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パメラの感情

 一つの授業が終わった後。


 パメラは机を挟んでレイナと向かい合い、両腕に顔をうずめてうつ伏せになっていた。


 レイナは珍しい姿に苦笑いしたが、一方では当然心配にもなった。


「何かあったんですの?」


「……何かって言えばたくさんのことがありましたわ」


 パメラは顔を上げた。しかし悩みに満ちた表情と重いため息は依然として彼女の気持ちを表わしていた。


 その辺になるとレイナは尋常ではないと思い顔を引き締めた。


「どうしたんですの? 私がお手伝いできることならできるだけお手伝いします」


「……えっと、その」


 パメラはそう言いながらも三度のため息と二度のうつ伏せと長い展転をした。


 ……それを見ていたレイナが内心少し面白いと思ったことを知らないまま、パメラはついにまた口を開いた。


「アレクシスさんのことなんですけど。……」


「もしあの御方に良くないことでも……?」


「私はアレクシスさんをどう思っているのでしょうか?」


「……はい?」


 パメラは言ってからさらにグズグズしながら顔まで赤らめた。


 レイナはその時になってようやく何の状況なのかに気づいた。


「はあぁぁぁああ。心配して損しましたわ」


「レイナさん?」


「結局男女の問題なんでしょう?」


「えっ、男女って……! あまりに露骨な言葉はちょっと……」


 パメラはさらに顔を赤らめ頭を下げた。


 レイナは正直普段のパメラとは違う可愛さがあると思ったが、今はそれよりも言いたいことを言うのが先だった。


「よく分からなければ、とりあえず告白でもしてみましょう。私は貴方を愛しています~とか言ってみたら自ら感じることがあるかも知れませんよ?」


「あ、愛ッ……!? 待ってください、まだそんなのじゃ!」


「何を子どものように恥ずかしがっているんですの。普段は上品なふりいっぱいでしょう」


 レイナは両手を広げて肩をすくめた。


 パメラはその姿を見ると少し悔しくて頬を膨らませた。


「そう言うレイナさんはそんなことに詳しいんですの?」


「ふふん、当たり前ですわ。私には数多くの師匠がありますもの!」


「師匠?」


 パメラは首をかしげたが、すぐに何かを思い出して顔を固めた。


 普段レイナは本をたくさん読む方だ。友達と話すのも好きだが、どんな場所でも暇さえあれば本を開くほど。


 それらの本の中には有益で実用的なものもあるが、娯楽百パーセントの本があることもよく知っていた。


「まさかその師匠って……先日おすすめした恋愛小説などですの?」


「あら、名残惜しい表現ですわね。初々しい恋人の心理をリアルに描き出したと評判の名作ですもの」


 レイナは誇らしげに胸を張って言った。


 わざと上品なふりをしているが、結局本質的には年齢に相応しい感想と自信に過ぎない言葉。いつものパメラなら、前世の記憶を思い出してからめっきり精神年齢が伸びた気分になってからは嬉しそうにそれを見つめていたはずだが……今だけは自分のことで精一杯だった。


 パメラは言いたいことがとても多かったが、まずはそのすべてをため息に乗せて流した。


 もちろん何も言わないつもりはなかったが。


「意外と恋に夢多き少女だったんですね?」


「あら。夢を見るのも難しい立場だから仕方ないじゃないでしょう」


「でもレイナさんはまだ婚約者がいないんでしょう。希望はあると思いますよ」


 この国の貴族は幼くして政略結婚が決まる場合もあるが、アルトナイス学園という社交の舞台が存在するだけにわざと婚約をしない場合も多い。学園で強力な縁に出会うかもしれないから。


 もちろん裏では有力一族の令嬢令息を捕らえるためにあらゆることが起こるが、それは別の話。


「それで? まだそんなことじゃなければ、パメラ様の気持ちはどうですの?」


「……それは」


 パメラはストレートな質問に向き合ってまた視線をそらした。


 しかし、いつまでもこのままでいるわけにはいかない。そもそもパメラの方が先に相談を要請した立場でもあるし。


 パメラは決意を新たにした。


「どうやら……こんな気持ちは初めてですから」


「ドキドキするんですの?」


「だから言葉を! ……そんな感じですわ」


 今日は普段の自分らしくない行動をしたという自覚はあった。おそらくそれもこの感情のせいだろう――そこまではパメラ自身も簡単に考えることができたが、その感情にどう向き合うべきかは分からなかった。


 前世の年を今の年に加算するならもう彼女は三十に達したも同然だが、その歳月を通じてもこんな感情は初めてだから。その点では目の前のレイナと比べても特に良いことはない。


「きっかけはありましたの?」


 レイナは興味津々な表情で尋ねた。普段からそういう内容の小説をよく見るだけに、こういう話題に興味があるのだろう。


 パメラは首を横に振った。


「いいえ。正直私もよくわかりません。何かはっきりしたきっかけがあったのかはよく分かりません」


「へえ。つまり自然に愛に溺れるようになったってことですわね?」


「だ、だからさっきから表現が露骨すぎるんですよ……!」


 パメラは横目であたりを見回した。皇女と侯爵令嬢のやり取りに興味を示す生徒はかなり多かった。


 しかし、レイナはそのようなパメラに向かって苦笑いを放った。


「密かに防音結界を開いておきながら何をおっしゃってるんですの」


「でももしやのことがありますもの」


「まぁ、こんなに恥ずかしがるパメラ様を直観して楽しめるということだけでも結構特権意識が出てくるので私はいいんですけれども」


 レイナがニヤニヤしながら話すと、パメラは頬を膨らませた。


 同い年のくせに、前世の年齢まで含めると年下のくせに余裕を持ってからかうなんて、パメラは子どものような悔しさを感じた。


「そう言うレイナさんはデリメス子爵令息とどうですの? ぴったりくっついていると聞いたんですけれども」


「……あ――あの人のことですね」


 レイナは微妙な表情になった。


 何か気にかかることがあるという感じだったが、パメラ自身のような感情という感じはなかった。どこか呆れたような苦笑いに近いというか。だからといって嫌悪する感じではなかったが。


 レイナはため息をついて肩をすくめた。


「正直呆れましたわ」

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