ハゴールとアントシオ
「間違った言葉ではないが、貴様でなければ簡単には言えない言葉だな」
アントシオはハゴールの後ろに立っている死んだ目の群れを睨みながら言った。ハゴールはその視線を直接には受けなかったが、まるでそれが自分に注がれているように首をすくめた。
「実際に僕の使える人間なんて、足に蹴られる石ころより多いからねぇ。一人の空白を百人で埋めるなんて、僕には息をするのと別に違わないよ」
「能力の乱用にもほどがあるものよ」
「この程度はまだ乱用なんかじゃないよ」
ハゴールはふと窓の外を見て指パッチンをした。通りかかったスラム街の住民の眼差しが急激に死んで、ゆっくりとした足取りで建物の中に入ってきた。彼はハゴールの後ろに並ぶ死んだ目の群れに合流し、黙って立っていた。
アントシオはそれを見てさらに不愉快そうに眉をひそめた。
「こんなところで人間収集か。『精神操作』を貴様のように活用するのは見苦しい」
『精神操作』――生物の精神に関わる魔法全般を網羅する強力な適性。物理的な力はほとんどないが、魔法の才能が優れた者なら文字通り人を自分の手足のように自由自在に操ることさえ可能だ。
そしてハゴールはその才能を過度に持って生まれた存在だった。
「嫌でも役に立つなら取引は続けるんじゃない? あんたの力だけじゃテリベルの力を受け継ぐなんて不可能だからねぇ」
アントシオは舌打ちをしながらも否定はしなかった。
アントシオ男爵――もともとテリベル公爵家の騎士だった男。公爵の反乱に参加したのは公爵の強要によるものだったという名目、そして隠密な司法取引を通じて反乱以後も地位を守った。
しかし、ハゴールは彼が公爵の強要などを受けたのではないことを知っていた。
「あんたも本当にすごいね。テリベル公爵の派閥では有力な立場でもなかったんじゃない? でも今は派閥の残党を全部吸収するなんて」
「吸収したと言うほどの奴らが残ってもいなかったぞ。事実上私が唯一のものだった。だから私が乗り出してあの御方の遺産を収拾し、あの御方の栄光を取り戻さなければならないのだ」
「へえ。頑張ってね」
ハゴールはニッコリ笑った。しかし心の中では全く違う意味で笑っていた。
遺産を収めるとか栄光を取り戻すとか言っているが、本心はただテリベルが消えた権力の空席を占めようとする欲望だけ。当初、彼が無事に地位を守り抜いたのは自分の安危のためにテリベル公爵派の残党を大量に売り渡したおかげだった。
彼が本当に大義としてテリベル公爵を考えているなら、自分自身のために仲間を売り渡すようなことはしなかっただろう――というのがハゴールの考えであり、実際にそうだろうと確信していた。
一方、アントシオも疑いと不快感に満ちた目でハゴールを見ていた。
アントシオ自身に協力する主体はアルニム侯爵であり、ハゴールはただ侯爵の息子として彼を代理するに過ぎない立場。最初は自分の意思とは関係なく父親に操られるのではないかと思ったこともあった。
だがハゴールが能力を活用する姿や仕事に対する態度を見れば不快極まりなかった。アントシオ自身、自ら善人だと自負できない人間だという自覚はあるが、あんなに自分の好きなように人を操るのを楽しむほど腐った人間ではないから。
ハゴールとの関係はあくまでもアントシオ男爵としてアルニム侯爵家との取引関係。役に立つ限り協力し合うだけだと、アントシオは心の中で一線を引いた。多分ハゴールやアルニム侯爵も同じ考えだと推察しながら。
その時、ハゴールがふとニヤリと笑った。
「そう思っていれば何を考えているのか気になるねぇ。残念だねぇ、あんたには僕の『精神操作』が通じなくて」
「私を勝手に操って取引を無視して思い通りにできないのが残念だ、と言い間違えたのではないか?」
「いったい僕を何だと思っているんだ? そんなつまらないことばかりするわけないじゃん」
「つまらない?」
「そう、つまらない」
ハゴールの笑顔は表向きは無邪気に見えた。何も知らない人が見たらその可愛さと純粋さに騙されるだろう。
だが、その微笑の下に敷かれた感情が幼い子どもの茶目っ気と純真さなどではないということを、アントシオはすでに知っていた。
「アントシオ男爵家と協業するのは父上の決断だけど。こうやって直接出てきてあんたと話をする役割を引き受けたのは僕の意思だよ」
「なぜだ?」
「僕の魔法が通じない方がもっと面白いから。ここのバカたちのように僕の思い通りに操縦できる奴らは本当つまらないんだ。その気になれば頭の中を探ってベッドの下に何を隠したのかも分かるから。楽だけど面白くはないじゃない?」
ハゴールは話している途中に何かを思い出したのか、楽しんでいた顔が一変して眉をひそめながらイライラを示した。
「……権力と地位に目がくらみ、息子の力を勝手に誤用する父上にはうんざりだけど。だから僕の個人的な楽しみでも持ってなきゃ収支が合わないじゃん」
「……貴様にもそれなりの苦労はあるらしいな。まぁ関係ない。とにかく貴様の協力は私に役に立つから」
「あんたも同じだよ。父上はこの協力関係に満足しているんだ。僕も面白くて好きだし」
ハゴールは手を差し出して握手を求めた。しかしアントシオはその手を眺めるだけで、取ってはしなかった。
するとハゴールは苦笑いした。
「なに? 接触で精神を操作する魔法でも使うかと思った?」
「実際にそういう部類は支配力がもっと強い。貴様のような子どもの魔法にやられない自信はあるが、気をつけて悪いことはない」
明白な疑いだったが、ハゴールは不快ではなかった。むしろ今すぐにでも爆笑しそうなことを必死に我慢する表情だった。
「まったく……面白いねぇ。その程度の疑いはしてこそ相手にする楽しさが出る」
「……変な奴だ」
「お互いさまだよ。それじゃ、次のことなんだけど――」
ハゴールは楽しそうに笑いながら、アントシオは眉をひそめながら今後のことを話し合う。
カーライルを失ったのは一種の失敗だったが、二人の態度はいつもと同じだった。
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