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二つの感情

「実はパメラ様もゲームでは重要な役割でした」


「ふむ。もしかして私が『悪役令嬢』でしたの?」


「えっ!?」


 セイラはまたもや大きな声を上げてしまった。


 パメラは条件反射的に音を小さくする魔法を繰り広げたが、その魔法の向こうにもよく聞こえる声を感じて苦笑いした。


「セイラさん、声がすごく大きいですわね。普段はかなり我慢していたようですわ」


「ご、ごめんなさい」


 セイラは顔を赤らめた。しかし恥ずかしさより疑問が勝ったのか、すぐに再びパメラを直視しながら質問を投げかけた。


「と、ところでどうしてお分かりに?」


「分かったというより、ただ投げかけてみただけですの。貴方が話した乙女ゲームの要素の中で、女性の登場人物は主人公と悪役令嬢しかいませんでしたのでもしかしたらって思いましたわ」


「あ……まぁ、悪役令嬢の他にも友達のキャラもいるんですけど……」


 セイラは苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。


 そういえばパメラに説明する時、女性キャラに対する説明は主人公と悪役令嬢のことしかしなかった。そしてこの話の主人公はセイラ自身。すなわちパメラが見るに残った役割は悪役令嬢やモブ程度であり、重要な役割と言えばまず悪役令嬢を思い浮かべるだろう。


 セイラは咳払いをして再び表情を整えた。


「パメラ様は性格も行動も……適性さえも違いました。それで、もしかするとパメラ様も私のように前世の世界から転生した人じゃないかなって思ったんです。その世界にはそんな風に異世界転生する話が多かったんですよ」


「私は目の前の世界で答えを探す話が好きなんですけれども。あえて現実の人を別の世界に送る話なんて、よほど厳しい世界のようですわ」


「あ、あはは……」


「それより適性も違ったんですって?」


「はい。ゲームでパメラ様の適性は『魔剣』だったんです。魔剣にまつわる魔法や剣術がバケモノ……ご、ごめんなさい。すごいレベルでした」


 パメラは眉にしわを寄せた。


 魔法の適性については不明な部分が多い。この世界でもせいぜい世界を治める女神パルマが人間に与えた恩恵という程度の認識がすべてだ。


 パメラは前世の適性を受け継いだが、セイラはそもそもこの世界の人ではない。なのにゲームと同じ『神聖』を授かったという。純粋に学問的な好奇心が感じられる部分だった。


「まぁ、興味深いですけど今急いで議論することじゃありませんね。後で別に研究してみることにしましょう。それより私は悪役令嬢として何をしましたの? 恋敵でしたとか?」


「いいえ、パメラ様は物理的なラスボスでした。ただ……パメラ様がティステ様の生まれ変わりなら、もっと重要なことがあります」


 セイラはしっかりとした姿勢のアレクシスをちらりと見た。彼女の目に悲しみが宿った。


「実はゲームはシリーズでした。私とパメラ様が登場したのは第二作目で……第一作目の悪役令嬢がティステ様でした」


「はあ? じゃあ第一作目の悪役令嬢が死んで第二作目の悪役令嬢に生まれ変わったってことですの?」


 パメラはあきれて思わず声を荒げた。一体何を間違って二度も悪役令嬢として死ぬ運命に生まれたというのか。


 セイラは微妙な悩みの顔で腕を組んだ。


「うーん……実はゲームにはそんな設定はなかったんですよ。そうでなくてもパメラ様が悪役令嬢ということだけでも話題でしたのに、そういう設定まであったらすごく話題になっていたと思います。実際にゲームのパメラ様と今のパメラ様は性格がかなり違うし」


「私が悪役令嬢というだけで話題だった……って。第一作目の主人公が母上だからですの?」


「……はい」


 セイラはまた驚いたが、すでに一度パメラの鋭さを感じたため今回は慌てなかった。


 作品ごとに違うが、悪役令嬢は主人公を妨害して断罪されて追放や処刑などの結末を迎えるのがほとんど。そして普通攻略対象者の婚約者である場合が多く、主人公は結果的に攻略対象者を本来の婚約者から奪う形になる。


 まさに前世のティステが経験したことそのものだった。


「前世の私は……ティステはアディオン王子の婚約者でした。けれどアディオン王子は聖女リニアと共にティステに濡れ衣を着せられて処刑しました。そしてパメラとして生まれ変わってみると、ティステを殺した二人は夫婦になっていました。ティステが悪役令嬢だったら主人公が誰なのか明らかでしょう?」


「それは……そうですよね。それよりパメラ様はすごいです」


「何がですの?」


「前世の婚約者が現世の父親なんでしょう。私なら変な気分になって耐えられなかったと思いますよ」


「え、そっち?」


 別に考えはしなかったが、聞いてみるとそうだった。裏切られて死んだ時点で婚約者とかとうでもいいだろうが、ティステに愛があったなら途方もない混乱を感じただろう。


 だが。


「政略結婚に決まった婚約者だっただけで、特に愛したことはありませんでした。婚約者として真面目に尊重したんですけれども。けれど彼を信じたのは事実だったし……」


 そのため、裏切られた時のショックは激しかった。


 その言葉を飲み込み、パメラはアレクシスを振り返った。


 ティステはすべての人を平等に尊重して優しく接したが、だからこそ特別な誰かはいなかった。それはアレクシスの異母兄であるアルラザール・テルヴァも同じだ。


 しかし、アルラザールはティステの処刑に反発した。単身で処刑場に押し入ったが、現場を守る兵力に結局耐え切れずティステの目の前で殺害されたのだ。


 皮肉なことに、ティステは自分自身が裏切られたことよりも、それが理由で他の人を死なせたことにさらに怒った。


 その感情は今も生々しい。だが、だからといって〝パメラ〟の記憶と感情が消えたわけではなかった。


「正直……セイラさんが言ったような感情じゃありませんけれども、混乱はしますわ。父上と母上は前世の私には敵でしたけれど今の私には愛する両親でもありますの」

読んでくださってありがとうございます!

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