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霊研の探偵さま  作者: とど
一章
20/74

9-3 悪夢の感染


「悪夢か……」


 櫟は難しい顔をしながら病院の廊下を歩いていた。つい先程霊研に飛び込んで来た愁に「千理が病院に運ばれた」と報告を受けたのだ。愁はそう言うだけ言ってすぐに病院へ全速力で向かっていったので詳細は分からなかったが、つい昨日鈴子から千理の状態について聞いていたので大体想像は付いた。


 千理の言う通り、確かにこの短期間に立て続けに悪夢を見て――悪夢しか見ていないというのは少々引っ掛かる。元々悪夢を見ることが多い訳でもないらしく、しかも心身ともに疲弊が早い。単なる彼女本人だけの問題と見るには状況が悪すぎる。

 ひとまず直接彼女を見てみるのが最善だと、櫟は早足で千理が居る病室を目指す。


「おっと、」

「すみません」


 しかし目的の病室へ入ろうとしたところで、ちょうど部屋から出て来た女性とぶつかった。女性は慌てて頭を下げてすぐに櫟から離れていく。どうやら急いでいるらしい。櫟は足早に去って行った女性の後ろ姿をちらりと観察した後、ノックをして病室の中に入った。


「愁、千理の様子はどうかな」

「櫟さん。……あまり良くない。ずっと目を覚ましていないんだ」


 櫟が病室に入ってベッドまで近付くと、顔色を真っ白にした千理が目を閉じて横になっていた。傍らにはじっと千理を見つめる愁がおり、彼も表情からは分かりにくいが落ち込んでいるようだった。


「倒れたのは今朝か?」

「それが詳しく分からないらしい。事情を話しているのを聞いたが、朝一で麗美さんが帰ってきた時には千理が廊下に倒れていたと」

「麗美さん?」

「千理の親戚だ。櫟さんが来るまで此処に居た」

「今すれ違った人か」


 個室である千理の病室から出て来たのでてっきり姉かと思っていたのだが違ったようだ。千理が倒れているのを見つけたのも彼女だと言うが……そういえば千理の家族は。


「確か千理は母親と一緒に暮らしていないみたいだったけど……他の家族は?」

「……」

「愁?」

「すまない。千理があまり話したがらないから詳しく聞いたことは無いんだ。だが少なくとも両親とは一緒に居ない。あの家には他にも何人か暮らしているが皆仕事が忙しいらしくてな、俺もすれ違うくらいでまともに話したことはない」


 唯一先程の麗美という女性は幼い千理の面倒を見ていたので愁の記憶にも残っている。しかし実際のところ小学生の頃の千理は桑原家に居ることが多く、時折菓子折を持って来る人という認識しかなかった。

 今も千理の口から一緒に暮らす人達について話題に上がることは殆どない。そもそも彼女ですらろくに会うことが無いのだ。


「今も仕事がどうのと言ってさっさと帰った。あの人が居たところで千理が元気になる訳じゃないが……」


 愁はその先の言葉を濁した。しかし態度は隠すことができず、分かりやすく苛ついているのが櫟にも見て取れる。


「……まあ、今は家族がどうとか言っている場合じゃないか。それで? 医者は何て言っていたんだ」

「原因は分からないが非常に衰弱していると。現状命に別状はないが、このまま原因が判明せずに悪化したら、どうなるか分からないと言っていた」


 櫟は気を取り直して改めて千理を観察した。顔色が悪く、呼吸も弱い。随分と弱っているのは確実なことだが、しかし何かに取り憑かれているとか呪われているという気配も無い。

 ……無いが、一つだけ確実に言えることがあった。


「確かにまずいな。僕にも見た限りでは原因となるものは現状見えないが……命が少しずつ削られているのは確実だ」

「!」

「寿命の減りが早まっている。まだそこまで気にするほどじゃないがこのままだと恐らくどんどん加速していくだろう。つまり、体が死に向かっている」

「どうすればいい。何をすれば千理を助けられる」

「悪夢が原因だとすれば彼女の夢に干渉できる怪異辺りが犯人である可能性が高い。だがそれを倒すにはこちらも夢に干渉できなければならない。現実から手出しすることは不可能だろう」


 だが櫟は他人の夢に干渉するような力はない。頭の中で誰か適任はいるだろうかと思考を巡らせた。考え込んだ櫟を見てすぐに解決するのは難しいと悟った愁は、悔しげに表情を歪めて千理を見下ろした。こんなにも苦しそうな彼女を助ける術が自分にはない。その事実をまざまざと見せつけられて自分の無力さに怒りが湧いてくる。


「……め、んなさい」

「千理」


 その時、微かに千理の口元が動いて声を発した。恐らくまた悪夢に囚われているのだろう。愁は無意識のうちに彼女の手を握ろうと手を伸ばし――握り込もうとした手は勿論空を切った。


「……ひとまずコガネに来てもらおうか。彼は術にも詳しいし、何か夢に干渉する方法も分かるかも――愁?」


 結論を出した櫟が顔を上げる。そして愁を見ようとするが……そこには何故か千理の姿しかなく、今の今まで苦い表情で彼女に付き添っていた霊体はどこにも居なくなっていた。



 

    □ □ □  □ □ □




「どうしてこんな問題程度が分からないのかしら」

「……」

「何とか言ったらどうなの? それともその素晴らしい記憶力を持ってしても日本語すら覚えられないのかしら?」

「ごめん、なさい」


 俯くように頭を下げれば目の前に広がるのは一人分の机と数学の問題集。そこに書かれている式は途中で止まっており、答えを導き出せていない。

 彼女は数学が一番苦手だった。記憶すればいい科目と違って数学は覚えただけでは答えられないし、もたもたしているとあっという間に回答時間が過ぎて行ってしまう。


「謝れば済むと思っているの? 謝るくらいならさっさと正解を書きなさい」

「……分かりません」

「分からない? 何故? 私の話を聞いていたはずなのにどうして分からないなんて言葉が出てくるの?」


 彼女――千理はぐっと唇を噛み締めて涙を堪えた。泣いてはいけない。泣くと余計に怒られると何度も経験して分かっている。千理の周囲を威圧するようにゆっくりと歩く家庭教師の女性は苛々としながら酷く冷たい視線で彼女を見下ろした。


 次の瞬間、千理は突然頭に走った衝撃に耐えきれずに椅子から転げ落ちた。


「馬鹿、能なし、ゴミクズ……はあ、こんな子供の指導なんてやってられないわ」

「っ……!」


 倒れた千理の腹に家庭教師の靴の先が突き刺さる。その傷みに堪えていた涙が一気に溢れ、それを見た教師は更に苛立ちを強くした。


「いいわねえ子供は、泣けば済むと思っているんでしょう? でも私は仕事でやっているの。あなたの成績が上がらないと給料がもらえないの。分かるわよね? これ以上私の仕事の邪魔をするんじゃない!」

「い、」

「痛いと思うんなら殴られないように正解を書きなさい。たったそれだけのことがどうして出来ないの。あなたのお兄さんは一度も間違えたことなんて無かったのに」


 丸められた教科書で頬を殴られてじんじんと熱を持つ。千理は痛む頬を押さえて涙で滲む視界で家庭教師を見上げた。


「優秀な兄と違って妹はとんだ無能。多少覚えが良くたって思考出来なきゃパソコンに劣る。つまりあんたはね、何にも使い所もないゴミなの。こんなゴミを妹に持って、あの子も本当に可哀想」

「やめ、てください」

「だったらさっさと問題を解けと言っているでしょうが! 私にどれだけ手間を掛けさせれば気が済むの!」


 再び体を蹴られた千理がその勢いで傍に合った棚に頭をぶつける。余計に視界が滲んでろくに物が見えなくなる。

 痛い。けれどこのままこうしていてもまた殴られるだけだ。……だが分かっていても体が動かなかった。

 もう嫌だ。殴られるのも無理矢理勉強させられるのも、この家の中に閉じ込められるのも、全部。


「そんなところに寝っ転がって休んでないでさっさと机にもど」


 千理を捕まえようと家庭教師が彼女の胸元を掴み上げ……ようとした寸前のことだった。突然千理の視界がぶれて、微かに映っていた教師の姿が忽然と姿を消したのだ。


「……え?」


 何処へ言ったのかと千理は袖で涙を拭って改めて顔を上げる。しかしそこには教師の姿がないどころか、代わりにいつの間にか現れた見たことも無い学ラン姿の男が千理に背中を向けて立っていた。

 ……いや、見たこと無いのは誤りだ。千理はこの背中を知っている。毎日見てきた大事な、大好きな人のものだ。


「愁」

「……お前、だったのか」


 千理が彼の名前を呼んでも、愁は振り返らなかった。代わりに彼は静かに、とても静かに……殺意を感じさせるほどの憎悪を滲ませた低い声でぽつりと呟いた。

 彼の視線の先を追うと、そこに居たのは先程まで千理を殴っていた家庭教師だった。鼻血を出して倒れている彼女に、愁が重々しい足取りで一歩近付く。


「千理に暴力を振るっていたのは――お前だったのか!」

「!」


 刹那、愁は倒れている女を容赦の欠片もなく蹴り飛ばした。千理が蹴られたのとは比べものにならない力で吹き飛んだ彼女は壁に体を強く打ち付けて頭から血を流した。

 しかしまだ愁は止まらない。更に追い打ちを掛けようと家庭教師の首を片手で掴んで無理矢理引き上げるともう一方の手を引き……その顔面に思い切り叩き込んだ。


「あ……しゅ、愁、愁! 止めて!!」


 止める間もなく繰り広げられた光景に千理は唖然としていたがようやく我に返った。更にもう一撃加えようとしているのを見た彼女は顔を真っ青にして愁の背中に飛びつき、必死に彼を止めようと腕を掴んだ。


「離せ千理、お前が怪我する」

「じゃあもう止めてよ!」

「断る」

「愁!!」

「こいつはお前を傷付けた。なら同じように殴られても文句無いだろう」

「愁が殴るのじゃ全然違うでしょ! 私はこんな力で殴られた訳じゃ」

「だが何度も殴られた、そうだな?」


 ようやく愁が千理を振り返った。その目は非常に剣呑で、怒りと憎悪に満ちていて、千理ですら初めて見るものだった。以前千理が子供の悪霊に攫われて怪我を負った時だってここまでの感情を見せてはいなかった。


「頭も体も、何度も何度もこの女に殴られて来たんだ。この程度の報復じゃまだちっとも足りない」

「……なんで愁がそんなことを知ってるの。私、一度だって言ったこと」

「気付かないと思ったのか?」

「え?」

「俺が……俺が、お前のことを気付かないと思ったのか!!」


 人生で初めて聞いた愁の怒鳴り声に千理は驚いて大きく目を見開いた。固まった千理に構わず、愁は千理の手を振り払って体ごと振り向くと彼女の両肩をぐっと掴む。


「あの頃……お前の体に治りかけの痣がいくつもあった。じいちゃんに頭を撫でられそうになって咄嗟に頭を庇った。分からない訳ないだろ。お前が誰かに日常的に暴力を振るわれていたことなんて、とっくに気付いていた」

「……」

「だけどそれ以上怪我が増えることは無かったから何も言わなかっただけだ。お前がもう誰かに傷付けられることが無いのならそれでいいと。……ただ、俺はあの頃からずっと誓っていた。もし千理を殴ったやつを見つけたら――絶対に報復してやると」


 愁の視線が千理の顔に向く。先程殴られた痛々しい頬を見ると途端に肩を掴む手に力が入る。そしてすぐさま踵を返すと、彼は再び家庭教師に近付こうとゆっくりと歩き出した。


「愁! もういいってば! もう十分! 愁の蹴りは百回分くらいあるから!」

「悪い千理。……怒りがな、抑えきれないんだ。あまり怒ることが無いからか自分で感情がコントロールできない」

「っじゃあこうだ!」


 千理は痛む体を無視して全力で愁の体に手を回した。すぐに引き剥がされないようにしっかりと服を掴んで絶対に離さないようにする。


「私今全身痛いんだ。だから愁がちょっとでも動いたら余計に痛くて堪らなくなる。愁は私の怪我を悪化させるようなことなんて絶対にしないよね?」

「……千理、それはずるいぞ」

「ずるくても何でもいいよ。これ以上愁が他人に暴力を振るわないんなら――」


「やれやれ、とんだ厄介者が紛れ込んできたようだな」


 千理の言葉を遮って、酷く面倒そうな女の声が聞こえた。その声がした方向を見れば倒れていた家庭教師がむくりと立ち上がり、偉そうに腕を組んで二人の方を見ていたのだ。


「!」

「お前……」

「どこから入ってきたのか知らないが、私の食事の邪魔をするのは止めてもらいたいものだな」


 にやりと笑った女の顔が突然崩れた。まるで砂のようにさらさらと床に散らばったそれらはすぐに再び形を取り、今度は見知らぬ男の姿になって現れる。まるでピエロのようなカラフルな格好をした男がぱちりと指を鳴らすと、その瞬間部屋が一瞬にしてばらばらに崩れ真っ暗な空間に生まれ変わった。


「え、何……これ」

「……そういえばそうだ。俺は千理が倒れて悪夢から目を覚まさないのをどうにかしようとしていた」

「悪夢? ……つまり、此処は」

「そう。夢の中さ」


 ピエロがそう言って笑った瞬間、千理の頭が途端に冷静に切り替わった。そうだ、自分はもう高校生であの頃のような無力な子供じゃない。霊研に所属し、すでにいくつかの怪奇現象にも関わってきた。


「つまり、あなたが私に悪夢を見せていた原因」

「その通り。人間の記憶を読み取って悪夢を見せ、その精神力を食らう」

「……でも、なんで愁が此処に」

「さあな。とにかくお前の夢の中に入ることが出来ればと思っていたが……そう言えば、千理の手を握ろうとしてから記憶が飛んでいるような気がする」

「手を?」

「――成程、そういうことか。私の悪夢は手を握った人間に感染する。そして君の記憶通りならばこの男は霊体だ。肉体がなければ抵抗もできず、強制的に引きずり込まれた訳か」

「……随分と親切に教えてくれるんですね」

「それが分かったとしても君達は何もできないからね」

「!」


 にやつきながら喋るピエロに構わず愁が拳を振るう。ピエロ男の顔面がえぐれたかと思ったがそれは一瞬で修復し、愁はまじまじと自分の手を見つめた。まったく当たった感覚がなかったのだ。


「此処は夢の中だ、つまり何でもできる。そしてこの空間を支配する私を傷付けることなど絶対に無理だということだ」

「……」

「可哀想に、君は私の悪夢から逃れる術は無い。……だがまあ私も鬼じゃない。少しぐらい抜け道を用意してやってもいいんだよ」

「抜け道だと?」

「簡単な話だ。私はただ食事をしたいだけ。別にそれは伊野神千理、君じゃなくても一向に構わないんだ。だから……そこの男を代わりに犠牲にするといい。そうしたら君を喜んで解放してやろうじゃないか」

「!」

「そうか。ならばさっさとそうしろ」

「愁!?」

「話が早いじゃないか。私もそろそろ同じ味に飽きてきた頃だ、ちょうどいい」


 あっさりと頷いた愁の腕を千理が必死に引っ張って引き留めようとする。しかし彼は「すまないが先に戻っていてくれ」と言って慎重に千理を自分から引き剥がした。


「駄目! こんなの結局私と愁が入れ替わるだけでしょ!」

「だがお前の体はもう限界だ。かなり衰弱している」

「愁はその体すら何処にあるのか分かってないんだよ!? 起きる体もないのにどうなるかなんて分からないよ!」


 今の愁には肉体がない。だから現実で無理矢理目覚めさせることだって出来ない。一生この空間に閉じ込められたままになる可能性だってあるのだ。


「千理、よく聞け。お前が起きたら櫟さんが近くにいるはずだ。あの人に今の状況を説明してくれ。きっと何とかしてくれる」

「……」

「記憶力のいい千理なら夢の中のことだってはっきりと覚えていられるだろう。お前が適任だ。千理、俺を助けてくれ」

「愁」

「別れ話は終わったか? それじゃあ名残惜しいがさよならだ」


 千理が掴んでいた腕が突然消える。いや逆だ。彼女の方が徐々に存在が薄まっていき、そしてその姿が暗闇の中に溶けて行った。

 残されたのは愁と、そして楽しげに笑うピエロだけだ。


「自分を犠牲にしてあの子を助けるなんて泣かせるな」

「俺は犠牲になるつもりなんてさらさらない」

「そう? まあその気力もいつまで持つか見物だな。――君の記憶、見させてもらおうじゃないか」



 

    □ □ □  □ □ □




「愁!」

「ちょ、」


 勢いよく飛び起きた千理を最初に迎えたのは、ゴツンと固い物がぶつかった音と……そして額への痛みだった。


「いっ、た……」

「それはこっちの台詞だよ全く……」


 眠る千理の顔を覗き込んでいた櫟と、そして彼と正面衝突した千理は二人して額を押さえて蹲った。しばらく無言で痛みに耐えていた二人だったが、徐々に痛みが引いてくるとゆっくりと顔を上げてお互いをまじまじと見つめた。


「まあいいや、とにかく起きてくれてよかったよ」

「ご心配お掛けしました……」

「どこまで覚えているのか分からないけど、君は今朝家で倒れているのを発見されて病院に運ばれた。それで愁が」

「愁! そうだ櫟さん愁が危ないんです助けて下さい!!」

「え?」


 櫟の口から愁の名前が出た途端千理の頭は一瞬にして覚醒した。次々と呼び起こされる記憶を彼女は素早く整理して櫟に報告し始めた。

 千理の悪夢はピエロのような怪異が原因であったこと。それは記憶を読み取って悪夢を見せて食料にしていること。そして悪夢は手を繋ぐことで感染し、取り込まれた愁は千理を逃がす為に夢の中に残ったこと。

 話し終えると、櫟は口元に手をやって一つ頷いた。その表情は悪いものではなく、むしろどこかほっとしているように見える。


「成程ね。状況は分かった」

「愁を助けられそうですか?」

「勿論、こうすればいい」

「え」


 櫟は自然な動作で右手を伸ばすと布団の上に置かれていた千理の手をさらりと握った。そして安心させるように彼は千理に笑いかける。


「対象に接触する方法さえ分かればこちらのものだよ」

「だ、大丈夫なんですか? ミイラ取りがミイラになったりとか」

「大丈夫大丈夫、すぐに愁も助けてみせるから」


「その必要は無くなった」

「……は?」


 ひらひらと軽く手を振っていた櫟の手がぴたりと止まった。そして千理もまた、耳に入って来た声に反応して思わず固まる。

 両者ともにぎこちない動きで声のした方を振り返る。そしてそちらを見た二人はまた、同時にぽかんと口を開けた。

 腕を組み、妙に不機嫌そうな顔をした愁が――たった今助けに行こうとしたはずの彼がいつも通り半透明の姿で立っていたのだから。


「愁!?」

「……良かった、ひとまず無事なようだね。どうやって夢の中から抜け出したのか聞いてもいいかい」

「どうもこうもない。ただ……」





「――追い出されただけだ」


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