魔法と言葉
忌まわしがる人が多いので普段は秘密なのですが、と言葉を結ぶアレクシスの前で、セイラは何か妙に納得したような顔で頷いた。
アレクシスはそれが自分の能力に対する納得だと判断した。
「とにかく、このままにしておけばスリーブロスを始末することはできます。ただし時間がかかるでしょうし、その間自分は動くことができません。だから聖女様がパメラ様を助けてください」
アレクシスはパメラの方を見た。
速いながらも精巧で複雑な魔法の応酬。アレクシス自身はあの戦いに正面から挑戦できない。いや、学園の誰もそんなことはできないだろう。だが傍で助けることなら可能であり、『神聖』のセイラはそのような助けに最も優れた人材だ。
しかし、セイラは首を横に振った。
「いいえ、アレクシス様がパメラ様のところに行ってください。スリーブロスは私が担当します。今パメラ様に必要なのはパメラ様の魔法を増幅するよりも、拮抗する状況を人の介入で撹乱することだと思うんですよ」
「ですが聖女様の能力では……」
「大丈夫です。私の力でスリーブロスを制圧して始末することは不可能ですけれど、人の魔法を受け継いで維持することは可能ですから」
セイラはその言葉を証明するかのように魔法を発動した。
――神聖魔法〈永遠の形状〉
セイラの後ろに半透明で巨大な女神の形状のようなものが現れた。それがスリーブロスの方へと手を伸ばすと、スリーブロスを制圧して死に導いている魔法に変化が起きた。
「これは?」
「この魔法が維持される間、現象を無限に繰り返す魔法です。他人の魔法をそのまま維持する時にも有用ですよ」
「『神聖』の適性にこんな力がありましたか?」
「女神のマイナコピーですからね。保護とバックアップだけがすべてじゃありませんよ」
セイラは微笑みながらそう言った。
アレクシスは納得し、すぐに判断を下した。
「ありがとうございます。では失礼します」
アレクシスは倒れているベインの状態をちらっと確認した後、全力でパメラの方へと走った。
セイラが女神〝様〟と呼ばなかったことの違和感には気づかなかった。
***
セイラがアレクシスを送るの少し前。
アレクシスとセイラの主義がしばらくスリーブロスに向かっていた瞬間、カーライルの魔法がパメラを襲った。
「これでおしまいです」
パメラの魔法を突破した数十の魔力線が一斉にパメラに降り注いだ。爆発による煙がパメラの姿を完全に覆い隠した。
「殺すつもりはないのですが、四肢元気にしておくつもりもありません。手足くらいは……」
「あら。見なかったうちに速断する癖までできたわね。もどかしいほど慎重だったリヴィはどこに行ったの?」
煙の中から聞こえてきた声は何事もなかったかのように平然としていた。カーライルはその事実に眉をひそめ、すぐに魔法陣を描いた。
だが彼の魔法が発動するより、パメラが煙を取り除くのが早かった。
――用兵魔法〈将軍〉
「まだ実戦で使うには早い魔法だけれど、仕方ないわ」
突風が煙を追い出した後。現れたパメラの姿はさっきとは違った。
傷はなかった。しかしさっきまではなかった赤いコートをマントのように引っかけており、頭には赤い将校帽がかぶせてあった。手に持った魔剣は指揮官を象徴するように華やかな金色の柄を誇った。
「その様子は……戦うための魔法ですね。やはり貴方はティステ様とは違う」
パメラは勝手に敵意を燃やすカーライルを見てため息をついた。
「人を勝手に判断する癖はなかったと思うけれど。悪い習慣ができたわね」
「……さっきからその言い方は一体何ですか?」
「何が?」
カーライルは魔法を準備することさえ忘れて眉をひそめた。
「同じ『万能』だからといって、ティステ様のような人になれると思うのですか? それともあの御方の口調で私を挑発するのですか?」
パメラはクスッと笑った。
失笑のようでもあり、どこか嘲笑のようでもある微笑だった。そこに込められた心が何なのかカーライルが知ることはできないが、彼はそれを嘲笑として受け入れた。
いや、実は間違った考えではなかった。
「そんな質問をするなら、もっと根本的なことを聞くべきじゃないかしら?」
「どういう意味ですか?」
「どうしてティステの話し方と貴方の昔の愛称を知っているのか。そっちから聞いてみるのが優先だと思うわよ?」
パメラがそう言った瞬間、カーライルの横と後ろから魔法の剣が現れた。
「!?」
カーライルは反射的に前に避けた。その直後、目の前にパメラが現れた。しかし突然の奇襲にもかかわらず、カーライルの反応は速かった。
――変化魔法〈溶岩の風〉
周囲の空気が溶岩の刃に変わった。パメラはそれを氷の刃に変えて送り返した。カーライルはそれを再び鋼の鳥に変化させた。
鋼鉄の鳥の群れがパメラに殺到した瞬間、彼女の傍に魔法の剣が八本現れた。
――用兵魔法〈近衛隊〉
自由に動く剣が鋼鉄の鳥をすべて切り取った。それと同時にパメラは手に持った剣を直接振り回した。
カーライルは怒りの形で叫んだ。
「実に野蛮ですね!」
カーライルは魔法陣が描かれた手のひらで剣を防いだ。同じ魔法陣が〈近衛隊〉の剣を防御した。魔法陣の力が剣を侵食しようとしたが、むしろパメラの魔力が魔法陣を逆に蚕食した。
「くっ!?」
カーライルは慌てて体を後にした。彼が踏んだ地からパメラの罠の魔法陣が現れた。しかしカーライルの足に浮かんだ魔法陣がそれを壊した。
カーライルは追撃に備えて魔法陣を描いたが、パメラはその気配がなかった。少なくとも魔法では。
「貴方がティステについてどんな幻想を持っているかはよくわかったわ。貴方が何のためにこんなことをしているのかも、もちろん知っているわよ」
「さっきから一体何を知っていると……」
「貴方こそ何を知ってるの? ティステの処刑の場に立ち会うことすらできなかったくせに」
「……ナニ?」
その瞬間、カーライルの中で何かが確実に切れた。
しかしパメラはそれ以上の厳しい眼差しで彼を睨みつけた。
「ティステが死んでいく中で何を考えたのか。裏切り者たちにどんな呪いをかけたのか。知りもしないくせによくも復讐を言うね」
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