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11/29

明日は雨になりますように


 無事にお二人で昼食を終えられたことを見届けたリルラは、その後、プティラに声を掛けられた。

「布の端切れを分けていただけたら……あと、綿と紐と。ペンはお部屋にありましたから、大丈夫です」

「お持ちしますけれど、何をなさるのでしょうか?」

「ダイ様が『雨が良い』と仰っていたので、雨乞いをしようかと思います」

リルラはそのプティラを見て、微笑んだ。

 とても嬉しそうにしている。


「お役に立てるか分かりませんが、お役に立ちたいのです」

雨が良い理由もきっと知らないままだと思うと教えたくもなる。いや、教えても今のプティラなら「大丈夫」だと言ってくれるのではないかと、期待してしまう。しかし、これは、二人の問題。リルラがお節介を焼きすぎることでもない。


「お手伝い致しましょうか?」

プティラは思った通り頭をぶんぶん振って、リルラの手伝いを断った。



 部屋に籠もって、リルラさんからもらった布の端切れを四角く整えていく。頭は重たい方がいいので、庭で拾った石も綿に包んでくるりと首を紐で縛った。

 顔は、泣き顔の方が良いのかしら?

 雨、降るかしら?

 三つ吊してみたけれど、まだ雲の一つも出てこない。


「逆さ坊主さん、明日は雨にしてくださいね」

でも、次の満月は、マティのために晴れにしてください。

 背伸びをして、もう一つ逆さ坊主を吊り下げる。

 もっと吊り下げた方がきっと、お空の神様の目に止まりやすいわ。


「あ、マティ、その上で眠っちゃだめよ。次はその布を四角く切るのだから」

 マティに言いながら、夢中で逆さ坊主を作り続けた。

 いったい幾つ作っただろう、と目を覚ますと、朝の光が窓と逆さ坊主を抜けて入ってきていた。やってしまった……。


 熱中すると寝ようとせずに、寝落ちてしまう癖。


 起き上がった私は、布の上で伸びをした。頭がぼんやりとしている。突然動いた私に驚いたマティも慌てて、欠伸をしている。


「マティ、おはよう」

マティが鼻をヒクヒクさせて、落ちている逆さ坊主に気が付いた。


 きっと、これを最後に、と思ってそのまま眠ってしまったのだ。

 紐が足りなかったので、リボンを首に巻き付けた最後の一つ。窓には数十個の逆さ坊主が吊られている。


「ちょっと待ってね」

逆さ坊主を拾い上げ、窓の外に吊り下げる。


 カーテンのように、ゆらゆら揺れる逆立ちしている子坊主たち。頭の重みが足りない子がてるてる坊主になっているので、それも逆さに戻す。

 見上げた空は、でも青い。

 雲一つない。


「お空の神様、どうか雨にしてください」

夜まで雨ならいいな、ってどういう意味だったのだろう?

 仕事に行きたくないとか、そんなことなのかしら? でも、今日は公休日ってリルラさんが言ってたから、それは関係ない。


「お空の神様、どうか夜までの間のどこかで、雨になりますように」

よく分からないけれど、雨が降った方が良いのだろう。

 マティがぴょこんと足元に来る。


「ご飯の時間ね」

 最近は、マティのご飯は自分で準備できる。

 ぼんやりした顔を洗い、髪に櫛を入れる。茶色の髪に少しずつ光が戻り、ちょっとは可愛くなった気がする。立ち上がり、ドレスを選ぶ。

 毎日同じことの繰り返し。ちょっとは可愛くなるようにする。髪飾りもドレスに合わせて、変える。


 アイティラ姉さまのように格式張ったドレスではない。自分で着られる簡易ドレス。

 だけど、アイティラ姉さまが、プティラは可愛いからどんなものでも似合うのよ、とにこりとしてくれた。アイティラ姉さまは、誰にでも同じことを言っていたけれど、色だけはそれぞれ違っていた。

 私には、水色が似合うとずっと言っていた。


「水色は、お月さまの光の色なのよ、知ってる? マティ」

 もちろん、お腹が減ってきているマティが知ったことではないけれど、その水色の光を受けて、私は人化したのだ。

 確かに月の光は、ほんの少し水色がかって見えるような気もする。太陽の光にはない色がすっきりと、落ちてくる。

 太陽の光は、たくさんの色。魔法の色を探すのは難しいのかもしれない。


 クローゼットには、たくさんの色のドレスが吊り下げられている。半分はウサギの国から持ってきたもの。半分はオオカミの国が用意してくれたもの。

 早く外に出て、ちゃんとお嫁さんをしなくちゃ。ただ飯ぐらいのウサギじゃだめ。

 オオカミの国が用意した黄色のドレスを取り出して、もう一度心に決める。


 でも、私にいったい何ができるのだろう?

 城勤めのダイ様だけど、社交界とかの縁はなさそうだし、……。家事仕事はリルラさんがしてくれているし……お買い物は、まだ無理そうだし……。


 そこで、ちょっと寂しくなる。

 所詮でいえば、私はここで生きているだけでいいのだ。そして、オオカミの国にとっては、良い頃合いで死んでしまえば丁度良い。

 果物屋が言ったように、しばらくウサギの肉が食べられないのを、オオカミは我慢しているだけ。


 マティのように人化しない方が、本当は幸せなのかもしれない。


 そんな時に、扉が叩かれた。ダイ様の匂いだ。こんな時間に珍しい。逆さ坊主をたくさん作ったことをお知らせできたのに、服を着替えていなかったことを後悔した。


「あのね、プティラ、今日は、ぜったいに僕の部屋の前には来ないで」


 扉を見つめて、そのまま立ち尽くしてしまった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] プティラが気づかぬうちに恋に落ちてるらしいところをニマニマ読ませていただいています。逆さてるてる坊主たくさん作っちゃって可愛いですが、まさかのダイの台詞!がーん! がんばれプティラ(いやも…
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