表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『うさぎのプティラとオオカミ殿下』~満月の魔法とおとぎ話のふたり~  作者: 瑞月風花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/29

満月の夜の白銀オオカミ・・・2

 振り返ったその場所に白銀(はくぎん)とも言えそうな、大きなオオカミが、目を光らせて私を狙っていた。


 マティ……。

 マティの震えが腕を通じて伝わってくる。しっかりしなくちゃ。マティが……。

 そう思いながら、狙われているのは、大きな『肉』の方の私なのだろうかと、足が震える。


 動けない。それなのに、オオカミがどんどん距離を詰めてくる。黒い鼻が月明かりにぬらりと光り、私の胸元に当った。怖い……そう思うと、膝から崩れた。マティ、動かないで。今、逃げたらマティが狙われる。


 逃げるなら、私が囓られてからにして。


 オオカミの鼻が尻餅をついた私に向けて下りてくる。心臓が爆発しそうなくらいに鼓動し続けている。

 来ないで……。


 声が出ない。


 マティも守らなくちゃならない。反射的にマティに被さるようにして、蹲るが、熱い息が、その鼻音が耳元で、強くなる。私はマティがマントの中から出てこないように、やっとの思いで抱きしめていた。


 ……食べられる……。


 大きなものがぶつかる音がした。そして、知っている匂いがする。恐る恐る、少しだけ顔を上げる。


「何してるのっ。サイ兄様」

 ダイ様が、オオカミの前で、叫んでいた。

 容はオオカミだけど、ダイ様だ。同じように満月の光りを吸い込んだ銀灰色の毛並みは、白銀色に輝いて、相手をじっと睨んで動かない。


 ほっとして力が抜けてしまった私の腕から抜け出そうと、マティが顔を覗かせ、鼻をヒクヒクさせている。それで気づき、もう一度気を引き締める。


 マティだめ。まだ、出てきては危ないの。

 大きなオオカミは、オオカミになったダイ様よりも大きいもの。


 サイ兄様と呼ばれたオオカミは自分がどうして跳ばされたのか、理解できないように一度だけ頭を振った。そして、自分の状況に気付き、唸り声を上げる。


 続いてダイ様も唸った。深く、大地を揺るがすような。その響きが振動となり、私を震い上がらせる。ダイ様が怒っているんだ、と思った。先月の満月の日に怒っていると感じた、あのオオカミの気配なんか比じゃないくらいに、恐ろしい。


「勝手に人の家に入ってきて、勝手に何してるのっ」

ダイ様の声。


 大丈夫だと、言い聞かせる。恐ろしいけれど、もう怖いとは不思議と思わなかった。

 大きなオオカミ二匹の唸り声が、夜を震わせ、その睨み合いが、空気を凍らせているようだった。

 私はただ、深く息を吸って、静かに吐き出す。音を立てないように、気を付ける。


 ほんの少しの乱れが、何かの均衡を悪い方へ崩してしまいそうに思えたのだ。

 その牙を先に収めたのは、サイ兄様の方だった。


「いや、散歩をしていたら旨そうな匂いがぷんぷんと……」

「ここにサイ兄様のご飯はないから、帰って」

ダイ様の牙はまだ収められていない。サイ兄様もまだ動かない。言い訳をしたい感じ。どこか引っ込みが付かない感じ。


「あぁ、悪い……まさか外にいるとは、思ってもおらず」

その答えに、ダイ様が大きく吠えた。燻っていた怒りが、一気に吐き出されたような。思わず声をあげそうになって、慌てて空いている方の手で口を押さえた。


「帰れッ」

 私の心臓も飛び上がる。あんまりにも力を入れすぎて、マティが腕から飛び出してしまった。だけど、マティは私の傍から離れなかった。


「悪かった……」

ダイ様に謝った後、わざわざ私にも謝る。

「怖がらせて申し訳なかったな」


 きっと、普段は悪い人じゃないんだろうな、後でちゃんとどんな人なのか訊いておかなくちゃ。

 オオカミは元々怖い物だから、オオカミに戻るっていうことは、きっと、今はオオカミのサイ兄様なだけなんだわ。

 だって、ダイ様のお兄様だもの。怖いだけなはずがない。


 だけど、恐ろしいし、二度と会いたくないし、要注意人物ではある。


 恐怖から目を逸らしたくて、そんなことを思おうとしていると「早くプティラから見えない場所に行ってよ」と少し柔らかくなったダイ様の声が聞こえた。


 サイ兄様の姿が見えなくなると、マティがまた私の膝に乗ろうと、前足を載せてきた。でも、腕が思うように動かなかった。

 忘れていた震えが、今頃になって全身に広がってくる。やっとダイ様を見上げる。声を出そうにも、唇が震えて言葉が出せない。


「怖がらせてごめんね。……明日ちゃんと説明する。僕も部屋に帰る。あ、もう大丈夫だと思うけど、プティラも部屋に戻って」

そう言ってダイ様が振り向こうともせずに、私を放って戻ろうとする。嫌だ、動けない。一人になったら、またオオカミが来るかもしれない。震える手を伸ばす。やっと掴んだのは、ダイ様のしっぽの先だった。


「動け……ません……」

そんな私に気付いたダイ様が、不思議そうに私を眺めていた。

「僕のこと、怖くないの?」

私は、こくこく頷いた。


 満月の白い光が私を包み込む。

 その満月の光を吸い込んだ神々しい銀色のオオカミが、そっと私に近づいて隣に座った。



ここまでのエピソードは

「新婚初日に『愛することは絶対にない』と言われたオオカミ殿下は、今日も元気に仕事をすることにしています」

https://ncode.syosetu.com/n5988ig/

でダイ目線を書いています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか書き込めなくてすみません。前作と合わせて拝読、二話先まで読んでいます。この回までが前作と完全にかぶった内容みたいなので、とりあえずここに……。 プティラ視点でのストーリーのおかげ…
[良い点] ちゃんとダイの事を認めてあげられるようになって良かった。 前作で結果は分かっていましたが、やはり、何度読んでも胸が温かくなるシーンです。 ダイに対するマティの変化も察せられて、温かさ二倍で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ