表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/95

不純な話

 いろいろな〝説得〟があったが、結局アレクシスを処罰することはなくなった。そもそもパメラとしては自分の突発行動で怪我をしたのだから、アレクシスを処罰する気もなかった。


 ベインは少し弱々しく微笑んだ。


「姉君はそんな御方でしたね。……そんな姉君を余計に敵視したのが恥ずかしいだけです」


「子どもは周りの意見に流されやすいものだから」


「それは年が三倍くらい多くなった後におっしゃることだと思うのですが。今でも姉君も俺も客観的な基準では子どもなのですよ」


「えっと……そうね」


 パメラは苦笑いを浮かべながら感情をごまかした。


 もともと早熟だという話をよく聞いていた彼女だったが、ティステの記憶を思い出し始めてからは自らも自覚するほど年齢に合わない言動が増えた。


 記憶を完全に自覚してからはその傾向がさらに激しくなったのだろうか――危うくそんな思いをあらわにしてしまうところだったが、ベインの前では必死に我慢した。


 ベインにはティステの記憶について話さなかったし……()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 どうせベインの前では他に言うこともある。


「ベイン。皇城でカーライル先生によく会ったの?」


「姉君と同じでしょう。プライベートで顔を合わせたことはありませんが、俺も歴史担当の家庭教師は彼でした。定期的に会うしかない状況でした。それより姉君は大丈夫ですか?」


「何が?」


「かの者が姉君にも何かしなかったのか心配です」


 ベインはパメラの手を取って真剣な表情で彼女を見た。


 パメラはベインが自分を心配してくれる姿がとてもありがたかったが、大丈夫だという確答で弟の心配をなくすことができるということがもっと嬉しくて明るく笑った。


「大丈夫よ。私自身も確認したし、帰ってきた後に皇居の魔法使い団に頼んで精密検査を受けたのよ。カーライル先生が皇居の精鋭魔法使い団を圧倒するほどの実力者でなければ大丈夫よ」


 そもそもカーライルがその程度の実力者だったら、いくらパメラが万能の天才ティステの能力と経験を受け継いだとしても一対一で倒すことはできなかっただろう。


 ティステの記憶について知らないベインも、パメラがカーライルを一対一で勝ったことは知っている。だからそれ以上心配しなかった。


 表情でそれを確認し、パメラは今の最も重要な話を切り出した。


「ベイン。貴方の方向性を操っていた者たちについて覚えていることを言ってくれる? 可能な限りすべて」


「姉君を悪く言った者たちのことですか?」


「ええ。もちろん単純に言葉で私を牽制しようとした者たちを断罪するつもりはないわ。そんな()()()()()に関与する立場じゃないから。けれど、カーライル先生のように隠密な手段で貴方を操縦しようとした者が他にいるなら見過ごすことはできないわよ」


 そもそも思考誘導で他人を操るのは平凡に犯罪だ。その対象が皇族ならなおさら。


 あらゆる勢力が絡んだ政治()()()()()問題ならば、一介の皇女であるパメラが介入して解決できる問題ではない。しかし皇族を操るという重罪なら話が違う。


 もちろん彼らもバカではないから、ベインが明らかに分かるような方法を使ってはいないだろう。だが彼の周りをうろついていた者たちがどんな意図を持っていたのかを見るだけでも、ある程度の手がかりにはなるだろう。


 ベインもそれを理解して頷いた。


「わかりました。まずは――」




 ***




 ハゴール・リーディム・アルニム。


 テリベル公爵家の没落以後、急激に勢いを増したアルニム侯爵家の唯一の後継者だが、彼の去就は立場に相応しくなく自由だ。


 誰にとっても危険で、貴族にとっては特に危険かもしれないスラム街の裏通りにも自由に出入りするほど。


「毎度こんな場所を選ぶとは、物怖を知らない小僧だな」


「何言ってるんだ。こういう場所こそこんな密談を交わすのに一番安全な場所だよ」


 立っている男の言葉に、ハゴールは手を振りながら笑った。


 金髪と紫の目が印象的な美少年。息が詰まるほど美しいが、パメラと同い年の十一才にしてはかなり小さかった。せいぜい八才くらいに見えるだろう。


 そのため外見だけは可愛くて天真爛漫な印象だったが、微笑に込められた茶目っ気の悪意は子どものそれではなかった。


「意外なことにね、こんな都会のスラム街の奴らは触れてはいけない奴が誰なのかよく分かるものなんだよ。体以外は失うものがない奴らだけど、その体でも守るために必死な奴らだからね。しかもたとえ――」


「貴様を害そうとする者がいるしてもできるはずがない。知っているぞ」


 男はハゴールの後ろを不快だという視線で睨みつけ、吐き出すように話した。


 ハゴールの後ろに立っている男女の種類は多様だった。彼が実家から連れてきた使用人から、一目でこのスラム街の人間だとわかる格好まで。


 それにもかかわらず、彼らの目は皆同じだった。自分の意志とはどう見ても見えない死んだような目。


 ハゴールは楽しそうに笑いながら言った。


「そんな目で見るなよ。いくら僕だってこんな所を安全装置なしに出入りはしないんだよ」


「先ほどと話が違うのじゃないか」


「関係ないじゃん。どっちにしてもあんたはその肉体こそ安全装置そのものだからね。そうじゃない? アントシオ男爵」


 ハゴールはアントシオのしっかりした筋肉と腰の剣を眺めた。彼の実力をよく知っているからこそ言える言葉だった。


 アントシオは鼻で笑った。


「とにかく、ベイン皇子のことはどうなった?」


「もう利用できないだろね。どうやらカーライル経由の思考誘導もバレたみたいだし、そのカーライルも捕まっちゃったからね」


「もったいない男を失ったな」


 アントシオは舌打ちをしたが、ハゴールは相変わらず楽しそうに笑っていた。


「まぁ、本格的な精神操作が通じない者だっただけに力が入ったりはしたね。カーライル一人なら、今後ろに立っているバカたち百人ぐらいの役割をすることができるし。でも言い換えれば、百人くらいいれば代えられる奴にすぎないんだよ」

活動報告でご報告させていただいたのですが、先週末に実家に行って、実家のインターネットの問題で更新できませんでした。

このようなことが再発しないように方法を講じるようにします。

本当に申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ