20-2 破れ鍋に綴じ蓋
「天宮君、どうしたの?」
夕暮れの学校、その生徒会室に忘れ物を取りに戻った舞は、下校時間を過ぎたというのにまだその教室に残っていた生徒を目にして思わず話しかけた。
「あれ、針谷さんこそ何かあった?」
「私は忘れ物があって」
「そうか。僕はちょっと残りの仕事を片付けてから帰ろうと思ったんだけど……」
彼らはこの学校の生徒会役員だ。針谷舞は書記、天宮万理は会計で二人で話すこともよくあるが、しかし友人と言っていいのか微妙なラインの関係性だった。
舞としては出来ることならもう少し距離を縮めたい。しかし相手はかの天宮の一人息子で正式な跡取りだ。一般家庭よりは裕福な家庭に生まれたと言っても舞とは生きる世界が違う。だからこうして片思いをしているだけで満足なのだと彼女は何度も自分に言い聞かせていた。
万理は軽く手招きをして手に持っていた紙を舞に見せた。それは少し前に受けた模試の上位百名が記された順位表で、当然ながら一番上には万理の名前が記入されていた。
「天宮君また一位だったんだ。おめでとう」
「ありがとう。けど見ていたのはそこじゃないんだ。ほら、十位のところ」
「十位?」
ずらりと並んだ氏名を下に辿る。すると十位の欄には伊野神千理という聞いたことのない名前があった。
「僕と名前が似ているから気になってね」
「ああ……万理と千理、確かに似てるね」
「うん。この子、いつもは二十番くらいなのに今回はちょっと頑張ったなって思ってね」
「知り合いではないの?」
「……そうだね。違うよ」
万理が目を細めて十位の名前をなぞる。夕日に照らされた彼の表情は非常に優しくて、自分に向けられたものではないのに思わず心臓が高鳴った。
「さて、そろそろ帰らないとね。針谷さんも一緒に帰ろう。もうすぐ暗くなるし危ないから送るよ」
「そんな、いいよ。私よりも天宮君の方が遅くなったら危ないでしょ。ほら、天宮の跡取りなんだし」
「大丈夫だよ。一応見えないように人は付いてるし、それに……」
「?」
「僕だってたまには好きな子と一緒に帰りたいんだ。駄目かな?」
「……ええ!?」
含むような笑みを浮かべた万理は、先程とは全く違う表情だというのに同じように、いやそれよりも格段に心臓が早くなるのを感じた。
最初はからかわれたのかとも思った。けれど万理は真剣に舞に想いを告げて「僕の恋人になってほしい」と口にした。
正直その言葉は舞には信じがたかった。自分の都合の良い夢を見ていると思った回数は計り知れず、本当に自分のことが好きなのかとどうしても疑ってしまった。
けれどもその度に万理は舞の何処が好きなのかをつらつらと列挙し、「色々言ったけど結局のところ好きだから好きなんだ」と理知的な彼には珍しい言葉と共に照れたような微笑みを向けられた。片思いの相手にそんなことを言われて陥落しない訳がない。
「舞」
気が付けば名前で呼ばれるようになって、舞も「万理って呼んで欲しい」と言われて少しずつだがその呼び方に慣れていった。そんな初々しいやりとりも、忙しい万理が時間を作って放課後にちょっとしたデートをする日々も、舞にとっては夢みたいな時間だった。いつかその夢から覚める時が来るだろうと分かっていても、それでも彼女はその時間が手放しがたい大切なものになっていた。
「万理君、何見てるの?」
けれどやはり、そんな幸せな日常は少しずつ音を立てて崩れていった。
学外で模試を受けた後、舞は一緒に帰ろうと万理を探していた。目当ての明るい茶髪を見つけた彼女は声を掛けようとしたが、その前に彼がどこかをじっと見つめていることに気が付く。
「ああ……いや、なんでもない。帰ろうか」
「うん……?」
振り返った万理は優しい表情を浮かべていた。いつも穏やかな彼がそうした顔をすることは珍しくはないが、それでも何処かで見たような表情だと感じた。
「千理お疲れ! ねえねえどっか寄ってかない?」
不意に、人混みの中でそんな声が舞の耳に入って来た。
「いいね、この前行ったパフェのお店にしない? 期間限定でチョコレート尽くしのやつが出てるんだよね」
「ほんっとチョコレート好きだよね。おっけー、澪にもメッセージ送っとく」
そんな何処にでもあるような女子高生のやりとり。しかし舞にはどうにも引っ掛かるものがあった。
振り返った先は先程万理が見ていた方向。そこにいた彼の色に似た茶色のショートカットの少女が友人らしき女の子と話をしているところだった。
「……千理」
聞き覚えのある名前だった。そしてその瞬間、舞は先程の万理の表情をいつ見たのかを思い出す。あの夕暮れの生徒会室で見た、ひどく優しげな顔が今の万理と綺麗に重なった。
「舞? どうかしたのか」
「……ううん、なんでもない」
立ち止まっていた舞を訝しげに見た万理が彼女の視線を追いかける。その先を見て無意識にか目を細めた彼を見て、舞は「やっぱり」と何処か確信を持って理解した。
万理にあの表情をさせるのは、彼女なのだと。
話はそれでは終わらない。相変わらず毎度模試の度に順位表を見て嬉しそうにする万理を見て、舞の心が焦燥に駆られる。いても立っても居られなくなった彼女が伊野神千理について尋ねると、彼は隠すことなくぺらぺらと話し始めた。
「伊野神さんはすごいよ。毎回成績も上位で、特に歴史なんて毎回満点だ。数学も苦手だろうに頑張っているし、僕も負けていられないよ」
「でも万理君は毎回全部満点で一位でしょ?」
「それはそうだね。僕は天宮の跡取りだから、半端な点数は許されない。けど伊野神さんはそうじゃない。強制されていないのに自分の意志で頑張ってるんだから、そっちの方がすごいよ」
順位表には他にも成績優秀者なんていくらでも居るのに、万理が殊更に褒めるのは千理だけだ。いくら名前が似ているから親近感を抱いていると言っても流石におかしいと思った。
そもそも本当に知り合いではないのか。模試の際に彼女を見ていたことから考えると一方的に知っているということなのか。もし本当は知り合いなら、舞は万理に嘘を吐かれたことになる。
「……すごいね、伊野神さん」
「ああ」
けれどそれを追求することはできず、舞は心のうちに泥のような淀みが溜まっていくのを感じながらも決して口に出すことはなかった。
だが限界というものはやってくる。
「天宮、聞いたぞ。なんでも初めてお前主導で新たな店を作るんだってな」
生徒会室の隣で資料整理をしていた時、隣の教室から生徒会長のよく通る大きな声が聞こえてきた。
「……耳が早いな。少し前に決まったばかりなんだが」
「家の関係でちょっとな。それで、どんな店にするんだ?」
「まだ構想の段階でばらすわけないだろう」
「少しぐらいいいだろ? 別にお前のところとうちはシェアが被る訳でもないんだからな」
航空会社の社長の御曹司である生徒会長の楽しげな声を聞きながら、舞は無意識のうちに生徒会室の方へと身を寄せた。万理の家のことについてはあまり聞かないようにしていた舞だが、やはり好きな人のことを知れるのならば知っておきたい。
「……チョコレート専門店」
「は? チョコ? 老舗和菓子店の天宮が?」
「別におかしくはないだろう。業種は同じだし新たに洋菓子に手を広めるというのも若い層の指示を集める為に必要なことだ」
「つっても今まで天宮は和菓子だの和食だの日本独自の伝統を大切にしてますって売り文句じゃなかったか? よく反対されなかったな」
「勿論されたさ。けどねじ伏せた」
「何でそんなに拘ったんだよ。最初の店なんだから博打なんてせずにほどほどのもん作っときゃあいいのに」
「……約束したんだよ」
扉の向こう側で、何故が万理が笑ったのが見えたような気がした。
「大きくなったらチョコレートの店を作るって、昔約束したんだ」
「へえ? 誰と?」
「それは言えない」
「ふーん……あ、もしかして初恋の子とかか? 安心しろって針谷には黙っといてやるから」
「別にそういう訳じゃない……が、そうだな」
「ん?」
「一言だけ言わせてもらうんなら、本当に本当に大切な子だよ。あの子には絶対に幸せになってもらいたい。その一端になれたらって思って作ろうと思ったんだ。チョコレートを食べる時、あの子は本当に嬉しそうにするからね」
「いや全然一言じゃねーな。その子のこと滅茶苦茶好きじゃねーか」
「当然だよ」
舞は愕然として、思わず持っていたプリントを床にばら撒きそうになった。それ以上話を聞きたくなくて、ふらふらと椅子に座った彼女は、力なく頭を机に付けて上半身を横たわらせた。
「……好き」
万理が、大切で大切で仕方の無い子。話しぶりからして恐らくは女の子だ。約束を守る為に天宮の家を動かすほどに、好きだと言われて当然だと即答するほどに彼はその子のことを想っている。
チョコレート、天宮の家とは相反するもの。それを好むらしい人に舞は心当たりがあった。あの日偶然聞いた会話。本当にチョコレートが好きなんだなと友人から言われていた少女――伊野神千理。
ただの偶然だと思うだろうか。けれど万理が千理について話す時と、今の“あの子”について話す熱量が似ている気がした。だからきっと、そうに違いないのだ。もしそうでなくても、万理が本当に大切にしている女の子がいることには変わりない。
舞の為では絶対にない。彼女は甘い物がとても苦手だった。それは万理も知っていることで、生徒会に差入れを持ってくる時も必ず舞の為に甘くない物も用意してくれた。けれど舞はその気遣いに毎回申し訳ない気持ちになった。
彼の家の和菓子を食べられない。けれど彼女とは違い喜ぶどころか好きな物の専門店を作ろうとまで思われている子がいる。羨ましい、ずるいと心の中で見にくい泥が沸き立つ。
万理が自慢する伊野神千理は、舞とは正反対の人間だ。勉強が得意でチョコレートが好きで、遠目に見た限りでは身長も低くて女の子らしい。万理と数㎝しか違わない高身長は周りの女子からは羨ましがられるが、舞にとってはコンプレックスだった。
「伊野神、千理」
何度も何度も万理の口から聞いた名前。その名前を聞く度にどんどん嫉妬が膨れ上がって、黒い感情に支配される。自分は万理の恋人なのに、どうして彼は私を見てくれないのだろう。何かしら事情があって会いに行けない千理の代わりに、たまたま舞が選ばれただけなのだろうか。
違う、万理はそんな不誠実な人間じゃない。そう言い聞かせようとしても、先程の言葉がぐるぐると頭の中を回った。
彼にあれほど想われる千理が羨ましい。自分に当てつけるように彼女を褒める万理が憎い。……そんな風に他人を妬む自分が、大嫌い。
舞の心の中で毒が蔓延して、いっぱいに満たされて、そして――
□ □ □ □ □ □
「有罪!!」
イリスの小さな人差し指がずび、と万理の眼前に向けられた。
「え、いや」
「彼女の前で余所の女を褒めちぎるとかどういう神経してんのよ!! 有罪! 死刑よ!」
「だが、千理はいも」
「説明の無いのに分かるかそんなの! センリを褒める前にもっと言うことがあるでしょうがおバカ!」
怒り狂ったイリスがどれだけ言っても言い足りないとばかりに叫び続ける。そのあまりの怒りっぷりに万理は戸惑いながら萎縮し、舞に至っては先程までの憎悪を忘れてぽかんとその光景を見守ってしまっていた。
「ま、まあイリス。落ち着いて……さっきも言ったけど、あんまり表沙汰に出来る話じゃなかった訳で」
「だったら最初から全部言うな!」
「あ、はい。そうですね」
「……イリス先輩、俺が言った時は怒るどころか爆笑してたんだが」
「うるっさいわね! あんたは彼氏でもなんでもないでしょうが!」
「ぐっ」
的確にぶっ刺された愁が大ダメージを食らって呻いた。
「さてイリス、説教は結構だが少し落ち着くべきだ」
その時、腕を振り乱して怒りを露わにしていたイリスが背後からひょいと抱き上げられた。
「は?」
「これは彼らの問題なのだからこの二人に話し合う機会を与えなければならない」
「な……何してるのよアルマ! 放しなさい! ってなんで膝に乗せるの!?」
「一番拘束に適していると判断したまでだが」
「っスズコ、助け……なんでそんなにこにこしてるのよ!?」
椅子に座った或真の膝の上に座らされたイリスが羞恥で顔を真っ赤にしながら叫ぶ。が、周囲の誰もが微笑ましげ表情で見守っておりまったく彼女を助けてくれる様子はない。
「……舞」
わあわあと騒ぐイリスを流されるまま見てしまっていた舞は、ふと目の前にやって来た万理を見て思わず一歩後ずさった。途端に血の気が引いた。怒りと憎しみに任せて彼の首を絞めようとした。一度冷静になってしまえば自分の行いがただの嫉妬による殺人未遂であることが客観的に分かってしまった。
「僕は君をずっと傷付けて苦しめて……それに気付きもしなかった最低な人間だ。今君の話を聞いて、あの子に怒鳴られてやって分かった。此処までしないと理解できないような愚か者だ。……本当に、すまなかった」
「万理君、あの……聞いても、いい? その……伊野神さんのこと」
「勿論だ。いずれは君にも伝えるつもりだった。僕が会社を継いで、あの馬鹿げた家の伝統をぶっ壊したら説明しようと思ってたんだ」
「どれだけ待たせる気だったのよ!? もが、」
「イリス、今は沈黙の刻だ」
「千理、こっちに。舞、この子は伊野神千理、名字は違うし別の家に養子に入ってはいるが……僕の大切な双子の妹だ」
「双子の、妹」
舞が万理と千理を交互に凝視する。髪と目の色は確かにそっくりだ。だが双子というほど似ている訳ではない。髪の色だって、兄妹だと言われなければただお揃いのようでお似合いに見えるという妬みの対象にしかならなかった。
「針谷さん、色々とすみませんでした。私は十歳の時に天宮の家を出て、それからずっとお兄様とは会っていませんでした。会うのも、兄妹であるということを誰かに言うことも禁じられていたんです」
「なんで……だって兄妹なんでしょ?」
「天宮の忌まわしい慣習だ。天宮にいるべきは有能な人材のみ、必要とあらば分家から引き抜くこともあれば、逆に無能は天宮にいる価値はないと切り捨てられ、本家と関わることを禁じられる」
「そんなことが」
「信じられないかもしれないが、この時代でもあるんだ。天宮は伝統に取り憑かれた家。正直、今のままなら滅びるべきだと思っているよ」
「でもお兄様なら変えてくれる。そうでしょ」
「そのつもりだ。何しろ今にも政略結婚なんて持ち出して来そうな勢いだからな。そんなことになったら舞と結婚できないじゃないか。冗談じゃない」
「……え?」
「あ」
思わず滑り落ちた言葉に暫し室内が沈黙で満たされた。じっと全員の視線が万理に向き、咄嗟に口を押さえた万理は目の前で沸騰しそうになっている彼女に必死に弁解を始めた。
「ち、違うんだ。まだ言うつもりじゃなくて! ちゃんと家を継いで邪魔な膿を出して、しっかり基盤が整ってから言うつもりで!」
「あー……坊ちゃん、何の言い訳にもなってねえぞ」
「英二さん余計な茶々入れないで下さい!」
「いや言うだろこれは」
「まだ高校生で結婚とか重っ。センリと良い勝負」
「あら、愛は重ければ重いほどいいじゃない」
「そういえば手形で相手を特定してましたしね……重いですね」
コガネにまでしみじみと頷かれて千理はそれ以上何も言えずに黙りこんだ。愁は何故か落ち込んでいるし櫟は黙って全員を見守っているだけで収集がつかない。
「万理君……私なんかでいいの?」
わたわたと一人焦っていた万理に、ようやく顔の熱が収まって冷静になった舞が恐る恐る口を開いた
「私は、万理君が思っているような人間じゃないよ。嫉妬もするし、頭も良くない。伊野神さんはすごいんだって何度も言われて、それを当てつけみたいに感じて、恨んじゃうような心が狭い人間だよ」
「針谷さん、分かる。分かるぞその気持ち」
「え? あの、あなたは……」
「俺は桑原愁。俺も千理に天宮君はすごいんだよと惚気のように聞かされた。好きかと聞いたら大大大大大好きだと言われる始末だ。だからあんたの気持ちは嫌というほど分かる」
「……桑原君」
「針谷さん」
視線を合わせた二人がどちらともなく手を差し出して握手する。妙に分かり合っている二人を見てほんの少し千理と万理がむっと表情を不機嫌に変えるのを見た英二は「面倒くせえ兄妹だな」とぽつりと呟いた。
「……桑原君、そろそろ舞から離れてくれないかな」
「? ああ」
「愁、こっち来て。二人の邪魔しないの」
いつの間にか移動に慣れた万理が愁を舞から引き剥がし、すかさず千理が自分の隣へと誘導する。七年会って居なかったというのにそのスムーズなコンビネーションに舞はしばし二人を見つめ……そして、少しだけ笑ってしまった。
「本当に兄妹なんだね」
「ごめん、今まで何も言えずに」
「しょうがなかったんでしょ? でも出来ればあんなに他の女の子のことを褒めてるのを聞かされた私の気持ちにもなって欲しかったな」
「……大変申し訳ありませんでした」
万理が心の底からの謝罪と共に頭を下げると、舞は「次からは『伊野神さん』じゃなくて『僕の妹が』って言ってね」と微笑んだ。
「……千理のことを話すのはいいのか?」
「だって万理君にとって大切な妹のことでしょ。だったら私だって喜んで聞きたいよ。嫉妬を抜きにしたら、万理君が嬉しそうにしてるのを見るのは私だって嬉しいから」
「こんなシスコン男でも許しちゃうんだ……」
「優しい! やっぱりお兄様が選んだ人なんだから間違いないと思った!」
「一件落着という訳だ。よかったな千理」
「いいですかイリス、こういうのを破れ鍋に綴じ蓋というんです」
嬉しそうな千理を見て愁が余裕の表情で――とはいえ非常に分かり辛いが――微笑む。数時間前には「もう駄目だ」と心底落ち込んでいたというのに手のひら返しが早い。
万理は万理で、自分に非があったとはいえ相手が自分を取り殺そうとして来たことなど最早忘れていそうである。
何この兄妹……とイリスがどん引きしていると、その時万理に向かって微笑んでいた舞の表情が突然凍り付いた。信じられないような目で万理をまじまじと見つめ、周囲を見回し、最後に自分の体に視線を落としたところで――彼女は悲鳴を上げた。
「万理君なんて体が透けてるの!? というか私もだし、そもそも此処何処!?」
「いや今更過ぎないかな!?」
やっと落ち着いたのでそろそろ本題に……と立ち上がった櫟が思わず叫んだ。今まで混乱していたのは分かるが流石に今更過ぎる、と櫟は呆れた顔を浮かべていたがすぐに表情を引き締めて舞に近付いた。
「針谷舞さん、少し話を聞かせてもらっても構わないかな」
ようやく本題だ。多数の不審死を生み出した怪事件。ぎりぎり生き残ったこの二人の証言が鍵になる。




