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霊研の探偵さま  作者: とど
二章
30/74

13-3 必要経費


 神崎という男は、昔から自分を特別な存在だと思っていた。

 彼は幼い頃から人ならざるものを見る目を持ち、そして悪意を持って害そうとする彼らを排除する力も持ち合わせていたのである。


「君の力が必要だ。是非とも我々と一緒にやつらをあの世へ送ってくれないか」


 十五の時、とある墓地で霊を蹴散らしていた時出会った男にそう言われた瞬間、彼はやはり自分は特別な人間なのだと強く自覚した。その男はとある霊能事務所の男に所属する男で、おまけにそこは警察に依頼されて除霊を行うこともあるという。

 社会の裏に潜む怪異を人知れず殺す。日々そんなことに勤しむ自分は物語の主人公のようで……いや実際、彼は自分をこの世界の中心だと思い込むようになった。


「ありがとうございます! 本当に助かりました!」


 霊に取り憑かれていた依頼人を助けてそんな言葉を聞く度に、神崎はその認識をますます強くするようになる。だって自分は特別なのだ。この世の誰よりも特別な存在なのだと確信して、その他の人間は全て自分を引き立てる為の舞台装置でしかないと思うようになった。



 しかしそんな驕りも陰る日が来てしまった。警視庁から依頼された怨霊退治、いつものように余裕をかまして向かった現場で、彼は大怪我を負って命からがら逃げ出すしかなかったのだ。

 圧倒的な力。出会った瞬間に命を奪われることを想像してしまうほどに強大な呪いを撒き散らす存在を前に、神崎は初めて挫折を知り、幼い頃に最初に幽霊を見た時とは比べものにならない程の恐怖を覚えた。


「君でも勝てないのなら仕方が無い。警察に報告して調査室を動かしてもらうか他の民間業者に更に委託するしかないな」

「……」


 待ってくれと、自分はまだやれるという言葉は神崎の口から出て来なかった。だが自分が勝てない相手に、それもあれほど圧倒的な力を持つ相手に対抗できる人間などいるのか。

 いっそのこと誰にも勝てないのなら神崎の心に救いが生まれただろう。自分よりも強い人間など居ないのだと矜持を守ることが出来た。――だがそう考えたたった数日後、警視庁からの報告でその怨霊があっさりと討伐されたことを知り、彼の心は大いに揺らぐことになった。

 依頼はたった一人しか所属していない霊能事務所に委託された。神崎が重傷を負ったことで調査室の人間がもしもの時の為に一人同行したようだが、実際に動いたのはその男一人だったという。


 櫟という、神崎よりも少しばかり若い男。彼は調査室の人間の目の前でいとも容易く怨霊を成仏させたのだという。それも、術を使う素振りも見せず道具も武器も使用せずただ手のひらで触れただけで。


「未だに信じられませんよ。あんな怨霊もああも一瞬で――!」

「……」


 興奮気味に事の顛末を神崎に伝えた調査室の人間に、彼は唇を噛み締めてただ黙っていた。

 自分よりも優れた力を持った人間。そんな存在がいることは彼にとって耐えがたいことだった。怪我が治ってもその陰りは消えることなく、彼はとにかく櫟について調べることにした。

 霊能事象調査研究所――霊研を設立してまだ一年ほどのこの業界では新人も新人。だがその実力から警察の信頼も厚く難しい依頼も数々こなしている。しかし本人については不明な点が多く、突然降って湧いたように現れた実力者に期待と共に不信感も抱かれている。


「……何なんだこいつは」


 今まで同業者など歯牙にも掛けていなかった神崎が、初めてその男に脅威を抱いた。このままでは自分が築き上げてきた地位があっという間に奪われてしまう。

 焦っても怪我が治るまで動けない。そしてようやく仕事に復帰した頃には、“あの神崎”が断念した依頼をあっさりと解決したと界隈ですでに噂が広がってしまっていた。神崎を踏み台にして櫟はその地位を確立してしまったのである。


 とても許しがたいことだった。よりにもよって自分をだしにされたのである。許せない。許せる訳がない。

 だが神崎がどう思おうと櫟はどんどん評判を上げ、そして相対的に彼の評価は落ちていく。霊研は徐々に所属人数を増やし、更に警察からの信頼を得ていく。

 彼に勝てないと、神崎はそう認めざるを得なくなった。だけども幼い頃から膨れあがった承認欲求は彼をただの一霊能力者として人生を終えることを認めなかった。誰かに認められたい。敬われたい。その思いはどんどん強くなり――そして、再びの転機が訪れた。



「先生、今日もよろしくお願いしますよ」

「ええ」


 ごまを擦るように両手を握る強面の男に返事をして、神崎は目の前にいる恨み辛みを叫ぶ霊を消すべく術を放った。

 今の神崎は警察公認の霊能事務所所属であり、そしてヤクザの顧問霊能力者である。霊に襲われていたのを偶然助けた男がヤクザだったのをきっかけに、彼は高額の報酬と引き替えに彼らを霊的な存在から守ることになったのだ。

 ヤクザは恨まれやすい。生き霊から彼らが殺した幽霊まで、たびたび起こる心霊現象と呪いに困っていた彼らはこれ幸いと神崎を担ぎ上げたのだ。神崎からしても、裏の世界で権力を持つ彼らに先生と下手に出られて敬語で話されるのは気分が良かった。神崎は再び、自分の承認欲求を満たせるようになったのである。


 神崎を顧問とする暴力団は心霊現象にも非常に寛容だった。実害を受けていたのを救ったという理由もあり、彼の存在を厭う者は少数だ。だがその寛容も行き過ぎるのも問題である。幹部の一人が抗争で死んだのを理由に、なんと悪魔と契約して蘇らせてもらおうと考える馬鹿が現れたのだから。

 悪魔との契約など正気の人間がするものではない。実際契約は破綻して、計画を目論んでいた全員が死んだ。証拠を隠滅する方の気持ちになって考えてほしいものである。おかげで要らぬ労力を使い、表の仕事が忙しくなったこともあり非常に疲れていた。



「待って下さい、ペンを落としましたよ」

「……え?」


 だからこそ、あんな失敗をしてしまったのだ。

 表の仕事で警視庁を訪れた時、疲れでぼんやりとしていた所為で持っていたペンと落としてしまった。そしてそれは――何の因果が、よりにもよって一番まずい人間に拾われてしまったのだ。


 色つきサングラスを掛けた中年女性。彼女のことは霊研を調べていくうちに――いや調べていなくても嫌でも知ることになっただろう。

 透坂鈴子、彼女が起こした事件はこの界隈では非常に有名だ。何でも一夜にして何人もの人間を己の超能力をもって破滅させたという。彼女が触れたものは何もかも秘密を持つことは許されない。物も動物も、そして人も。

 そしてそんな人間が神崎のペンに触れてしまった。警察に出入りしている人間がヤクザと接点を持ち、それどころか彼らに協力している。更に言えば彼らと付き合う過程で口に出せないようなこともいくらかしてきたのである。もしも誰かにバレたら神崎の立場は一瞬で崩壊する。噂に聞く彼らのように、僅かな時間で社会的に殺されてしまう。


 どうする。このままでは殺される。なんとかしなければ。

 神崎は酷く焦りながら思考を巡らせた。そしてすぐに、殺される前に殺すのだと結論に至った。彼も既にヤクザ的な思考になっていることを自覚しないまま、彼はヤクザに協力を要請して鈴子を口封じしようとしたのである。


 だが、ここでも神崎の思惑は上手く叶うことはなかった。まさか二度に渡って失敗するなんて思っても見なかったのだ。相手は超能力者とは言え盲目の女一人。散々人を殺して来ておいて、そんな簡単なことさえできないのかと呆れもする。


 目の前で次こそはと頭を下げる幹部の男を冷ややかな目で見ていると、不意に視界が遮られた。この部屋の中で一番地位が高い自分を無遠慮に覗き込もうとする輩がいるのかと顔を上げた神崎は、その視線の先に現れた半透明の男を見て思わず一瞬思考を止めた。


「悪霊退散!」


 そして次の瞬間、彼は即座に目の前の男に向かって術を放っていたのである。男――学ランの少年はそれを避けきれずに左足を負傷したが、それでも全く致命傷にはなっていない。


 まずい。まずいまずいまずい。早く消さなければ。


 櫟を敵視する神崎は定期的に霊研について情報を集めている。だからこそ目の前の幽霊が最近新たに霊研に入った新人であることも掴んでいた。動物霊を使役する少女のように幽霊でありながら霊研の一員になったという男――桑原愁。

 霊研に自分がヤクザに関わっていることが――それどころか透坂鈴子を殺害しようと目論んでいることが確実にばれてしまった。駄目だ、どうにもならない。とにかくこの男を“生かして”帰す訳には行かない。


「先生、どうかしましたか」

「いえ少しばかり浮遊霊が紛れ込んでいたようでしてね。すぐに対処するので」


 神崎はまず部屋の四方へと札を投げ、愁が逃げないように結界を張った。そして再び除霊するべく術を放ったが、今度は完全に避けられて思わず舌を打つ。

 予想以上に素早い。いざとなればヤクザどもを盾にすることも視野にいれつつ更に連続で術を放つがやはり避けられた。


 そして術の隙を狙って愁が力を使ってテーブルを浮かせた。それを投げようとするが――しかし彼は何故か次の瞬間テーブルを投げ捨ててその場から飛び退いたのである。


「先生! 俺達も加勢します!」

「は?」

「おいてめえら! 俺が許可する。先生を援護しろ!」


 その時、幹部の男が突如として灰皿を投げながらそんなことを言った。何を言っているんだと思う間もなく部下のヤクザ達も習って手近なものをあちこちに投げ始める。

 馬鹿か。幽霊相手にそんな物が当たると思っているのか。神崎は思わずそう言おうと思ったが、しかし目の前の光景を見てその言葉を飲み込まざるを得なかった。


 桑原愁は飛んできた灰皿から飛び退き、それに続いて投げられるポールペンやゴミ箱をわざわざ避けているのだ。当然ヤクザ達は愁を見ることができないので見当違いの方向に投げているものもあるが、それでも数打てば当たる。いや当たらないはずなのに何故か回避する動きをしていたのである。


(この男……生前の意識がまだ抜けてないな)


 愁も分かっているのが険しい顔をしているが、それでも体が反射的に動いてしまうらしい。ただの邪魔だと思っていたヤクザ達の行動に思わぬ恩恵を受けた神崎は、確実に処理するべく先程とは異なる札を愁に放った。飛び交う物に気を取られていた愁はそれを避けようとしたが避けきれず彼の足首にぴたりと貼り付いた。


「……動かない」


 途端に足が石になったようにぴくりとも動かなくなった愁はその顔に焦りを滲ませた。本当は全身を止めたかったがこれでも十分だ。神崎は僅かに気を緩めつつ、今度こそ絶対に仕留めるべくしっかりと愁の魂を狙って術を放とうとした。


 しかしその僅かな時間が、結果的に勝敗を分けることとなった。


「死ね」

「死んで、たまるか!」

「!?」


 刹那、神崎の顔の横すれすれに何かが飛んできた。避ける間もなく通り抜けたそれは愁の手の中に収まり、彼はそれ――壁際に飾られていた長ドスを鞘から引き抜く。

 神崎は目を疑った。何せ次の瞬間、愁は何の躊躇いもなく長ドスで自分の足首を切り落としたのだから。


「これで動ける」


 札が貼り付いた足が音もなく床に転がる。愁はそれに見向きもせずに、いつの間にか鞘に収めていた刀を神崎に振り抜いていた。



 視界が暗転する。




    □ □ □  □ □ □




「ただいま戻った」

「愁、おかえ……うわああああ愁が!!」


 何とか無事に霊研へと帰ると、愁を迎えたのは千理の悲鳴だった。


「千理落ち着け、別に致命傷でもない」

「櫟さんんん!! 愁が、愁が死んじゃう!!」

「それより聞いてくれ、俺はとうとう刀を持てるようになって」

「いやあー!!」


「……はあ、お前ら一度黙れ。櫟には連絡してやるから」


 足が無い愁を見て発狂した千理を宥めつつもとにかく自分の喜びを伝えたい愁。そんな二人の様子に英二は頭痛を覚えながらスマホを手に取った。鈴子があらあらと微笑ましげに見ているので愁が大丈夫なのは本当だろう。

 さっさと櫟を呼び出して千理の口にチョコクッキーを突っ込んで落ち着かせる。涙目で咀嚼する千理は次第に落ち着いて来たものの、今度は愁が傘を刀代わりに握ろうとして「何で出来ないんだ」と静かだが騒々しい。



「はいはいはい、愁が何だって?」

「櫟さん!!」


 英二に急かされて櫟が慌てて霊研に顔を出すとすぐさま千理が口の中を空にして彼に飛びついた。


「見て下さい愁の足が!!」

「あー……派手にやったねえ」

「なんでそんなに暢気に言うんですか!」

「命には別状なさそうだからね。それで愁、何かやってるところ悪いけどちょっと足見せてくれるかな」

「……ああ」


 諦めた顔で傘を手放した愁が櫟の元へとやってくる。ふむ、と櫟は一通り愁の足を観察すると「痛みはあるかな」と彼に確認した。


「いや、最初に何かをぶつけられた場所は痛いが自分で足を切り落としたのは別に」

「はあ!? 自分で切り落としたって何なの!?」

「何やら変な札を貼られて動けなくなったからな。そのまま除霊されるよりも余程ましだろう」

「除霊って、万が一って思ってたけどやっぱり霊能力者とか居たの!?」

「予想してたのか。流石千理だな」

「暢気に感心してる場合か!」

「……とりあえず詳しい話を聞かせてもらえるかな」


 このままでは一向に話が進まないと思い櫟が状況説明を促す。するとまずは千理から鈴子の命を狙っている相手についての説明があり、次にそのヤクザの事務所まで偵察へ行った愁が報告をした。



「……というわけで、その先生とやらを気絶させて札を剥がしたら外に出られるようになったから戻ってきた」

「成程ね。まあその辺りは深瀬くんに丸投げしておこう。彼なら上手くやってくれるだろうし」

「愁、お前無茶すんなァ……」

「無事に帰って来られたんだから必要経費だ」

「ぜんっぜん無事じゃないからね」


 自分の両足首から先が無いのにあまりにも落ち着いている愁に千理と英二が呆れ半分心配半分で頭を抱える。


「うーん……まあその術を受けた箇所はともかく、愁が刀で切り落としたっていうのは正確に言うとちょっと違うね」

「違う?」

「だって愁、君霊体だろう。刀なんて物理的な物で君を切れる訳がないじゃないか」

「それもそうだな?」

「だから正確に言うと、実際に君の足を切ったのは君自身の力だ。刀はそのイメージ補強に繋がっただけだね。そして自分の力で切り離したものだからそこまでダメージはない。元々霊体なんて雑に言ってしまえば自分のイメージで体を構成しているようなものだからね。ただ体の一部を手放してしまったからその分の力を補えるまでは治らないと思ってくれていい」


 愁は櫟の言葉を聞きながら「……あまり分かっていないんだが、つまりそのうち治るんだな?」と納得して千理の方を振り返った。


「そういう訳だから心配しなくていい。俺は無事だ」

「っ……ホント、無茶しないでよね。次同じようなところに行くんなら、本当にあらゆる可能性を吟味してからにするから」

「ああ、頼む。……それはそうと」

「?」

「あの時はしっかりと刀を振るえたはずなのに、今は何故かちっとも持つことができないんだ」


 不意に、冷静に千理を宥めていた愁の表情が急に陰りどんよりと落ち込むように俯いた。その手に傘を握ろうとしているが、それは宙にふわふわと浮くばかりで愁の手をすり抜けていく。

 せっかく念願の刀を振るうことが出来たのにどうしてだと愁が眉を顰めていると、編み物をした手を止めた鈴子がくすくすと笑いながら顔を上げた。


「きっと火事場の馬鹿力ってやつね」

「……普段はどうしても出来ないものなんだろうか」

「どうかしらね? 何度も同じような場面になればもしかしたら段々慣れて」

「もう二度と愁をこんな目に遭わせないです!!」

「千理ちゃんがこう言うから難しいかしら?」

「……」


 愁の表情が複雑なものになる。刀を持ちたいが千理を泣かせるのは本意ではない。どうしたものかと千理と傘に視線を行き来させてしまう。


「そういえば私も前に同じようなことがあったわ」

「同じようなことですか?」

「ええ。火事場の馬鹿力ってやつ」

「……鈴子さんそれってまさか」

「あの時は大変だったわ。あの人の悪口を言われてついカッとなってしまってね、あまり覚えていないのだけど無理に超能力を使った所為で1週間ぐらい昏睡状態になって死にかけたのよ」

「え、」

「……俺はあの時まだ鈴子さんのことを知りませんでしたけど、深瀬の顔色がやばかったのは覚えてます」


 さらりと告げられた言葉に英二が苦笑する。


「だから愁君も、あまり無理をしては駄目よ?」

「……気を付けます」

「ふふ。それじゃあ愁君も帰って来たし、私もそろそろお暇させてもらうわね」


 愁を気にして霊研で待機していた鈴子が立ち上がる。彼女は慣れた動きで手早く編み物を片付けると「今日の夕飯何にしようかしら」と普通の主婦のようなことを言いながら霊研から出て行った。


「……櫟さん、ちょっと聞きたいんですけど」

「何かな」

「鈴子さんの言う火事場の馬鹿力ってあれですよね? 何でも一晩で何人かの人生を終わらせたとか何とか」

「おや、よく知ってるね」

「ちょっと小耳に挟んで……でも無理に超能力を使ったっていうのは」

「ああ。鈴子さんは本来物質の記憶を、それも大体2週間前ぐらいまでしか遡ることができない」

「それでも十分すごいと思うが」

「だが当時の彼女は、まだ力のコントロールも覚束ない頃だったっていうのに……いや、だからこそかな。鈴子さんは無理に人間から記憶を読み取ったんだよ」


 基本的に鈴子は生物の記憶を読み取れない。それは物と違って記憶が膨大かつ、読み取ったことでその人物の意識に呑まれてしまう危険性があるからだ。

 だが当時の鈴子は何人もの人間の記憶を読み取り、そして彼らのやましい記憶を全て表沙汰にして告発した。


「そんなことして大丈夫……じゃ、なかったんですよね。死にかけたって言ってましたし」

「そうそう。鈴子さんもそうだけど某病院の医者や看護師が一気に辞めさせられる事態になって病院側もてんてこ舞いだったようだよ」

「病院?」

「うん。鈴子さんの旦那さんの勤務先。あの事件で鈴子さん、色んな所から目を付けられるようになってしまってね。困った深瀬君がほとぼりが冷めるまで霊研で保護してくれって頼んで来たって訳だよ」

「成程……」


 鈴子が霊研に来た裏側にはそんな事情があったのか。初めて聞くらしい英二と愁と顔を見合わせていると、櫟はなんとも言えない表情で「これは余談だけど」と更に口を開いた。


「彼女は本来物の記憶しか読み取れない。だけどあの時はどうして人の記憶を読み取ったのか」

「だから無茶したんですよね?」

「それはそうだけど、実際に行えた理由だよ。これは霊研に引き取った後本人から聞いた話なんだけど」



『ちょっと無理をしてしまったけど……そうね。多分私、彼らのこと人間でもなくただの人の形をした何かだとしか考えてなかったからじゃないかしら』



「……って」

「あの、余談にしては重すぎません??」


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