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悩みと決定

「変な人なんですの?」


「距離感がちょっと」


 今度はパメラが苦笑いした。


 彼女はロナンのことをよく知らないが、少しでも直接会った時に感じた。ロナンの性格や距離感がどうなのかを。


 レイナのため息に込められた感情はイライラや不快感ではなかったが、どうも性格があまりよく合うものではないのだろう。


「悪い方じゃないということはわかりますわ。でもあまり遠慮がないと言えるでしょうか? 何年間学園で一緒に学んできた友達と私に対する態度があまり違わないですの。少し息が詰まるほど親しくしているんですよ」


「何か特別なことなどはありませんでしたの?」


「どうでしょうね。少なくともあっちは特に特別な感情などは一つもないようですが。私も正直ちょっと……気が気でなくて」


 レイナはまたため息をついた。しかし、すぐに視線をパメラの方に再び向け、ニヤリと笑った。


「で、話題を変えようと努めているパメラ様? 何度もそのような質問をされるのを見ると、どうも普通の状態じゃないようですけれど?」


「わ、私はごく普通なんですもの」


「胸に手を当てて考えてみてください」


 パメラはしばらく視線を避けていたが、だからといってニヤニヤ笑って見守るレイナの視線から逃げられるわけではなかった。


 結局パメラの方が先に降伏した。


「ふぅ。……レイナさんが見るには私の状態がどうだと思いますの?」


「ふむ。いたずらは十分やったようなので、もうそろそろ真剣に答えてみますわ」


「最初からそうしてほしいんですが」


 レイナはひじを机の上に置き体を前に出した。パメラの顔をのぞき込む目に笑いが止まった。


 嘲笑ではなかった。むしろ温かい笑みだった。ただパメラはそれが訳もなくくすぐったいと感じた。


「実は私もちゃんと恋愛をしたことはないんですけれども。でも紳士の方を愛する少女の姿は結構たくさん見たんですわ。社交界の令嬢であれ、学園で一緒に切磋琢磨する多くの身分の子たちであれ」


「……それで私はどうですの?」


「まぁ、強いて言えば〝そっち〟なのは確かでしょう。少なくとも私の目では。でもどれだけ深いかと聞かれたら……どうでしょう。正直そこまでは私も全然。単純に見知らぬ感情に戸惑うだけかもしれませんから」


 レイナも貴族令嬢として高水準の教育を受けてきただけに言葉遣いは丁寧だが、本質的には十一の子ども。まして本人が初恋を経験したこともないので、そのような感情に対して詳しい診断ができるはずがない。


 レイナ自身もそれをよく知っている。だがそんなわけで〝友達〟の手を振り切るつもりはなかった。


「パメラ様。一応告白をしてみるのはどうでしょうか?」


「いたずらはやめてくださいね」


「いいえ、真剣に言っているんです」


 レイナの目は通りだった。パメラもそれを見て姿勢を正した。


 レイナは机の上に置いてあった本を手に取った。パメラが話しかけるまで読んでいた本だった。


「『自分の中で答えを求められないなら、他人との交流の中で答えを探せ』。この本に出てきた言葉ですわ。かなり気に入りましたけれど、パメラ様はいかがですの?」


「えっと……告白してみて、アレクシスさんの反応を見てみようということですの?」


「その反応に向き合った時、パメラ様ご自身がどう感じるかを見るんですの。さらに、もしその結果として関係が『次のステップ』に進んだら……その関係を続けている間、自ら感じることがあるかもしれませんよ?」


 パメラは唇を固く閉じてしばらく考えた。


 一理はある。……と思った。パメラもそのような方面の経験や知識は浅いので本当に一理あるのか確信はないが、人との間の感情とは交流の中で生まれ確認されるものだから。


 しかし、パメラはその方法を実行することに抵抗があった。


「恥ずかしいんですの?」


「恥ずかしくないと言えば嘘でしょうけれども……」


 パメラは言葉を濁した。レイナはそれを見て首をかしげた。


 まだ自分自身の心に確信もなく、告白という行為が恥ずかしいのも事実。だがそれ以前に気持ちを()()()()()()()が最大の迷いだった。


 単なる皇女なら問題ないだろう。アレクシスは伯爵家の令息であり騎士団長の息子。皇女の相手になるのに十分な資格を備えている。お互いの気持ちはさておき、立場から見て邪魔な部分はない。


 しかし問題はパメラが単なる皇女ではないということだ。


「何か事情があるようですね」


 レイナはパメラの表情と態度を見て何か事情があることを推測した。単なる恥ずかしさ以上の何かが。


 パメラは苦笑いした。


「ごめんなさい。下手には言えない問題ですので……」


「私にも簡単に言えない秘密一つくらいはありますわ。殿下にも当然そういうのが一つくらいはあるでしょう」


「ありがとうございます」


 パメラは微笑みながらも内心考えた。そんな〝人並みの悩み〟だったらどんなに良かっただろうかと。


 パメラはティステの転生者。そして前世の恨みを無視するつもりはない。つまり父親のアディオン皇帝とはいかなる形であれ決着をつけなければならない。


 それがどうなるかはまだパメラ自身も知らない。でも穏やかな形ではないだろう。


 問題はアレクシスとの関係がさらに深まることになれば、必然的にアディオン皇帝との〝決着〟に彼を引き入れることになるということ。


 アレクシスもパメラがティステの生まれ変わりであることを知った。だがだからといって彼を最後まで引き入れることができるかと聞くなら、当然そうはできないと言わざるを得ない。


 自分の心への確信やそれをアレクシスがどう思うか以上に、すべての感情が肯定的だとしてもそれをさらに発展させてもいいかが最大の不安要素だった。


 しかし――だからといって恐れて縮こまっているだけのパメラではない。


「ありがとう。参考にしてみますわ」

読んでくださってありがとうございます!

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