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霊研の探偵さま  作者: とど
四章
62/74

26−2 家族には恵まれない


「……ああ、今回も“ハズレ”か」


 その子供は、広い屋敷の中で一人誰にも聞こえないくらいの声でそう呟いた。

 まだ三歳になったばかりの男の子。本来ならば大人が傍に居なくてはならない年齢であるにも関わらず、彼は一人広すぎる部屋の隅でぼんやりと天井を見上げながら大人しく思考に耽っていた。

 母親はいない。この家で散々迫害されて来た彼女は子供が生まれて一年も経たないうちに心身共に限界になって死んだ。いや、殺されたも同然だ。

 父親もいない。いや居るのは居るが、三歳になるまでに片手で足りるほどしか会ったことがない。居ないも同然だ。


 榧木家という、連綿と続く無駄に古い家系。過去には政治家も何人も排出したその家は今でもある程度の権力を有し、無駄に金もあった。そう、無駄に。


「優しそうだった母親は死んで、クズの父親だけはのびのびと生きてる。……はあ、本当に僕はいつまで経っても家族には恵まれないんだな」


 三歳にしては異様に流暢に喋るその子供の名前は一夜と言った。正し本人はその名前を聞いても嫌そうにするだけだ。

 子供らしかぬ言動で溜め息を吐いた彼は、この先まだ十五年は自由に生きられないのだと悟って遠い目になった。長い。長すぎる。子供の十五年がどれだけ長く感じられるのか、彼は嫌というほど知っている。

 何せ、何度も経験して来たのだから。


「……ホントに、いつになったら僕は本当の家族が出来るんだろう」




    □ □ □  □ □ □




「一夜君は当然知っていると思うけど、榧木の家は昔から当主には絶対的な権力があって言うことには絶対に逆らえないわ。たとえどんな些細なことでも、当主が決めたことなら私達家の者は必ず従わなくてはならない」

「全く馬鹿馬鹿しいね。そんなに人を操りたいんなら人形とでも遊んでいればいい」

「ちょっと一夜君」

「……まあ君に当たっても仕方の無い話だ。ごめん、続けて」

「今の当主はお爺様……私とあなたの祖父よ。流石に覚えているでしょう?」

「ん……まあ、多分」


 月乃の言葉に櫟はちょっと考えた後に投げやりに返事をした。「あっ、これ絶対に覚えてないやつ」と千理は心の中で悟りながら情報を整理していく。


「櫟さんとそちらの……月乃さんって従兄弟なんですか?」

「ええ。私の母親が一夜君の父親の妹なの」

「とは言っても僕は庶子でね。いくら当主の孫とは言ってもあまり良い扱いはされなかったよ」

「けどお爺様はあなたに期待していたわ。あなたは昔から聞き分けが良くて頭も良かったから。だから私と結婚させてちゃんと榧木家に置こうとしていた」

「全く大きなお世話だ。君にもとばっちりが行って悪かったね」

「別にとばっちりとは思っていなかったけど。あなたはあの家では随分とまともな人だったから、許嫁だってそこまで嫌じゃなかったわ」

「他の変な大人と結婚させられるよりマシだって?」

「……そうね。正直に言うとその通りだった」

「とんでもねえ家だな……」

「センリの家といい、お金持ちの家って大体中身酷いの?」

「そういう訳ではないと思いますよ。たまたまです」


 金持ちの家が全部こうだったら流石に今頃世間に情報が出回っているだろう。だが恐らく天宮や榧木のような家が他にも無い訳ではないだろうなとは千理も考えていた。


「……今更だけど、“櫟”って何? 一夜君もしかして婿養子にでも入ったの?」

「まさか。僕は結婚なんてしないよ。けど櫟は僕の名前だ。榧木一夜なんて戸籍上の名前なんかよりずっと大事な、ね」

「……?」

「それで、その爺さんが生き返ったというのはどういうことなんだ?」

「あの、お爺さんが生き返ったというのは」


 先に言われていた言葉がずっと気になっていた愁が口を挟む。それを代わりに千理が尋ねると月乃ははっと我に返って再び怯えたように顔を青くした。


「三ヶ月前、お爺様は病気で息を引き取ったわ。医者が死亡確認もしたし、私も式に参列した。……けど、一部の家の者が――うちの母親達がそれを良しとしなかった。お爺様を生き返らせると言い始めたのよ」

「は?」

「母さんはどうしても伯父様が次の当主になるのが耐えられなかったみたいだし、他の人にもそれぞれ思惑はあったみたい。それで、火葬するのに待ったを掛けて家に遺体を持ち帰ったの……それからが、地獄の始まりだった」


 祖父の信者、次期当主が気に入らない者、遺産の分け前を求めて遺言状を書き変えてもらいたい者。各々が醜い欲望で祖父を生き返らせようと屋敷の一室へ入っていった。そして、少し時間を置いた後――その部屋から悍ましいほどの悲鳴が響き渡ったのだ。


「悲鳴?」

「その部屋の中に居た人間は……全員死んでいたのよ。代わりに部屋から出て来たのは、死んだはずのお爺様だった」

「!?」

「皆、部屋の中で血塗れでぐちゃぐちゃになって、お、お母さんの腕が千切れ、て」

「月乃さん!」


 その時の光景を思い出して月乃は喉から胃からこみ上げて来そうになるものを必死に押さえ込んだ。鈴子が落ち着かせるように背中を撫で続けると、徐々に荒い呼吸を落ち着かせた彼女は、自分の体を抱きしめるようにして再び口を開く。


「部屋の外に居た私達には何が起こったのかちっとも分からなかった。けど混乱している私達にお爺様がこう言ったの『これらと同じようになりたくなかったら俺に従え』って。……元々お爺様の言うことは絶対だったけど、勿論破ったからって殺されるなんてことはあり得なかった。けど、あれからお爺様は豹変した。逃げようとした人や、警察に連絡しようとした人はすぐに殺されて、どんな些細なことでもお爺様の機嫌を損ねることは許されなくなった」

「……」

「酷いなんてものじゃないわね」

「ああ。何とも醜悪な……」

「何をしたのかは分からないけどお爺様は生き返った。そして榧木家をただの“よくない家”から“地獄”へ変えてしまった。最近じゃ、人が死にすぎて人手が足りなくなったのか、外から人を連れて来ようとして……」

「それで、血の繋がりのある僕を連れて帰らせようと」

「……ごめんなさい。でも、私はどんな手を使ってでもあなたを連れて行かないといけない」

「待って下さい! そんなことをしなくても、あなたもこのまま家に帰らなければいいじゃないですか!」


 月乃の表情からすっと怯えが消え、代わりに覚悟を決めた表情で櫟を見据える。しかしそこへ慌ててコガネが割って入った。


「今はそのお爺様にだって見られていません。このまま警察へ保護してもらえばあなたは殺されることはありません」

「コガネさん、違いますよ。きっとそれで解決する問題じゃない」

「え?」

「家族……旦那さんか子供かが人質に取られているんじゃないんですか」

「! な、ん」

「指に結婚指輪の跡が残っていますし……それに自分だけでも逃げられるんならとっくに逃げているでしょう。そのお爺さんだって盗聴器も発信器も無しに自分の殺人を知っている人間をほいほい外に出すなんてありえない。だから、まだ居るんじゃないんですか。その家にあなたの大事な人が」


 千理の指摘に、月乃はがくりと体から力を抜いた。英二にも見覚えのある光景だ。取調室で言い逃れの出来ない証拠を突きつけられて罪を認めざるを得なくなった犯人の姿である。


「別に僕を殺そうとしたと言っても怒らない。全部正直に喋ってくれないか」

「……逃げようと思ったの。私と夫と、娘の三人で。けど直前で見つかって……夫は殺されそうになった」

「殺されそうに? つまりまだ生きているんだね?」

「かろうじて、よ。このままだといつ死んでもおかしくない。……けど、お爺様が『代わりに新しい旦那を連れてきたらどうだ』って!! 笑って言ったのよ!!」

「……」

「私の指輪を奪って、子供を人質にして、誰も連れて来ないんなら今度は子供を殺す、その方が身軽で相手を探しやすいだろうって……!」


 ぎりぎりと音が聞こえそうになるくらい強い歯ぎしりをして、月乃は憎悪を持て余して目の前の机に両手を叩き付けた。


「一夜君あなただって! あなただってあの家の人間なのに! どうしてあなただけ平和に暮らしてるのよ!? 許せない……私だって、」

「事情は分かった。つまり僕は君と共に榧木家へ行けばいいんだね?」

「!?」


 更に怒鳴ろうとしていた彼女がさらりと告げられた言葉に思わず息を詰まらせた。


「え、櫟さん」

「正直他人なんて、ましてやあの家の人間なんてより一層どうでもいいが、僕が動かなかったことで結果的に死人が出るのは寝覚めが悪いからね。それに何より、人が生き返ったなんてとても興味深いじゃないか。是非とも実際に見てみたいものだ」

「……ば、バカじゃないの。一夜君あなた、自分で死にに行くって言ってるのよ?」

「そうやって結局心配する所、君の人柄が出てるね。良かったよ、君が僕と結婚しなくて」

「は?」


 櫟の言葉を何一つ理解できずに困惑している月乃を置いて、櫟は「ちょっと出掛けて来るから後よろしく」と英二に言付けて立ち上がった。帽子を被り、さっさと出て行こうとする櫟は、状況に取り残されている月乃を振り返り「早くしなよ」と彼女を促した。


「ほ……本当に、いいの」

「だからそう言って……ああ、それじゃあ一つだけ条件を付けようか」

「条件?」

「櫟。僕のことはそう呼んでくれ。それが“君”の家のことを対処する条件だ」

「対処……って、何するつもりなの!? 可笑しな動きをしたらお爺様が」

「大丈夫大丈夫。君も此処の看板を見て来ただろう?」


 戸惑いながらも後を着いて着た月乃に見せるように、櫟は片手で外壁に取り付けられた看板に指を滑らせた。


「霊能事象調査研究所。霊研の所長として、人間が生き返ったなんてありえない事象を放置することは出来ないからね」




「……インチキ霊能力者なのに?」

「やっぱり行くの止めようかな」




    □ □ □  □ □ □




 結局なんだかんだありつつも月乃が運転する車に乗り込んだ櫟は、外を流れていく景色を眺めながらちっとも記憶に残っていないなと小さく苦笑した。もうまもなく家に着くと言われたというのに、近所の景色はまったく見覚えがない。つくづく榧木の家に興味が無かったんだなと改めて自覚する。


「ひ……櫟君、着いたわよ」

「どれどれ。……へー」


 これは酷いな、と車から降りた櫟は大きな屋敷を見上げて第一声を口にした。家自体は立派なものなのだろう。千理の実家を見た時も思ったが、庭も家屋も圧倒的に大きく、そしてしっかり手入れもされている。

 だが天宮家との違いは、足取りが重くなる気がしてしまうほどの粘っこい怨念漂う空気だった。外から見ただけでも何人かの黒い靄を纏った霊が徘徊しており、霊研の案件でも中々お目に掛かれないほどに濃密な霊の気配が家の中から手招きしている。

 たとえ見知らぬ家でも放置することは出来なかっただろう。櫟は早足で広すぎる庭を歩き出すと、時々襲いかかって来る浮遊霊を片手で成仏させながら玄関の扉を開けた。


「どうもー、元この家に住んでいた者ですが、御当主様はご在宅でしょうか?」

「ちょ、櫟君!」


 ずかずかと土足のまま家に上がった櫟は足元に残る血痕にちらりと目を落としながらどんどん家の中へ入って行く。月乃も慌てて追いかけてその背中に追いついたものの、「危ないからもう少し下がって」と振り向いた櫟に軽く肩を押された。


「危ないって……というかお爺様の場所分かるの?」

「嫌というほど怨念が溜まって濁りきっているからね」

「怨念……」


 まだ半信半疑な顔をしている月乃を無視して、櫟は迷いなくドアを開けてどんどん家の中心部へと足を進めていく。そうして彼は、とある扉の前で一度立ち止まった。他の扉とは明らかに違う重厚なその扉を見上げると、彼は一度呼吸を整えてからその扉をゆっくりと開く。

 ――その瞬間、噎せ返るような血の匂いと腐臭が一気に全身に襲いかかってきた。


「っう、」

「……まったくどいつもこいつも、人間も妖怪も自分の目的を果たす為なら何をしてもいいと思っているのか?」


 櫟の足元に転がる誰かの死体。部屋の中へと視線を向ければ他にも何人もの死体があちこちに散らばり、そして視界を覆い尽くすほどの幽霊が縦横無尽に彷徨いながら恨み言や悲鳴を上げている。地獄絵図だ。いや、いっそ地獄の方がマシかもしれない。


「櫟君……この部屋を通り抜けた先にお爺様がいるわ」

「成程ねえ。その爺さんに会う過程で嫌というほど恐怖を植え付けて反抗する気を失わせる訳だ」


 櫟はひょいひょいと軽い動きで遺体を避けながら先へ進む。そしてあっさりと次の扉に手を掛けた。


「おっと、」

「きゃああっ」


 しかし開けた所で突如真正面から誰かが倒れ込んできた。櫟が咄嗟にそれを避けるとその人物は背後に居た月乃の足元で床に転がり、ごろんと転がって仰向けになった。


「お、伯父様……」


 倒れたているのは額から血を流し、白目を剥いて痙攣している男だった。それがよく知る人物だと気付いた月乃は悲鳴を上げて後ずさり、しかし背後にも遺体があることに気付いて動けなくなった。

 月乃が伯父と呼んだということは彼は櫟の父親であるはずである。しかし櫟は倒れた彼がまだ死んでいないことだけを確認するとあっさり興味を無くし、前を向く。そして彼が見る先には、部屋の奥に鎮座する大きなソファにゆったりと腰を掛けて自分達を見る老人の姿があった。

 そしてその傍ら、ソファに寄り掛かるように床に座り込んでいる幼い少女の姿も。


「生け贄を連れて戻って来たか。残念だ、お前一人で戻って来たのならこの子供もあの世へ行けたというのにな」

「花!」

「まあどうでもいいか。では貴様は次の贄を連れて来い。この贄は今から使うのでな。またすぐに次の贄が必要になる」


 月乃が子供に駆け寄ろうとする。それを目の前に立ち塞がって邪魔をした老人は、にたりと皺塗れの顔を歪めて彼女を見下ろした。


「約束が違う! 私はちゃんとこの人を連れてきた! だから娘を……!」

「はて、約束などしたかな。生憎もう年でな、物覚えが悪くなって来ているからそんな記憶は――」


「嘘もそれくらいにしたらどうかな。あんた、見たところまだ四十代だろう」

「……は?」


 月乃の心に明確な殺意が宿り掛けたその時、急に割って入ってきた呆れたような声に彼女は一瞬気を取られた。


「また生き返りだの蘇生だの馬鹿馬鹿しいことを言い出したやつが居たかと思ったらしょうもない。ただ……死体に別の魂が入り込んでいるだけじゃないか」


 櫟は月乃を後ろに追いやると老人の前に立つ。にやにやと笑っていた彼も、自分を恐れるどころか軽蔑するように冷ややかな視線を向ける男を前にして笑うのを止めた。


「だがここまでしっかり魂が定着しているのを見るに、ただの浮遊霊が取り憑いただけじゃないね。一体何をした?」

「……は。女、お前。まさか俺を騙したのか?」

「え、騙し」

「俺を祓おうと霊能力者を呼んだのか。約束が違うぞ。ならばこの娘は――」

「何を開き直っているのかな」


 老人の手が少女に伸びる。その細い首をへし折ろうと開かれた手は、しかしその前にあっさりと櫟に掴まれて捻り上げられた。床に押さえつけた老人の上に乗り腕を背中に回した櫟は「体が老人なだけ大したことないね」とどうでもよさそうに言った。


「例えいくら力が弱かろうが平気で他人を殺せるというだけで人間は恐れを抱く。死体を放置して恐怖心を更に煽りこの家の人間を操り人形にしていたんだろうが……生憎僕にはただのチンピラの幽霊が調子に乗ってるようにしか見えないね」

「放せ、この」

「うん。色々と聞きたいことはあるけど、此処には他にも幽霊が沢山いるみたいだし君に聞く必要はないかな。まあそういう訳だ。――本物の地獄で罪を償いなよ」

「やめ、ぐ、うおおおあああああああ!!」


 櫟の右手が老人の頭に乗せられた。その瞬間、醜い絶叫が部屋の中で響き渡り月乃は思わず耳を塞いだ。やせ細っていた老人の体が更に枯れ木のように朽ちていき、そして恐怖の表情のまま固まって床に倒れ伏した。一応、と櫟は手首の脈を取る。案の定、何の反応も無かったし体は冷たかった。


「さて、とりあえず一段落ということで」

「……一夜君、こ、殺したの?」

「櫟ね。元々死体が勝手に動いていたんだけど……まあ僕が殺したと思うのならそれでもいいよ。それじゃあ僕はそこら辺の幽霊に話聞いてくるから」


 娘をようやく抱きしめた月乃が混乱しながら櫟と老人の遺体を交互に見つめる。あれだけ恐れ続けていた元凶が、こんなにも呆気なく死んだ。ようやく地獄から解放されるだとか、今までの奴隷生活は何だったんだとか、むしろどうしてもっと早く助けに来てくれなかったんだとか。彼女自身も訳が分からなくなるほど様々な感情がぐるぐると回り続ける。


「――待って、櫟君」


 けれど再びあの遺体に塗れた部屋へ戻ろうとしている櫟を見て、月乃は咄嗟に彼を呼び止めた。


「ありがとう。……本当に、助けてくれて、ありがとう……!」


 少なくとももう、命を脅かされる心配も、他人の命を踏み台にしようとしなくてもいい。娘を強く抱きしめて泣きながら何度もお礼を言うと、振り返った櫟は何とも言えない表情で軽く頬を掻いて「どういたしまして」と小さく呟いた。


「僕は霊研の所長として見逃せなかっただけだ。それよりも早く旦那さんの為に救急車でも呼んだ方がいい」


 そう言って、櫟はさっさと踵を返して気分が悪くなる前の部屋へと戻った。途中で父親らしき男を軽く蹴飛ばしてしまった気がするが多分気の所為だ。


「……本当に、この家は最悪だな」


 暗い部屋に血がこびり付き、肉片が転がり、蟲が湧いている。おまけに上を見れば恨み辛みだらけの幽霊しかいない。

 最悪だ。この家も、住んでいる人間も全て。――だからこそ余計に、相対的にまともな人間はそれだけで好意的に見えてしまう。少なくとも、十五年この家に縛られている間悪意もなく接してくれた人間には。


 再会するまで本当に忘れていたのは事実だ。そして当時も恋愛感情までは抱いていなかった。だが、こうして彼女ともう一度あって思うことは。


「君が僕と結婚しなくて本当に良かったよ」




 そうでなければきっと、彼女は今頃こうして生きてはいないのだろうから。



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