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おまけ➀「サイとダイはよく似ている」

 王妃様であるニコは、一緒に生まれた兄弟で一番早くに人化したダイを抱き上げて思った。

 この子は何かを為す子だと。

 当時は、親の責任に任されていたのだが、念のため、王族でも人化と一般は分けて育てるようにはしている。


「国王様、この子は、少しサイに似ているのではないかと」

抱き上げられて、にぱっと笑うダイを見て、国王であるイチに伝える。

「そうか、では、将来楽しみだな」


 サイも兄弟の中で一番に人化した。

そして、犬っころの頃はとてもオオカミっぽく、元気に走り回り、人化した後は、先に生まれた他の兄弟までも従えた。

 国王はそんな将来を見つめた。力があることは良いことだ。


 しかし、犬っころの時代のダイは、全く似ていなかった。どちらかと言えば、一人遊びが好きで、鉢影に隠れている虫をつつき、蝶を追いかけ飛び跳ねて、途中で目に入った跳ねた魚を前足で取ろうとし、バランスを崩して落っこちた。

 だけど犬かきが上手で、ブルブルさせて満足そうにする。


 だけど、サイに似て、狩りの練習の時に課題の獲物ではなく、別の獲物を咥えて持ってきた。

 力の強いサイに咥えられた獲物は、死んでしまっていたが、力の弱いダイの獲物は、生きていた。

 しかし、実際ダイがそれを獲物として捕まえたのかどうか、その時の指導員たちはよく分かっていなかった。


「なんか、連れてきた感じでしたね」

「足を怪我したイタチだったけど」


 ダイがその足を一生懸命舐めていたから、そう言われているが、そこは両親に報告していない。ダイの汚点になると思われたからだ。

 空腹でない犬っころのすることだ、そこは本当によく分からないのだ。


 しかし、ダイは誰にでも可愛がられていた。だから、その後、調子を崩したダイを心配する声は絶たなかった。

 おそらく生血が悪かったのだろうと言われた。

 その後から、犬っころ達に生肉の提供はされなくなった。


 人化してからのサイは、よく物を壊した。力の加減が難しかったのだ。これは、王族ではよくあることだ。持ったコップを割って、その辺りを水浸しにし、もった鉛筆をすぐに半分にしてしまい、勢いで閉めた扉を外してしまう。

 扉のノブも壊していたし、慌てて手を突いた場所には、全て穴が開いていた。

 そう、王族には、一度や二度はある話。


 ただ、最後に彼の付き人が大工になったのも確かだ。

 だけど、意外と弟妹思いで、世話も焼き、誰よりも気にして、そして、よく怪我をさせた。


 人化してからのダイは一度も物を壊さず、いつも兄弟の後から付いて歩いた。体の大きさは小さいし、物を壊してしまうことはなかったが、力も弱い。

 喧嘩して、勝ったこともない。

 だから、王室で飼われている金魚や虫取り用の蛙の世話を焼くんだ、とまで言われていた。


 サイは、そんなダイを心配して、『よし稽古をつけてやろう』とよくダイを転がしていた。


 だから、ダイは立ち回り方を覚えた。

 どうすれば、相手に負けずにいられるか。

 サイと違い、ダイは相手の出方を見抜くことが得意になった。

 サイの弱点は、力押しが出来ることが裏目に出た結果、考えが浅はかなことだった。

 だから、計画を立てての立ち回りは、確実にダイが上。


 お互いに得意な分野で右に出るものはいなかった。

 そして、二人とも現れ方は違うが、面倒見がよく、ルールもちゃんと守る。


 サイは生肉が好きだった。だから、美味しい生肉が手には入ったら、大きくなってきた兄弟に分ける。サイもダイと同じで真面目に規則を守る。オオカミはみんな規則遵守だから。

 それが、たとえダイの調子が悪くなってしまったからできた新しい規則であっても、律儀に、犬っころを卒業するまでは、生肉をやらないを守るのだ。


 だから、ダイもそろそろ大きくなってきているから、分けてやろうと思ったのだ。

 それなのに、ダイはお腹を壊して、数日寝込んだ。

 母のニコからは「もう与えてはダメよ」と伝えられた。


 そして、数日寝込んでいたダイは、父のイチからこう言われた。

「生肉で腹を壊すなど、なんと情けない」

一応心配して駆けつけてくれた、父の言葉はこれだけだった。


 そろそろ妙齢となったサイにもたくさんの縁談が舞い込むようになっていた。一応、序列は3番目。次代を担うことを許されている順位ではある。


 しかし、誰とも上手くいかなかった。

 王族同士なら大丈夫なのだが、力の加減が難しく、手を握るだけで相手を骨折させていることがあったのだ。

 ガラスのコップを握るように、……と自分には言い聞かせているのだけれど、なんにしろ慣れないことであり、自分を奮い立たせないと、手も繋げない。勢い余って怪我させる。

 これじゃあ、抱きしめて全身複雑骨折もあり得る。


 権力よりも命の危険を感じる婚約者候補たちは、いつも早々に辞退していった。サイはほっとしていた。サイだって、不可抗力でオオカミ殺しにはなりたくない。


 ちょっと触っただけで、大怪我をするような伴侶はいらない。いつしか、サイもそう思うようになり、周りも諦めた。


 だから、花形の防衛隊長という職務だけが、サイの自慢。

 それに、防衛隊に入って来るような人化オオカミは、景気づけに叩かれたくらいで骨折はしないから、居心地も良かったし、サイが防衛隊長になってから、一般オオカミたちは遠吠えの約束を破らなくなった。


 その頃のダイはというと、序列的には6番目という華々しい成績を挙げていた。もちろん、6番目では、あまり意味はないが、チビで力もなく、生肉まで食べられないという情けない王族としては、ずいぶんな快挙だ。


 それを、サイは充分に喜んでいた。

 あいつは、ダメな奴だと思っていたが、よくやった。

 そんな気持ちで。

 そんな弟が、ウサギの嫁をもらうという。


 サイは、思わず父王に抗議をしに行った。

「それはあまりにも酷い役目ではありませんか?」

父王は言う。


「あいつは、怠け者である。仕方なかろう」

「怠けていて6番目まで上れるはずがないのではありませんか」

王妃が続ける。


「サイもダイもよく似ています。だから、ダイに頼みました。その意味は分かりますね」


 そう、サイもダイもよく似ているのだ。平均体質ではない。ただ、サイと違い、ダイは弱いから花形部署にも行けない。ダイの配属された部隊は、一番弱々しい部隊。


 『子ども安全隊・犬っころ係』通称『犬っころ隊』だった。


 王族の伴侶で、オオカミ化しない親族の配属は今まであったが、王族血筋で配属されたのは、ダイが初めてである。


 だから、毎朝、『元気を出せよ』という意味で、色々と可哀想なダイの背中に気合いを入れるようにしたのだ。

 だから、二度も欠席通知を送ってきたダイを迎えに屋敷へ向かった。

 ダイは怠け者ではない。


 日々は元気かもしれないが、もしかしたら、オオカミになった時に大きく自分の情けなさを感じ、悩んでいるのかもしれない、いや、陰口でも言われているのではないかと泣いているのでは、とさえ思っていた。

 ウサギの妃が理由なら、なんとしてでも連れ出さなければ、可哀想な弟が除籍されてしまう、と。


 本当に悲しいかな、自分の性質を理解せず……。



「もう、本当になんなのあの人。二度とうちと関わってくれるなって言ったのに、相変わらず毎日背中を叩いて行くし、こっちは衝撃に咳き込んで大変なのにさ。なんで、無視してるのに嫌われているって伝わらないんだろう。絶対に二度とプティラに近づかせないようにしなくちゃ」



「可哀想に最近は兄にまで挨拶ができなくなってしまったのか……。この間は失敗してしまったが、ウサギの嫁にダイの優しさと苦悩を伝えられんもんか……そもそも屋敷から出ることはあるのだろうか、あのウサギ。いや、しかし、ダイの屋敷へ行くことも、あのウサギの嫁と接触することも家族全員から禁止されてしまっておるし、さてどうしたものか」



 サイの気持ちは、どうしてもダイに伝わらないようだったが、弟がそのウサギを大切にしているということだけは、理解したので、もうあの夜のようなことは……

……ないと思われる。


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