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攻撃と危機

「消耗戦になれば私たちが不利ですわよ。一気に勝負をかけます。ベイン、最大火力の魔法を用意してちょうだい」


「俺に指示しな……」


「余計な言葉で時間を無駄にしたらさっきよりもっと強く殴るわ」


 パメラが強硬に話すとベインは顔を歪めながらも魔法陣を描き始めた。セイラはすぐにベインをバックアップした。


 それを確認した後、パメラはアレクシスと目配せをした。頷いたアレクシスが前に飛び出した。


 ――氷結魔法〈ラナサスの足かせ〉


 魂まで凍りつくような冷気と氷がスリーブロスの足を完全に覆った。さっきよりももっと強い拘束だった。同時にアレクシスは巨大な氷の剣を作り、スリーブロスの脇腹に向かって切り下ろした。


 しかし、魔力で強化された甲殻が氷剣を逆に破壊した。そしてスリーブロスの敵意に満ちた目がアレクシスに向かった。


「そうだ、来い」


 スリーブロスは拘束された足の代わりに無数の石の魔弾をアレクシスに撃った。アレクシスは左手に氷の剣を作り、右手の剣と共に嵐のように振り回した。石の弾幕は一発もアレクシスの斬撃を突破できなかった。


 そのように注意を引いているうちに、パメラは側面から巨大な魔法陣を完成した。


「クルァッ!?」


 突然膨らんだ魔力の気配がスリーブロスの注意を引いた。パメラはそれを見て微笑んだ。


 魔法陣はただ大きな気配を放つだけの虚勢、スリーブロスの注意を引くためのダミーに過ぎない。同時に本当の目的を隠すための目隠しだ。


 その本当の目的の準備はすぐに終わった。


 ――砲撃魔法〈アフラナスの神槍〉


 ベインの魔法の中で二番目に強いものであり()()()()最強。さっきは照準がわずかに外れていたそれを、今度こそ心臓を確実に狙って放つ。


 危機を感じたスリーブロスが激しく抵抗した。しかしアレクシスが全力を注ぎ込んだ〈ラナサスの足かせ〉は堅固だった。そしてパメラの魔法がスリーブロスの魔力の流れを妨害した。


「姉君の意に従うのは気に入らないが……」


 巨大な爆炎の槍が放たれた。


 今度は心臓に向かって一直線に。スリーブロスは避けたり魔法で防ぐことが不可能だということに気づき、自分の甲殻にすべての魔力を集中した。ベインの魔力とスリーブロスの甲殻が激しく衝突して破壊の余波を散らした。


 周りのすべてを燃やし、溶かした激突の結果――スリーブロスは死ななかった。頭と胸のあたりの甲殻が完全に溶けてしまい、重傷と言えるほどのダメージだったが、その巨体なら死なずに耐えられるほどの被害に過ぎなかった。


「ちっ、やっぱり足りないわね」


 パメラは舌打ちをしながら素早く動いた。


 一撃で殺せない可能性はすでに考えておいた。当然、その場合のための対策も予め立てておいた。


 そのために剣に大量の魔力を集約したが……それを放つことはなかった。


「え?」


 パメラが剣を振り回す直前、突然突進する魔力があった。パメラはすぐにそれが何であるかを知った。


「ベイン!?」


 ――砲撃魔法〈天罰の流星〉


 恐ろしい魔法がパメラの頭上を切った。ベインの砲撃魔法だったが、問題は砲弾として使われた物体だった。


 剣を前に突き出したベイン自身だった。


〈天罰の流星〉の威力は魔法自体の魔力の他にも、使われた物体の質量と魔力量に影響を受ける。そして最も豊かな魔力量を持つ〝砲弾〟は――まさにベイン自身。


 自分自身を砲弾にして発射すること。これがベインの最強の攻撃手段だ。


「決着をつけるのは俺です!」


 砲弾となったベインはスリーブロスの胸の方へ突進した。爆炎をまとった剣がスリーブロスの胸を大きく切り取った。血があふれ、悲鳴が上がった。


 しかし〝砲弾〟はスリーブロスの心臓に届かなかった。スリーブロスが体内に具現した魔力の岩がベインの剣を防いだのだ。


「なっ!?」


 あわてるベインをスリーブロスの魔力が押し出した。スリーブロスの巨大な顔がベインを見下ろした。明確な敵意だった。


「グオオオォォォ――!!」


 右前足が〈ラナサスの足かせ〉を壊した。爪がベインに向かって振られた。ベインは逃げようとしたが、ほとんどの魔力を消耗した直後だったので素早く逃げる力がなかった。


 巨大な爪がベインを切り裂くために近づいて――。


「こッの……バカ!!」


 最速で飛んできたパメラがベインを抱きしめて逃げた。


 急迫した状況だったので、体勢を整えてきちんと着地する余裕はなかった。パメラは飛行の勢いを止めきれず、ベインを抱きかかえて地面の上を転がった。その間、アレクシスとセイラが二人を守るための魔法を展開した。


 やっと二人が止まった時。地に横になったベインを上からパメラが襲い掛かるような体勢になった。


 先に口を開いたのはベインだった。


「いったい何の……!」


「いい加減にしなさい、バカ!」


 パメラはベインが話を終える前に彼の頬を殴った。力はさっきの魔法の拳より弱かったが、はるかに感情が込められたビンタだった。


「な、何を……」


「私に勝つことがそんなに重要なの? どうして無駄に貴方自身を危険にさらすの? 無駄に無謀なことしないで!」


「姉君とは関係ありません!」


 ベインはパメラを押し出した。いや、押し出そうとした。だがパメラに手を伸ばした瞬間、パメラが顔をしかめて「ッ」と小さく呻いた。ベインは手のひらから感じるしつこい感覚に息を呑んだ。


 血がこんこんとにじみ出た。


「こ、これは……」


 ベインはやっとパメラの脇腹を見た。服に鮮明に血がついていた。それが何なのか、なぜそうなったのかは明らかだった。


「ま、まさか……俺を逃がそうとして……」


「……これくらいは大したことないわよ」


 パメラは苦痛で表情を歪めながらも、わき腹に魔法陣を描きながら体を起こした。血の気勢がやんだ。服と血痕に隠れてよく見えなかったが、魔法の力で傷が早く癒えていた。


 パメラはスリーブロスの方を向いた。


「とりあえず話は後でしよう。先にあいつから何とかして」


 パメラがそう言って再び剣を握ったが、ベインは彼女にもスリーブロスにも視線を向けなかった。


 自分のものではない血に染まった手だけが、今ベインの心を独占していた。

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