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記憶と結論

「こ、れは……」


 カーライルはぼうっとした顔で呟いた。


 今見えた光景が何を意味するのかは当然知っていた。それが誰がいつ経験したことなのかも。


 何度も想像し、何度も突き止めようとしたあの日の現場の記憶。それを見たこと自体は意外ではあるが驚愕するほどではない。


 問題は感情と状況があまりにも生々しかったことと……視点が()()()ということ、そしてその一人称が誰のものかという点だった。


 パメラは混乱しているカーライルをじっと見つめた。そうするうちに指パッチンをすると、カーライルを拘束した鎖が消えた。


 そうして座り込んだカーライルに目線を合わせ、パメラは訴えるように話した。


「リヴィ。私が何を見せたか分かる?」


「私を……」


 カーライルはまだぼうっとした顔で呟いた。それからちょっと後、手で床をつかむように強く掻いた。爪が剥がれて血が出た。しかしカーライルはそれを全く気にしていなかった。


「私をその名前で呼ぶな!」


 カーライルは手を伸ばしてパメラに飛びかかった。彼の手の中に小さいながらも精巧な魔法陣が描かれた。しかしパメラは迅速な斬撃で魔法陣だけを正確に切り取った。そしてあっという間に戻ってきた剣がカーライルの首に突きつけられた。


「貴方も直感しているじゃない? 私がその記憶を見せた意味が何なのか。なぜその記憶がティステの視点を生々しく見せてくれたのか」


「とんでもない……!」


「もちろん信じがたいことは知ってるわよ。けれど、私が言いたいことはこれだけよ」


 パメラは剣を持たない手を胸に置いた。


 その動作が彼女自身を指す意味ということも、それが何を意味するのかも、カーライルは理解した。理解したからさらに反発した。


「いいえ、聞きません。つまらない妄想なんか!」


「反発するのは知っているからでしょ。私がティステの記憶を完全に持っているということ」


 カーライルの表情は怒りと悲しみで歪んだ。


 さっきからパメラの話し方はティステが生前カーライルに接する時に使ったもの。そして『リヴィ』はティステだけが呼んでいた愛称だった。


 今ではその愛称を知っている人さえ何人か残っていない上に、その何人かは全員カーライルの同調者たち。皇族のパメラに教えるはずがなく、そうでなくてもあえて教える理由がない。


 カーライルは拳を握りしめて声を荒げた。


「それでどうしろと言うのですか? 死んだ人がまた戻ってきたりしたというのですか? それは不可能だ! 亡者は戻れない! それができたらと何度も何度も願ったのか貴方がわかりますか!?」


「知らないわ。私もそんなことなんてできないって思っていたの。直接経験する前まではね」


「ふざけんな! あの御方を……ティステ様を殺した奴らの娘があの御方の死さえ汚すのか!」


 カーライルは再び魔法を使った。しかし今回もパメラの斬撃が魔法陣をきれいに切った。それだけでなく、今回は魔力を封印する傷痕がカーライルの手に刻まれた。


 パメラは少し悲しそうに眉を垂らしたが、話し方は依然として断固としていてためらいがなかった。


「簡単に信じることはできないでしょ。今すぐ信じてちょうだいって言うつもりもないわ。けれど私にはこれが現実。私は死んで……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってこと」


 そうだ。ティステがパメラにとして生まれ変わったというのはそのような意味だった。


 ティステを死に追いやったのは現皇帝のアディオンと皇后のリニア。すなわち、パメラは前世の自分を謀略で殺した者たちの娘として生まれたのだ。


 パメラはその事実を非常に重く冷静に受け入れた。


「リヴィ。貴方は私を……〝ティステ〟にとてもよく付いてくれた子だったわね。貴方を置いて行っちゃってごめんね。こんな風に憎しみしか考えられない境遇にさせてごめんね」


「黙れ!! これ以上あの御方を――」


「けれど、貴方の望みが私の復讐であれば。主導権が誰にあるのか勘違いしないで」


「……何だと?」


 カーライルは目を丸くした。そんな彼をパメラの視線が照らした。


 妙に冷たい敵意をいだいた眼差し。カーライルはそれが自分に向けられたものではないことに気づいた。それよりもっと古くて巨大な……今この場にいない者への感情だった。


 ティステの記憶を初めて思い出した時は曖昧で不確実だった。しかし父親に似た弟であるベインが聖女と一緒にいる姿を見たり、アルラザールの弟であるアレクシスと一緒にいるなど……いろいろ見ながらティステの記憶をどんどん刺激し、先日ティステの記憶を完全に〝取り戻した〟。


 記憶の実感。くっきりした感情。パメラはそれが単なる他人の記憶ではなく、自分自身の過去であることを本能的に確信して受け入れた。


 自分の親が自分の仇敵だという事実も。


「リヴィ。貴方はティステを敬うだけの第三者だった。復讐なんて言うには曖昧な位置なんでしょ」


「だからといって……!」


「この世で最も正当な復讐の権利を持つ者は――復讐すべきことをやられた当事者なのよ」


 カーライルは息を呑んだ。


 怒りで興奮したとはいえ耳は開いており、パメラの言葉を冷静に受け入れる自分があった。だからこそさらに激昂してパメラの言葉を覆い隠そうとしたのだが、今になって初めて彼女の意図をぼんやりと悟った。


 パメラはそれを感じて微笑んだ。暖かさなど微塵もない冷笑だった。


「復讐をしたいなら私に従いなさい。貴方が望むものを見せてあげるから」


 カーライルは眉をひそめて黙った。


 パメラはじっと待った。カーライルが十分に悩み、自分なりの結論を下すまで。


「……信じられません」


 約十分悩んだ末、最初に出た言葉はそれだった。


 しかし、カーライルの顔にはまだ悩みと葛藤の気配が歴然としていた。パメラの言葉を純粋に否定できないのだろう。


 パメラはそれを見抜いて微笑んだ。


「まぁいいわ。どうせすぐ分かるはずだから。……ただし、やらかしたことをそのまま見過ごすことはできないわよ。一応投獄くらいは覚悟しなさい」


 そしてパメラは結界を解除した。


 悟ったことと得たこと。今日はそれを整理するだけでも忙しいと思いながら。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

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