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尋常でない兆候

「……了解致しました」


 アレクシスは言いたいことがたくさんあったが、どうしてもそれを聞くことができる雰囲気ではなかった。それに今の位置は厳然たる危険地域。のんびりと話をする状況でもなかった。


「前進します。バックアップをお願いします」


「わかりました」


 アレクシスが茂みを切って道を開き、パメラの魔法が道を整える。


 無意識にそのように力を使いながらも、二人は平気で魔物を倒しながら前進した。


 その間、パメラは平静を装ったまま悩みに陥った。


 数日前から自分の状態がいつもと違うということは自覚していた。原因も実は知っている。しかし知っているからといって勝手に変えられるものではなかった。


 良い方向もあった。そちらは大丈夫だ。問題は……。


「はぁ……」


 パメラはため息をつきながら指パッチンをした。鋭い切断の魔法が側面から襲いかかってきた熊の魔物を両断した。直後、奴の血が空中に浮び上がり、無数の血の弾丸となって鷲の魔物の編隊を迎撃した。


 前方から剣で魔物を切っていたアレクシスはその姿を見てそっと眉間にしわを寄せた。


「何かお悩みのようですが、それでいて隙がないですね」


「え? ……あ、貴方が守ってくれるおかげですわ」


「正直、自分がいなくても問題ないと思うのですが」


 パメラは苦笑いした。


 アレクシスが言ったのは彼女自身も自覚している部分だったが、露骨に指摘されて微妙な気分だった。騎士科のアレクシスが言った言葉だからなおさらだ。


 そこでパメラは話題を変えることにした。


「そういえば、この実習はもともと魔法科の生徒が騎士科の生徒を補助魔法で助け、騎士科の生徒が魔法科の生徒を守る能力を育成することが目的だったんですわね?」


「その通りです。実習の申し込みは護衛対象が魔法科でなくても可能ですが、魔法科の生徒であることを前提に設計されているだけにある程度の魔法能力は必須です。それにしても護衛対象に求められる魔法能力は騎士科の生徒を補助するバックアップの方ですが」


 パメラは少し違った意味で笑ってしまった。アレクシスの表情だけを見ても「パメラ様はバックアップとはあまり合わない御方です」と話したがるのが丸見えだった。その上、話題を変えようとした言葉だったのに結局再び戻ってきたのではないか。


「前回の模擬戦もそうですし、意外と護衛対象にも戦闘力を求める課題がありますわね」


「魔法というものがある以上、護衛対象が無力な人というわけではありません。それよりご存知ですか?」


「魔物が増えたってことでしょう?」


 アレクシスは頷きながら剣を横に振った。木から跳躍してきた猿の魔物がその斬撃で命を失った。


 最初は一匹ずつちらほらと現れた頻度がますます増えた。今は一度に数匹が飛びかかることも珍しくないほどになった。個体一匹の力はまだ弱いレベルだが、強い個体の魔力も近くから感じられた。


 パメラは地図を魔法で具現化した。この森の全景が見えた。そしてその中で無数の光点が動いていた。


 アレクシスは周りに魔物がないことを確認した後、地図を見た。


「白い光点が人間で、赤い光点が魔物ですか?」


「その通りですわ。光点の明るさは魔力の大きさを表しますの」


「森のすべてを見せるのであれば、かなり正確な地図です。最初からこれを使っていたら実習の結果は明らかでしたが」


「だからわざわざ使わなかったんですわ。あえて成果を独占しなきゃならない席じゃありませんから」


 パメラは普通に微笑んだが、アレクシスは内心舌を巻いた。


 まるで「その気になればいくらでもすべてを独占できますの」と言っているような態度。実際にそれを実現できる能力。騎士団には今のパメラより強力な魔法使いも当然いるが、パメラほどの年齢で彼女ほどの力を駆使した者はいなかった。


 さらに、パメラの魔力制御と魔法構成の熟練度が毎日目に見えるほど大きく向上するような……。


「うむ?」


「アレクシスさん? どうしたんですの?」


「パメラ様。この魔法、詳細な映像や光点の正体を把握できますか?」


「いいえ、残念ながらそこまでは。魔力が人間のものなのか魔物のものなのか確認することしかできません。どうしたんですの?」


「ここを見てください」


 アレクシスは地図の片側を指した。


 人間の光点二つが活発に動いていた。それ自体は大丈夫だが、光点の進路にある魔物の光点の一つが特に強力だった。


「人間の光点は光が強いのを見ると魔力量が相当なようですが、位置的には生徒でしょう」


「生徒であっても魔力量の才能が優れた生徒はこの程度じゃありますわね。ところで、それが問題ですの?」


「いいえ、魔物の方が問題です。実習地域を視覚的に区分していただけますか?」


 パメラは指パッチンをした。すると地図の色が二つに分かれた。森の東の境界をはじめ、ある程度の範囲までは青。残りの領域は緑だった。面積で言えば緑色の方がはるかに広かった。


 そうしてみると、パメラもアレクシスが言おうとしていることにすぐ気づいた。


「実習エリアの魔物のうち、あれだけ特に強力ですわね。騎士団が統制する深層区域にもこの程度の魔物はありません」


「はい、なので問題なのです。騎士団がこんな間違いをするはずがありません。どうやら何か予想外の事態が起きているようです。それにあちらに向かう生徒たちも危険です」


「そうなんですわね。早く対処しなきゃ。……でも生徒の方は大丈夫でしょう」


 パメラは光点の光量を確認して確信した。


「ここの生徒の中であれほどの魔力を持った二人組は一つだけです。ベインとセイラさんでしょう。あんな魔物があることに気づかないはずがありませんので、自分で避けるんでしょう」


 パメラは心からそう言ったが、アレクシスは渋い顔で首を横に振った。


「いいえ。むしろベイン殿下だからもっと危ないかと」

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