和解
パメラはつばをごくりと飲み込んだ。
ベインが何を言うか予想していなかった。しかし彼の態度を見ると訳もなく緊張した。ベインがこのような感情を表わしてこのように話すのは初めてなので、何を言うか予想ができなかった。
ベインは何も言わずにパメラの目を凝視して、急に頭を深く下げた。
「ベイン!? 何す……」
「謝罪が誰の義務なのか勘違いしないでください。……謝らなければならないのは俺の方です」
パメラがベインを引っ張ると彼は再び頭を上げた。しかし表情は全く変わっていなかった。
「姉君、その時どうして俺をお助けになったのですか?」
いつのことを言っているのかは聞く必要もなかった。
パメラは理解したが、それを理解したために眉をひそめた。
「私は貴方の姉だよ。弟が危ないから姉が助けてくれたのにそれ以上の理由が必要なの?」
「姉君はいつもそんな御方でした」
ベインは優しく笑った。しかしすぐ笑みを消し、再び真剣な顔でパメラの目をまっすぐ見つめた。
「姉君。俺はいつも姉君に悪く接しました。なのに姉君はそんな俺を責めるばかりで、俺に怒ったことはありませんでした」
「ベイン、貴方が私にそんな態度を取ったのは思考誘導のせいよ。貴方が責任を感じる必要は……」
「姉君」
ベインはパメラの手を強く握った。その感覚とベインの真剣な目がパメラの口を閉じさせた。
「その思考誘導魔法はなかった敵対感を創造したものではないはずです。それくらいの魔法だったらバレたでしょうから。もとからあったものを増幅すること……つまり、俺が姉君に敵愾心を抱いたという意味です」
「……ベイン」
「周りの人たちのせいであれ、つまらない嫉妬のせいであれ……姉君に先にそんな心を抱いたのは俺です。それを利用されただけなので、当然俺が謝らなければならないのです」
ベインはパメラのわき腹に視線を向けた。
討伐実習の際に怪我をした部位はベインの方からは見えない後方だったが、大体その付近だった。
「それでも姉君はそんな俺を救うために怪我をしました」
「大丈夫なのよ。私の魔法できれいに治ったから」
「だからといって痛みが消えるわけではありません。そして下手をして取り返しのつかない傷になったとしたら? 魔法を使う暇もなく即死したら? 姉君はそんな危険を冒したのです。姉君に弟らしいことは何もできなかった俺に」
ベインは手を見下ろした。その日パメラを押そうとして、怪我をした彼女の血でびしょ濡れになった手を。
その時、彼はその手を見て混乱した。そしてさっきのように頭痛を感じ、ある瞬間意識を失った。
その時と少し前の頭痛。今はそれが何なのか分かるような気がした。
「おそらく頭痛は俺の心境の変化と思考誘導が衝突を起こしたせいでしょう。姉君が私を助けてくださった後に……姉君をもう一度見ようとしました。ですがそのたびに頭痛が感じられました。おそらく何年もの間積もった思考誘導が俺の心を取り戻そうとしたからでしょう」
「それは……そうかもしれないわね」
パメラは苦笑いした。
ベインがそう思ってくれたのはありがたい。だが同時に申し訳ない気持ちもあった。単に彼が自分の怪我に責任を感じていたからだけではなかった。
今度はパメラが強い意志を込めた目でベインを凝視した。彼女の手が自分の手を強く握ると驚いたベインはパメラを見た。
「姉君?」
「お詫びを……受け入れるわ。そうしてこそ貴方の心が楽になるだろうし……私も貴方が私の話をずっと聞いてくれなくて正直傷ついたから」
「……誠に申し訳ございません」
「でも、謝るべき方を勘違いしたってことは間違っているの。私も貴方に謝らきゃばならない立場だから」
「いいえ、姉君は何も……」
パメラは何かを言おうとするベインの口に人差し指を当てた。優しい動きだったが、ベインは大きな手で口を塞がれたように何も言えなかった。
「貴方の周りに私を敵対して牽制する人々がいることは知ってたの。でも貴方は私のことをとても好きでいてくれる子だから大丈夫だって思って何もしなかった。その他にも貴方に気を使ってあげられなかったことが多かった。……貴方が私を良くないと思う心を抱いたのには私のせいもあったってことよ」
「俺たちは皇族です。一般的な家族とは違います。姉君が俺のことを気にかけてくれなかったからといって責任を感じる必要はありません」
「その言葉、ありのまま返してあげるわ」
二人はしばらく黙ってお互いを見つめ合った。そうするうちに誰が先にということもなく笑い出した。皇族らしくない、品位や人目など気にせず、心から喜びを表す笑いだった。
「プフッ、ハハハハハハ!」
「フフッ、アハハハハ」
何も言わずに笑ってばかりいて数秒。すぐに静まったが、お互いを眺める顔には依然として笑いが濃く残っていた。
ベインはまず口を開いた。
「もう一度申し訳ありません。そしてありがとうございます」
「お詫びを受け入れるわ。そして私もごめんね。ちゃんと気を遣ってあげられなくて」
「姉君が謝ることではないと思いますが……受け入れます。そうしてこそ姉君も心が楽になりますから」
ベインは微笑んで、突然アレクシスの方に視線を向けた。
「ところで彼には何の処罰も下していないのですか?」
「何の罰? 私が怪我するのを防げなかったこと? 貴方はそれがアレクシスさんのせいだって思うの?」
パメラの顔に一瞬寂しさがよぎったが、ベインはニヤリと笑って当たり前のように話した。
「姉君がそう思わなくても勝手に処罰を求める人ですから。そうじゃないか?」
最後の言葉はアレクシスに向けたものだった。
何も言わずに様子を見ていたアレクシスはこっそりと視線を避けた。実際にベインの言う通りだったから。
しかし、アレクシスが何か言う必要はなかった。
「フフッ。貴方の言う通りよ。そういえば初めて会った時も私が意識を失ったことに対して勝手に処罰を求めていたわ」
「やはり。無駄にまじめなバカのような面があると前から思っていました」
パメラはアレクシスを振り返った。アレクシスは最初はずっと視線を避けたままだったが、パメラがずっと黙って見つめると彼もパメラに再び視線を向けた。
パメラは微笑みながら言った。
「まぁ、実際そうではあったけれど……そっちはうまく解決したわ。いろいろ話があったの」
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