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セイラの心

 パメラ自身もまだその感情についてはきちんと整理できていない。


 恨む気持ちもある。愛する心もある。一般的な家族とは多少違うとしても、アディオンとリニアは人間的に子どもたちを大切にする良い親だった。


 そんな親が〝そんなこと〟をするはずがないという疑い。実感と共に事実であることを強く主張する記憶と怒り。そういうものが入り混じってあまりにも混乱したし――それでもそれなりの結論を出したが、それが何かは言わなかった。


「それは……本当に困りそうですね」


 セイラの言葉にパメラは苦笑いをこらえるように紅茶を一口飲んだ。


「それよりセイラさん。そのゲームのストーリーについてもっと知りたいですわ。私と貴方に関係がありますから、影響を受けるような要素はあらかじめ知っておきたいですの」


「あ、はい」


 セイラはゲームのストーリーと攻略対象者について簡単にまとめて説明してくれた。パメラは唇に手を当てたり頷いたり「ふーん」「へえ」とかの反応を見せながら傾聴したが、最後は眉をひそめた。


「ありがとう。とても役に立ちそうですわ。それにしてもベインが攻略対象者というのはちょっと意外ですわね」


「えっ、そうですか? いつも王子キャラ一人ぐらいは攻略対象者として出る方ですけど……」


「……貴方の前世の常識はまったくわかりませんね」


 パメラは天井に視線を向けたまましばらく物思いにふけった。今話を聞いて気になることがあった。


「セイラさん。ベインが攻略対象者で、貴方が主人公だってことは……ベインが貴方を護衛実習パートナーに選んだことと関係がありますの?」


 その瞬間、セイラの肩が上下するのをパメラははっきりと見た。


 セイラは微笑んでいたが、体の動きが完全に固まった。額から冷や汗まで流れていた。


「セイラさん?」


「あ……えっと、あの、ええっと……関連があるとすれば……あることはあるんですけれども」


 パメラは「あら、〝攻略〟ですの?」みたいなことを言いたかったが、セイラの反応を見てやめた。どう見ても今の話のテーマを愉快に思わない姿だったから。


 しかし、すでに話が出た以上は隠すことができないということはセイラも知っていた。


「……実際、私はあまり関わりたくありませんでした」


「そういえば貴方はベインに対する態度が少しぎこちなかったですわね」


「ベイン殿下に何か問題があるのか。どう解決できるのか。もちろん私は知っていました。けれど……それを解決しようと近づくことはベイン殿下の攻略に関連していますよ」


「あの子を攻略したくなかったってことですの? 貴方はベインがあまり好きじゃなかったのかしら?」


「いいえ。その反対です」


 セイラは眉を垂らしたまま少し悲しそうに笑った。


「ベイン殿下はシリーズをひっくるめて私の最推しキャラでした。序盤の様子はちょっといまいちなんですけど……それを乗り越えて進む姿や終着点が本当に私の好みだったんです」


「あら。なら積極的に攻略した方がいいんじゃないですの?」


「……私は正解を知っているのじゃありません。正解〝しか〟知らないんです。致命的なほどに」


 セイラはため息をついてティーカップを見下ろした。


 紅茶の水面に映ったのは『セイラ』の姿そのもの。自分自身の顔である以前に、前世で見たゲームの主人公の姿でもあった。


 セイラ自身だけではない。パメラもベインもアレクシスも。ゲームに登場した人物なら誰でも、見るたびにゲームの姿と記憶が重なってしまうのだ。


「正直、私がベイン殿下をどう思っているのかは私もよくわかりません。最推しキャラっていってもファンの気持ちであるだけなのに……もう画面の中のキャラじゃないじゃないですか。ところで勝手にゲームの記憶通りに攻略しちゃっても宜しいでしょうか? そんな反則を犯してまで殿下の心を得なきゃならないほど私の心が強いでしょうか?」


「その質問に対する正解は私も知りませんけれども」


 パメラはセイラの顔をまっすぐに見つめながら口を開いた。


 セイラは拳を握って緊張したが、パメラの眼差しは否定的ではなかった。むしろ優しく微笑んでいた。


「そんな悩みができる人が私の弟の恋人になったら、私は反対しないと思いますわ。貴方の気持ちを私が知るはずがないし、どのように結論が出るかは予想がつかないんですけれども……そんな貴方がベインを異性として受け入れるなら、きっとそれだけの悩みと確信があるでしょうから」


「……そうなんですか?」


「ええ。どうか十分に悩んでください。貴方が優しい人だということはすでに知ってますわ。そんな貴方が出す結論はきっと優しくて幸せなことでしょう」


「過大評価がひどすぎて負担ですよ」


 セイラはそう言いながら恥ずかしがりながらも、顔を少し赤くして微笑んだ。パメラはそれを微笑ましく見た。


 しかし、すぐに再び真剣な顔に戻った。


「それにしても、攻略対象者の中にリヴィの協力者がいたって言いましたわね? アルニム侯爵家のハゴールさんでしたか?」


「あ、はい。私の一番大嫌いな攻略対象者でした」


「正直、さっきの説明通りならどうして攻略対象者なのか疑問に思うほどでした」


 ハゴール・リーディム・アルニム。簡単に言えば裏で暗躍しなからあらゆる陰謀をまき散らし、人を勝手に操る黒幕型の悪党だった。


 その悪党を改心させるのがハゴールルートの内容だというが、他の攻略対象者のルートでは悪役として断罪されることさえある男。


「正直改心って言っても、蓋然性もなく強引でした。第一作目のティステ様の処刑もそうでしたし」


「あら? そうなんですの?」


「そりゃそうでしょう、ティステ様は何も間違っていませんよ。それなのに変な言いがかりばかりつけられ、処刑までされました。私がどれほど呆れたか知ってますか? 何度シナリオを罵ったのか……」


 興奮して力説するセイラを、パメラは少し不思議な気分で見つめた。


 確かにティステは濡れ衣を着せられた。その上、その内容はティステとしても想像もできなかった罪名だった。


 セイラが言う乙女ゲームの悪役令嬢は普通、主人公を不法にいじめたり害を及ぼそうとするのが一般的な行動パターンだったというが、ティステの罪目はそのようなものとは格が違った。


 反乱だった。

読んでくださってありがとうございます!

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