パーティー
「あたし、竜人の亜人の混血っす。少なくとも死んだママンはそう言ってたっす。で、その。武器を買う余裕がなくて。この鉤爪で戦うっす。──いいっすか」
俺はシジーの手にはえた鉤爪を、じっくりとと観察させてもらう。
色は漆黒で、つるんとした光沢がなかなか美しい。指の根本から急に鉤爪に変化している。
それなりの期間、シジーとは清掃の仕事で働いていたが、当然一緒に迷宮探索にいったことはなかった。だから、鉤爪が出せる、というのも初見だ。
──こういう感じなのか。とても興味深い。
俺は疑問に思ったことを質問する。
「立派だな。威力はどれぐらいなんだ?」
「威力っすか? ええっと、こんな感じっす」
俺の質問に、鉤爪を手刀のように揃え、素振りで動きを見せてくれるシジー。大振りの鉤爪がはえているとは思えないぐらい、その動きは速い。シュッシュッと風の切れる音があたりに響く。
「つぎ、私。これ」
シジーの動きが止まったタイミングで、そういってミリサリサは背負っていたものを見せてくれる。少し割り込むような感じが、唐突だ。
もしかしたら気を使わせてしまったかもしれない。
「……それは、モーニングスターか?」
俺は素直に話に乗る。ミリサリサの手には長柄の棒。その片方の端に丸い鉄球のようなものがついている。ただ、その鉄球にはモーニングスターにはつきもののトゲがなかった。
「そんな感じ。中衛希望」
重たそうなモーニングをくるくると回転しながら告げるミリサリサ。
軽やかな動き。しかしミリサリサの細く引き締まった腕の筋肉はパンパンに膨らんでいる。
「オッケー。とりあえずは前衛2、中衛2で、シスター・リニは後衛に入ってくれ。迷宮内では離れすぎていると逆に思わぬところで足元をすくわれるらしいからな」
「了解しました。加護については詳しく話せないのですが、何かお手伝い出来そうなことがあれば、その都度声をかけますね」
頑なにやはり加護の詳細については教えてくれないらしい。
まあ、シスター・リニはいわば依頼主だ。その力をあてにしないパーティー運用が基本となるだろう。
俺は皆を見回す。
皆、いい顔つきだ。テルトナも強ばっていた表情がほぐれている。
「今回は、迷宮の入り口周辺だけで、このパーティーの運用具合をシスター・リニに示すことになる。気負いすぎず、油断せずでいこう」
皆からの無言の肯定の頷き。俺も頷き返す。
「よし、出発だ」
そうして俺たちは迷宮へと足を踏み入れた。




