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聖遺物

「聖遺物っ!」

「テルトナ、声が大きいですよ」


 俺の手を離して、しーっと言いながら、テルトナの口元に自分の人差し指を当てるリニ。


「す、すまない。それでだ、聖遺物の存在が本当に確認されたのかっ……ぐむっ」


 一度は小声で謝るも、待ちきれないとばかりに立て続けに質問するテルトナ。その声がすぐまた大きくなりかける。


「しーっですってば、テルトナ。大きなお声は、メッ、です。──もう。確認は当然まだです。そのための調査になります。しかし、今回の件で予算がつくぐらいには、教会は本気と思って頂いて結構ですよ」


 人差し指でテルトナの唇をぐにぐにと押しながら、俺の方を向いて相変わらずの囁き声でそう告げてくるリニ。

 唇ぐにぐには、大きな声を出したテルトナへの罰らしい。


「リニ! リニ! ストップ~! 指が、入るって──」


 テルトナがなんだか面白い顔になっている。


「なあ、それで聖遺物ってのは何だ?」


 狭いベンチで俺越しにワチャワチャとしているリニとテルトナ。俺は身を引きながら、リニにたずねてみる。一応、ちゃんと小声にするのも忘れない。


「──はぁはぁ。聖遺物というのは、かつて神々が大地を歩いていた時代の遺産、といわれている。とてつもない力を秘めた品物らしいぞ。それ1つで都市が1つ滅ぶとか。ただ、現存すると公に言われているのはたった1つだけ、だ」


 ようやくメッ、から許されたらしいテルトナが、口許を袖でぬぐいながら小声で俺に教えてくれる。


「帝国の悪辣皇帝が所有をうたっていますね。ただ、教会はそれを正式に認定してはおりません」


 取り出したハンカチで指先を拭きながら澄まし顔に戻るリニ。


「さて、あとは今回の依頼の報酬をお話ししなければ。バクシーさん、ギルドの設立の後ろ楯がほしくないですか?」

「……どうして、俺がギルドの設立をすると思うんだ?」

「ほら、そこは私の加護のあれこれですって。で、どうです? 教会が後ろ楯になりますよ?」


 リニは、拭き終わった人差し指を意味ありげに振りながら、こちらを見つめていた。

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