会を率いるデリメス子爵の息子である彼は多様な魔道具を持っている。この魔法もそのうちの一つだろう。
「正直テメェ、騎士としてあまり忠誠なタイプじゃねぇって思うぜ。情熱がねぇっていうか」
「強くなろうという努力なら頑張っているが」
「そんな話じゃねぇよ。皇帝陛下への忠誠だって、民を守るだって、名誉を追求するだって、騎士になろうとする奴らにはなりの理由があるぜ。でもテメェはそんな感じがしねぇんだよ。騎士になりてぇというより、騎士になれるからなるって感じだ」
アレクシスは目を少し大きく開けた。
表情の変化が大きいわけではなかったが、その程度の変化もアレクシスにはかなり大きいものだった。それを知っていたので、その姿を見ていたロナンの方がむしろ目を丸くして驚いた。
「……確かに。自覚はなかったがそんな感じだった」
今のアレクシスは騎士団長の養子。騎士団長の実子たち、つまり現在の兄弟姉妹の中にも騎士を目指して努力する子はいる。
そのような環境であるため、アレクシスは騎士と関連したことに接する機会が多い。将来を決めるのにも大きな影響を受けた。
しかし、騎士に憧れたとか騎士として何かを成し遂げたいという願いはなかった。なんだかんだで訓練や実習の機会が何度かあったし、やってみたら才能があった。他にやりたいこともなかったので自然と騎士見習いになっただけ。
一言で言えば慣性だったというか。
アレクシス自身、もともと特別な目標意識がないという自覚はあった。だが振り返ってみれば自ら考えた以上に騎士という目標に意義を置かずに生きた。
「いや、むしろ懐疑心があったのかもしれない」
「は? どういう意味だ?」
「……」
アレクシスは彼としては珍しい苦笑いでごまかした。
彼の兄であるアルラザールは騎士として自分の主を優先した。
帝国騎士団の主人は皇帝だが、騎士が帝国騎士団だけにいるわけではない。アルラザールはもともと卒業後テリベル公爵家の騎士になってティステに仕えていたが、公爵の方針で帝国騎士団に移籍したケースだからだ。
「一生忠誠を捧げても一瞬の過ちで命を落とすことになれば、その忠誠に意味があるだろうか?」
アレクシスの本音が思わず口からこぼれた。
アルラザールは皇帝にも忠誠な騎士だったと聞いたが、ティステを救おうとしたから問答無用で殺された。
アルラザールの生涯は魔族どころか人間の立場としても短かったが、幼いころから騎士として尽力した。その上、学園でアディオン当時王太子の親友でもあった。そんな彼さえ逮捕後の審判でさえない現場での即決処断で死んだ。
アレクシスはそれを直接見たわけではなかったが、実の兄がそのように死んだという話を聞いただけでも考えることがあった。
一方、ロナンは眉間にしわを寄せ、あごに手を当てた。
「ふむ。まぁ報われねぇことはなかなかあるぜ。悔しく死ぬ人もいるし。でも俺はあえて忠誠を尽くす必要はねぇと思うんだぜ」
「俺が言ったことも問題だが、お前の話もかなり問題発言だぞ」
「でも現実がそうだろ? 騎士といっても色とりどりだぜ。もちろん騎士の存在意義は皇帝陛下と民に忠誠を尽くすことだけどな、それが後回しの人もかなりいるって現実が消えるわけじゃねぇから。でもそんな人たちも含めて、騎士の人たちには共通点があると思うんだよ」
「何それ?」
「信念」
ロナンは真剣に指を立てて言った。
まるで真理はただ一つだと言うように。
「信念ってのが大げさすぎなら、こだわりだと言ってもいいぜ。良いことだけでなく悪いこともいくらでも当てはまるだろし。とにかく、この国の騎士は自分が望むのを強く追求する人たちなんだ。だからテメェが何をしてぇか、叶えてぇのか悩んでいるうちに答えが見えるんじゃねぇかなぁ?」
「信念。こだわり。俺が望むもの、か」
アレクシスは手を見下ろしながら呟いた。そして何かを考えて拳を握った。
明確な答えが見えたわけではないが、入り口に足を踏み入れたような気がした。
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