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アレクシスの決定

「パメラ様が自分を傍に置いたのは記憶を刺激するためでした。違いますか?」


「……間違えません」


 そもそもパメラがアレクシスを傍に置こうとしたのは、突然浮上した曖昧で不思議な記憶の手がかりが彼にあると思ったためだった。そして実際、彼はティステの記憶を思い出すのに役立った。


 長く説明しなくても、アレクシス自身もそれを理解していた。だから彼は言った。


「ならば自分の役割は終わりましたから、もう自分がパメラ様の傍にいる理由がなくなったのですね」


「!」


 パメラは顔色を変えてアレクシスを振り返った。しかし彼は依然として何の表情もない顔で正面を凝視するだけだった。


 パメラは胸に手を当てて感情を整理するように深く息を吐いた。それで表情は収まったが、手が少し震えていた。


「アレクシスさんは……辞めたいんですの?」


「わかりません」


 即答だった。


 パメラは目を丸くした。その答え自体も予想できなかったことだったが、あまりにも迷いのない即答だということに一番驚いた。


 アレクシスは内心一人で不安を感じたり驚いたり、本当に忙しい反応だと思った。そしてそれがどこか面白いと感じることに驚いたが、表では出さないまま話を続けた。


「最初は気に入りませんでした。勝手に引き込まれる立場でしたから。正直に申し上げますと迷惑だと思いました」


「し、辛辣ですわね」


「もともと自分は皇族の方々にこんなことは言いません。いくらこのような発言を無礼とは言わない性格を持った御方だとしても。ですがパメラ様にはやることになるのですね」


 その時やっとアレクシスは少し微笑んだ。本当に小さな笑いだったが、彼なりには真心が込められた。


「今でも特にこの関係を維持したいとは思っていません。しかし……やめたいとも思いません。最初は明らかにやめたかったのですから、自分なりには大きな変化でしょう。人から見ると大したことではないでしょうが」


 自分の心を淡々と告げるアレクシスの姿はどこかすっきりしたように見えた。彼の言う通り大したことないのかもしれないが、少なくとも彼自身は何かを感じることがあるのだろう。


 その時やっとアレクシスはパメラを振り返った。


「だから殿下の御意にお任せ致します。自分を巻き込んだことも殿下でしたので、関係を断つこともまた殿下の御意に従うようにしましょう」


「……本当に大丈夫ですの? もし私の傍に残るなら貴方が望む結果になるとは断言できません」


「パメラ様のこだわりに引き込まれたことから、もう自分が望む結果ではありませんでした」


 アレクシスは冗談を言うように軽く言った。


 しかしパメラはそれほど軽く見過ごすことができなかった。今自分の状況が複雑なのは事実だから。彼女自身がカーライルに何と言ったかを考えるとなおさら。


『復讐をしたいなら私に従いなさい。貴方が望むものを見せてあげるから』


 それはカーライルを落ち着かせるための虚言ではなかった。沸き上がる〝ティステ〟の心をありのままに吐き出した言葉だった。


 まだ決定を下していないと言っているが、少なくともやり過ごすつもりはない。皇女として正しくない行為には相応の代価が伴わなければならないと学び、前世の自分がやられたことは明白にそこに属するから。それにやられた当事者として許す気がない。


 アレクシスを引き入れるということは、結局彼が巻き込まれるということ。騎士である彼には望ましくないことが起こる確率が高い。彼の養父である騎士団長に迷惑をかけるかもしれない。


 アレクシスは悩むパメラの表情を見てそっと笑った。


「自分がいる理由がないと言った時は戸惑いながら、いざ傍に残ることは自分に迷惑をかけるとお思いになるのですか?」


「……しょうがないでしょう。人の心というのは思い通りにならないんだもの」


 パメラは頬を膨らませた。


 アレクシスはその頬を指で突いてみたいと思っている自分を不思議に思いながらも、表向きは穏やかに話した。


「パメラ様。自分の兄が誰なのかはご存知でしょう」


「え?」


 パメラは目を丸くした。


 確かに知ってはいる。しかし彼が今さらあんなことを言うのは、単に事実を喚起するためではないだろう。


 今急に今更のようなことを言うのはおそらく――。


「正直、兄の死に大きな感想はありません。自分は覚えてもいない時代に死んで、そんな人がいたなど話で聞いたに過ぎませんから。一生顔を一度も見たことのない兄弟や両親の死に憎悪を感じる人もいるようですが、残念ながら自分の心はそれほど熱くはありません」


「……そうですの。でも……」


「ですが」


 アレクシスの声が低くなった。


 今日にかぎっては初めて聞く冷たい声。その事実よりも、パメラはアレクシスが露骨に感情を露わにしたことに驚いた。


 再び正面を凝視する眼差しは声以上に冷たかった。


「……自分にも立場上、思うことはあれこれありますから。兄の死をそんなことがあったんですか、と笑い飛ばせない立場なのです」


 パメラはそれが何なのか気になったが、あえて尋ねはしなかった。言いたくないことを問い詰める趣味も必要もないから。


 アレクシスは再び微笑んだ。


「ご質問いただけなかったこと、感謝致します。今は申し上げられないことが多いのですが……一つは約束できます。パメラ様がどんな方向を選んでも、少なくとも自分が前を塞ぐことはありませんということ。場合によってはパメラ様に便乗して自分が望むことを成し遂げることもできるでしょうから」


「望むことが何なのか正直気になりますけれど、聞きません。いつか気が向いたら言ってくださいね」


「ありがとうございます。それよりそろそろ到着です」


 パメラは頷いた。


 彼女の次の目的地――ベインのいる部屋のドアを眺めながら。

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