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ケガレ

「理由は、これよ」


 服の首もとをはだけたテルトナ。

 喉元のすぐ下辺りに、何か黒い塊が見える。大きさは手のひらより少し小さいぐらいだ。


「……腫瘍か?」

「正確には違うわ。これ、私の一族で何代かに一人に体の一部に現れるの。私たちは(ケガレ)と呼んでいるわ。私の母もケガレ持ちだった。そして私が子供の頃に、亡くなったの」

「それは……」


 ケガレとテルトナが呼んだものを見ながら、俺は言葉につまる。


「でも、母はとても鋭い直感を持っていたの。どうやら、そういった感覚が鋭いほど、ケガレも酷いみたいでね。預言者だった祖先から続く、私の一族の宿命なの」


 どくどくとテルトナの首もとでケガレが脈打っているようだ。


「……そのケガレに、聖水が効果があるのか?」

「そう。でも滅多に手にはいらないから。母も一度だけ名も無き神の聖水を使えたみたいね。そのお陰で寿命がのびたって聞いたわ。それでも、私が大人になるまでは、もたなかった」


 自らの首もとを見下ろすテルトナ。その瞳はどこか憎々しげにすら見えた。


 ──最初にテルトナの瞳に感じた強い意思は、これか。彼女はこんな状況でも、全く諦めてないのか。


 俺が考え込んでいる様子をみて、テルトナが告げる。


「ああ、支払いなら安心していいわ。このケガレは厄介だけど、逆にこの力のお陰で一族は裕福なのよ。占いとかでね」

「確かに有用そうだな。……テルトナが占いの道ではなく、錬金術師になったのは?」

「ふふ。そうね。母の命を奪ったこのケガレをなんとかしたいと思っているわ。諦めるのは性にあわないの」


 そういって笑うテルトナ。その笑みの力強さに、思わずドキリとしてしまった。


「……よくわかったよ。さて、そのビーカーを借りても?」

「いいけど? ああ。バクシーさんも飲む? 健康に良いのよ?」


 そういってピンク色の液体をすすめてくるテルトナ。彼女が言うなら、その口からピンク色の煙が出る液体は本当に健康に良いのだろう。当然俺は粛々と辞退すると、空のビーカーを受けとる。

 そのままステータス画面を開く。残っていたお祈りポイントは1。

 俺はそのお祈りポイントを捧げる。聖水を生み出すことを選んで。


 ──何度も聖水を納品するとしたら、必ず怪しまれる。ならいっそ最初から見せてしまっても変わらないだろう。定期的に金貨十枚が手にはいるとするなら、そのリスクは許容範囲内だ。


 手のひらから聖水が沸き出してくる。

 俺は両方の手のひら合わせてお椀の形にする。その隙間からビーカーへと聖水を滴らせていく。


「えっ、一体どこから!」


 俺の手元を驚き顔で見つめるテルトナ。

 沸きだした聖水を一滴たりともこぼすことなく、俺は全てをビーカーに注ぎきる。


 ──うまくいった。良かった良かった。


「はい、聖水の納品」


 そういって俺はビーカーをテルトナへと差し出したのだった。


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