表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/95

スリーブロス

「え? それはどういう……っ!?」


 セイラも悟った。


 論争の的となっていた危険な魔物がこちらに迫っていた。それもものすごいスピードで。これから逃げても逃げ切れるか不確実で、立ち向かって戦うのは非常に危険だ。


 セイラは素早く決断を下した。


「殿下は逃げてください。私がどうにかして防いでみます」


「バカなことを。そなた一人で防げるはずがないだろうが」


「『神聖』は守り保護する能力に優れた力です。しばらく足を引っ張る程度なら可能です」


「皇子で騎士である俺が聖女を捨てて逃げられると思うのか?」


「時間がないんですよ早く!」


 セイラはベインを逃がすために魔法を解消した。しかしベインはむしろ前に出た。セイラを激しく後ろに押しのけながら。


「ベイン殿下!?」


「そのようなやり方では生き残っても一生の汚名が付きまとうだけだ。むしろよかったぞ。ここで奴を討伐する!」


「ありえません! 私たちの力では……」


「死にたくないなら俺を助けろ! どうせ逃げられないということはそなたも知っているはずだ!」


 ベインはセイラの胸ぐらを乱暴につかんだ。血走った目がセイラを睨みつけた。


 しかし慌てたセイラが何かを言う前に、ベインは手を離して自分の頭を握り締めた。


「ちょっと……くっ。俺は今何を……?」


「殿下?」


「俺はむしろそなたを引き入れた立場だ。ところで今何をしたんだろう……?」


 ベインが混乱しているのを見て、セイラは眉をひそめた。しかしそれは不快感の表現ではなかった。


「そんなはずが……〝それ〟は数年後のことじゃ……」


 二人ともそれぞれの理由で混乱を感じていたが、先に気がついたのはセイラの方だった。


「とにかく逃げてください。殿下は皇子です。こんな所で亡くなる御方じゃありません」


 セイラが先にはっきり言うと、ベインもやっと混乱から抜け出した。彼の固い表情がセイラに正面から向き合った。


「そなたは自分の立場に無知すぎる。『神聖』の聖女は皇族と同等の存在である。いや、代替可能な幼い皇子なんかより聖女の方が大事だ。二人のうち一人だけが生き残るなら、そなたこそ選択を受けるに値する立場だ」


「でも……!」


 ベインは向きを変えて前に出た。魔物が近づく方向に。


 セイラには彼の顔が見えなかったが、彼が決意に満ちた顔をしているということは声だけ聞いても簡単に見当がついた。


「そしてどうせ逃げは不可能だ。たとえ論争で時間を無駄にせずにすぐ逃げたとしてもあいつの速度に追いつかれただけだ。そなたがいくら『神聖』の聖女であっても、姉君の魔法に簡単に敗北するほどの能力ではあいつをまともに阻止できない。無駄死にになるだけだ」


 ベインは両腕を広げた。彼の魔力があっという間に無数の魔法陣を描き出した。


 魔法陣の輝きがベインの好戦的な笑みを照らした。


「協力して撃退することだけが生き残る道だ。どうせもう遅いから協力せよ」


「……生き残ったら頬を叩きますよ」


「ハハッ、そなたは本当に歯切れのいい者だ。いいぞ、ここで生き残るなら百回でも叩かれてやる!」


 ――砲撃魔法〈太陽のファランクス〉


 ベインの魔法陣が火を吐くのと、巨大な魔力の持ち主が森から飛び出すのはほぼ同時だった。


 魔物の姿が現れる瞬間、ベインの魔弾の弾幕が奴を襲った。連続した爆炎が魔物の姿を隠した。爆圧が奴を押し出したのが魔力の気配から感じられた。


 ベインは眉をひそめた。


「スリーブロスだな」


「地竜と呼ばれるあのスリーブロスですか?」


「そうだな。皮膚が石であるトカゲのような奴だが、とにかく体がとても巨大だし強力な魔力を持っている。ちょっと原始的ではあるが地の魔法まで駆使可能な奴だ」


 ベインの言葉を証明するかのように、突然石の塊が彼の目の前から飛び出した。ベインの素早い砲撃がそれを迎撃した。破片とほこりが彼の顔に飛び散った。


 ベインは左手の親指で頬についたほこりをふき取り、右手の剣で爆炎の向こうを向けた。


「俺の火力が奴の岩肌を破壊できるかがカギだ。火力のサポートを頼む」


「はい」


 ――神聖魔法〈力の加護〉


 暖かくて強い力が体を包むのを感じ、ベインは弾丸のように飛び出した。爆炎の中からスリーブロスの巨大な体が現れた。


 ベインは魔力を込めた足で高くジャンプした。スリーブロスの頭の上に上がるほど。


 ――砲撃魔法〈太陽の槍〉


 強力な一発の砲撃をスリーブロスの頭に向けて放つ。魔弾というより巨大な光線に近い威力だった。


 スリーブロスは頭上に巨大な石の盾を展開した。ベインの砲撃がその盾を破って撃ち抜いたが、威力が減殺された砲撃はスリーブロスの頭の甲殻に小さな傷をつけるだけだった。


 ベインは魔法でスリーブロスの上空を飛び回りながら叫んだ。


「効き目がある! もっと行くぞ!」


 ベインは上から両腕を広げた。再び多数の魔法陣が描かれた。同じ〈太陽のファランクス〉だが、さっきよりも多くの魔力を投入した弾幕だった。


 スリーブロスは前足で地面を踏みつけた。その動作に呼応するように魔力が動き、無数の岩の弾幕を吐き出した。それがベインの弾幕と激突した。ほとんどは互いに相殺されたが、いくつかの大きな岩がベインの砲撃で削られながらも彼に向かって飛んできた。そのうちの一つがベインに命中した。


「がはぁっ!?」


 ベインは岩に打たれた衝撃で飛ばされた。衝突直前にセイラの保護魔法が展開され、まともに直撃したわけではなかったが、押し出された魔法に打たれたのもかなり痛かった。


 ――神聖魔法〈魔を縛る鎖〉


 スリーブロスの周辺の地に輝く魔法陣がいくつも描かれ、そこから突き出た鎖が奴の体に巻かれた。スリーブロスの動きが鈍くなった。


「よくやった!」


 ベインが差し出した剣の先に莫大な魔力が集まった。


 この一撃で終わらせる――終われないと知りながら、そのくらいの覚悟を込めた魔法だった。

読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とブックマークをくだされば嬉しいです! 力になります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ