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満月の夜におちる魔法、朝焼けの光にとける魔法…1


 キャナルさんが帰ってから、ずっと考えていた。

 ダイ様が遠吠え会に参加出来ない理由を。

 きっと、ダイ様は否定すると思うけれど。


 だから、訊かない。

 だけど、伝えた。


「私は、ダイ様が遠吠えする声を聞いてみたいです」

大きく目を見開いたダイ様が、慌てていた。


「本気で言ってる? キャナルさんがあんなこと言ったからでしょう?」

きっかけはそうだけど、私は頭を振った。


「皆さんのところへは行けないと思います。でも……私はオオカミの国に嫁ぎました」

そこまで言って、ダイ様を見ると、体を掻きはじめていた。きっとむずむずが始まってきているのだろう。それでも、心配そうにその瞳を私に向ける。


「気にしなくてもいいよ。プティラはウサギさんなんだから」

やっぱり私は頭を振った。


「ウサギだからダイ様を遠吠え会に向かわせられない、とは言われたくありません」

これは、ちょっとだけ嘘。


 どうしても無理なことはあると思うし。だけど、この先もずっとこのままではいけないとは思っている。ダイ様はオオカミで、王族で、お務めがあって、だからこそのこの結婚なのだから。


 それに、ダイ様が一般ウサギを護ってくれていると考えると、嬉しくなる。


 自分の手を見つめる。昨日、ぎゅっとしてくれた手。ダイ様は怖くない。でも、信用されないのは、いつまでも怖がっているから。

 ダイ様が今の私の現状を護ってくれているのと同じように、私もダイ様の立場を護らなくちゃならない。


「ダイ様がウサギを食べないように伝える声を聞きたいです。ちゃんと聞こえるように、お庭で一緒に聞いています。オオカミはダイ様の国の方です。だから、声くらいなら怖くないと思います」

ダイ様は少しだけ黙って、少しだけ困ったように私を見つめた後、やっと笑ってくれた。


「分かった。次の遠吠え会は絶対に出席しなくちゃならないし。そうだ、今夜は庭で一緒に遠吠えを聞こう。誰の声か知っておいた方が怖くないよね」


 それから、満月が空の真上に来るまでに食事を取って、マティも一緒に仮眠を取った。ふたりでリルラさんを見送って、『明日もよろしくお願いします』と伝えた。


 お家で家族が待っているリルラさんは、『頑張って下さいね』と『ご無理なさらないで下さいね』を繰り返して、お夜食のサンドイッチ入りのバスケットを二つ渡してくれた。

 大きなものがダイ様で、小ぶりな方が私。

 ダイ様は今度も体を掻きながら、そのバスケットを受け取る。


 オオカミになる時はとてもお腹が空くのだそう。

 だから、きっと、大きな方にはお肉がたっぷり入っている。小さな方にはたっぷり野菜。


「私が持って行きます」

驚いたように目を丸くするダイ様だったが、素直にバスケットを渡してくれた。


 だって、オオカミになったら手は使えないでしょう? 大丈夫。これは、ダイ様の食べものだから。リルラさんが作ってくれた大事なものだから。

 落としたりしないから。鼻は摘まみたくなるかもしれないけれど……。


 マティがしっかり眠ったことを確認した後、薄手のマントを羽織って、廊下を歩いた。

 あれだけ怖かった廊下。

 半年以上かかってやっと一人で歩けるようになった。


 一人で外に出るのはまだ怖い。だけど、今日はダイ様が待っていると分かっているから大丈夫。


 扉を開けると、外が広がる。

 銀色のオオカミが一匹、私を見つめてこう言った。


「ようこそ、ふたりきりの遠吠え会へ。どうぞこちらへ、プティラ様」

この日、私は初めてオオカミの行事に関わった。


 お庭の中で満月が一番よく見える場所に行く。そして、遠吠えを聞き、ダイ様の説明を受けながら、次の遠吠え会ではダイ様の声をここで聞くんだ、そう心に決めて。


 そして、これからはずっと一人。だから、ダイ様の温かいお腹に凭れて、その声を聞いた。

 



 そんな夜を思い返し、私は今一人で満月を眺めていた。



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