顔あわせ
翌日、教区事務所でシスター・リニから資料をもらって詳しい説明を聞いた足で、俺はシジーのもとを訪れていた。
「──もう、起き上がってて大丈夫なのか?」
「うっす。レキの兄貴。ぴんぴんっす」
そういって普通に部屋のなかを歩いているシジー。
──普通は、治るのにもう少しかかる、よな?
俺が不思議そうにしていたのに気がついたのか、にししと笑ってこちらを見てくるシジー。
「レキの兄貴、不思議っすか? あたし、実はちょっぴり獣人の血が混じってるんすよ。それで怪我の治りが早いっす!」
「へぇ……」
「り、リアクション薄いっすね、レキの兄貴。確かに血が薄くて獣人の形質は全然発現してないっすけど。その反応はあたしに興味無さすぎません!?」
そこへ、シジーの同居人のミリサリサも話しかけてくる。
「このまえ、肉、ありがとです」
「ああ。ミリサリサさん。こちらこそシジーに届けてくれてありがとう」
「シジー、バクバク食べてたです」
「ちょっ、ミリサリサ! なに言ってるっすか! ……レキの兄貴、ごちそうさまっす。美味しく頂いたっす。でも、がっついてはないっすよ!」
「がっつく、なんて言ってない。シジー、語るに落ちる」
「っ!」
楽しそうにやりあうシジーとミリサリサ。まるで子犬と猫がじゃれているかのようだ。
「いいさ。あれぐらい。それで今日は少し話があってきたんだ」
「あの、その前にそちらのお綺麗な女性を紹介してくれないっすか、レキの兄貴」
「ああ。すまない。こちらはテルトナ。これから立ち上げるギルドに、彼女も参加してもらおうと思っててな」
俺は静かに佇んでいたテルトナを二人に紹介する。
「テルトナ=サウスアウトよ。錬金術師兼冒険者をしている。よろしくね、シジーさん、ミリサリサさん」
ふわりと優雅にお辞儀をしながら告げるテルトナ。その動きにシジーがポカンと見惚れている。
しかしすぐにシジーはミリサリサと目線を交わしている。
──うん、なんだろ?
俺がその様子を不思議に思っていると、唐突にシジーから質問される。
「──テルトナさんは、レキの兄貴の彼女さんっすか?」
「違うって。おい、シジー、何てことをきくんだ」
「じゃあ、どういうご関係なんすかー。レキの兄貴ー」
なんだかやけに絡んでくる。
俺は思わずテルトナの方を見る。ケガレの事は、簡単に俺から言うべき事ではないだろう。
ただ、今後同じギルドメンバーとなるのであればいつかは伝えた方が良い事柄でもある。
テルトナの勘の良さは迷宮探索においても重要な要素になりうるからだ。
そういった意図を込めてテルトナを見ていると、何を思ったのか、はにかむように笑みを浮かべるテルトナ。
嫌な予感がする。短い付き合いだが、テルトナは、普段そういう表情を浮かべない気がするのだ。
「私とレキの関係、か──。今思い出しても、とても熱くて激しかった……」
首もとをぎゅっと抑えて、そんなことを言い始めるテルトナ。
それを聞いて、わなわなと口を震わせるシジー。
「な、何をしたっすか! レキの兄貴!!」
「いや、ちょっとまて! 俺は何もしてないぞ! テルトナも、何を言い出すんだ!」
俺は思わず力一杯反論してしまう。
「ふふ、すまない、すまない。そう怒らんでくれ。二人がどうにも可愛らしくてな。少しからかっただけだ。──レキは、命の恩人だよ」
そう言い直すテルトナ。それを見たシジーは、なんだかとても複雑そうな表情を浮かべると、そのままため息をついて、うつ向いてしまう。
「あたしだって助けてもらったっす……」
そう呟いたシジーの声は小さすぎて、俺の耳までは届かなかった。




