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パメラのやっていること

 パメラが入学して少し時間が過ぎた。


 新入生として授業も数日聞いたし、期間になってアレクシスとの護衛実習契約も正式に締結した。周りの生徒たちともかなり仲良くしていると確信した彼女は、なかなか楽しく学園生活を送っていた。


 そうしていてある日、パメラは学園の公園に設けられたテーブルの一つで昼食を食べていた。


「学園の生活について心配も少しありましたけれど、いざやってみると面白いですわね」


「心配されていたという御方のようではなかったのですが」


 アレクシスはパメラの後ろに立って言った。


 本来、護衛実習は昼休みまで対象を護衛する。対象者が要請すれば一緒に食事をすることも可能だが、アレクシスはパメラの勧誘を断っていた。


 しかし今パメラが眉をひそめたのはその事実への不満のためではなかった。


「それはどういう意味ですの?」


「殿下が今まで見せてくださった目立つご行動を他の人たちがどのように受け入れたかお考えになりましたか?」


「むぅ」


 パメラは不満そうに唇を突き出しながらも反論はできなかった。アレクシスが何を言っているのか十分に自覚していたから。


 ともすれば校内で〈転移〉を乱発したりとか。


 魔法の授業で人の三倍くらいの威力で魔法の標的を吹き飛ばしたりとか。


 教養のダンス授業で異常な身体能力で暴れるとか。


 さらにパメラは行政科ではなく魔法科だ。魔法を鍛え証明することが本来の役割である所だから、さらに彼女の魔法が活躍する場が多くなってしまったのだ。


 目立ちたくても能力がなければ不可能なほどの大騒ぎをしていたため、ある瞬間から彼女はクラスの中で達観の視線で見られるに至った。


「で、でもそれも結構我慢したんですわよ」


「我慢したのですか? それが?」


 パメラは戒めだと思って縮み上がった。


 しかしアレクシスの感想は純粋な驚きだった。パメラの魔法能力は明らかにその年代のレベルを超えていたから。そもそも普通は多数の魔法使いが一丸となって展開しなければならない〈転移〉をあれほどきれいで早く単独で使うことからが規格外だ。


 パメラの適性が『万能』ではあるが、適性はあくまで使える魔法の種類を明示するだけ。魔法能力を補正してくれない。すなわち、パメラの優れた魔法能力は適性を除いた本人の才能ということになる。あるいは……才能以外の何かがあったり。


 しかし、いざパメラ自身は自覚していなかった。


「そういえば自分と手合わせをした時も尋常ではない剣術の腕前を見せてくださったのですね」


「でも私が負けたでしょう」


「普通の皇女なら騎士見習いと剣術勝負が成立すること自体が不可能です。殿下は剣術を鍛えたこともないと聞きましたが」


 パメラは自慢げに笑った。


「フフッ、実はそれも魔法なんですわ。動作制御魔法というものですの」


「動作制御魔法? 簡単な動作をさせる魔法ではないですか?」


「魔法を高度化させれば複雑な動作もできるわよ。それで剣術を具現化したんですわ。今は魔法が発動している時だけの臨時に過ぎませんけれど、これからは体に体得させて魔法なしでも技芸を維持することを目指していますの」


 今の機能でも十分すぎるのに、この御方はそれをもっと確固たる形にするというのか――アレクシスは心から感心した。


 しかしそれを表には出さなかった。単なる自制心のためではない。誤って悪用されると危険な魔法を開発しようとするというのが脅威的だったからだ。


 しかしパメラはアレクシスの考えに気づかないまま、他の理由で落ち込んでしまった。


「ベインにもこれを教えられたらよかったのに」


「ベイン第一皇子殿下のことですか」


 パメラの弟であるベインは騎士科に入学した。皇族が騎士科に入学することは前例のないことではないが、一般的なことでもないからパメラはかなり驚いた。


「ええ。あの子は騎士科なんですから、動作制御魔法で武芸ができるといいでしょうから」


「お二人は仲が悪いのですか?」


「悪い……というよりあの子の方が一方的に私を排斥しているだけですの」


 パメラは悲しそうな笑みを浮かべたが、すぐに表情を取り戻してから咳払いをした。


「ごめんなさい、一人で憂鬱な話をして。それより学園には良い資料が多いですわ。おかげさまであれこれ調べることができましたわ」


「何をご覧になったのですか?」


 パメラは指を一度軽くたたいた。かすかな魔法陣がテーブルの周りを包み込んだ。


 アレクシスはそれが音が漏れないようにするセキュリティ魔法であることに気づき、目を少し鋭くした。


「アルラザールとティステについて。それらの名前が何を意味するのか……どんな人たちなのか確認してみました」


「成果はありましたか?」


「……資料が非常に貧弱だということが分かったのも成果なら成果でしょう」


 パメラは眉をひそめた。ティーカップを口に持っていく動作は優雅だったが、アレクシスの目にはどこか感情を飲み込もうとしているように見えたりもした。


「アルラザール・テルヴァについては非常に断片的な情報しかありませんでした。彼が騎士だったこと、魔族だということがバレて処刑されたということ。誰かの護衛騎士の経歴があるという情報もありましたけれど、護衛だった期間や対象が誰だったのかとかもありませんでしたし。そしてティステに関しては……全く何もありませんでした。その名前さえどこにも見つかりません」


 パメラはアレクシスを振り返り、苦笑いした。


「申し訳ありませんけれど、やっぱり貴方にお世話になります。こんな意味不明の記憶に執着する女でごめんなさい」


「それは構いません。ですが……」


 アレクシスは無表情だった。普段は当惑や冷笑のような感情をそっと表わすこと以外には表情自体がよく変わらない彼なので、外見だけの平静を維持することは容易だった。


 しかし、いざ今感じている不快感が何のせいなのかは彼自身もよく理解できなかった。


「殿下は……自分からアルラザールの姿だけを見ているのですね」

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