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第6話:月は再び昇る

「ねぇ、せっかくだし屋上でまた撮影しようよ」

渚先輩は思いついた様に僕らに提案した。


「良いですよ。今日も一応カメラ持ってきてるし」

そう言うと秋人は持参した撮影用のカメラを取り出した。


「千春ちゃんもよかったら一緒行こうよ」


「はい、是非」

渚先輩がそう誘うと、遠野さんは快く返事をした。


僕らは屋上へと向かった。

屋上への階段は人気が少なく、薄暗くなっている。

先日は中秋の名月であり、9月のこの頃の月は大体夕方の6時ごろから月の入りになる。

丁度時刻は6時を回っていた。


階段を登り終え、屋上への扉を開くと不運にも空は曇り空だった。


「今日曇ってますね」


「あー残念。さっきまでは晴れてたのに」

愛沢と渚先輩は残念そうに呟いている。


「まぁ。こんな日もありますよ」


「そうっすよ、タイミング的なのもあるし」

僕と秋人は気まずい雰囲気を明るくしようと振る舞う。


「ごめんね千春ちゃん。せっかく来てくれたのに」

渚先輩は申し訳なさそうに遠野さんに謝っている。


「全然、大丈夫ですよ」

遠野さんも明るく振る舞っていた。


今日はもう見えそうになかったので、僕らは部室へと戻り、そうして今日の部活は解散となった。


ーーー

 

 皆んなが帰ると、僕も部室を後にした。


下駄箱に行くと、先に部室を出たはずの遠野さんがいた。


「望月くん。よかったら…一緒に帰りませんか?」

まさかの誘いだった。

これをまたクラスのやつに見られたら、せっかく解けた誤解が、またややこしくなる。

だけど断るわけにもいかないので、僕は了承した。


「遠野さんも家、同じ方向なんですね」


「そうですね。昨日の公園の近くなので」

話が続かない。女子との会話をあまりしてこなかったツケがここにきて回ってきている。


沈黙が長くなる。


「今日残念でしたね。月見れなくて」

彼女は僕の少し前を歩きながら、話を始めた。


「私、母が亡くなったんです。それで、父の地元のこの町に引っ越してきたんです」

詳しい理由は、聞いていなかったが遠野さんから話してくれるとは思っていなかった。

彼女の顔は見えないが、なんとなく分かる。


「そう…だったんだ」

僕は、言葉を絞り出すようにそう言った。


「まだ、正直現実を受け止められてなくて。昨日の月を見てたら、母は星になって、私を見守ってくれてるのかなって、そんな気がして…ただの心の慰めに過ぎないんですけど」

亡くなった人は夜空に輝く星になって、僕らを見守っている。昔からそう言い伝えられてきた。そんなのは慰めにすぎない。そんなことは分かってる。でも…僕らはそう信じ、星を眺めるんだ。


「今日はありがとうございました」

そう言うと遠野さんは、暗闇へと消えて行く。


……


「心の慰め…そんなことない!と思いますよ」

口からなぜかこの言葉が溢れた。


すると彼女は足を止めた。


「月…」

彼女はそう呟く。

僕らは空を見上げた。

そこには、夜空の暗闇の隙間から綺麗な月が顔を出していた。


「見えましたね…満月」

僕はそう言うと、彼女はまた微笑んでみせた。


「はい」

少しだけ彼女の声は震えているようだった。


「よかったら、また明日天文部…待ってますから」

僕は声を振り絞り、そう告げた。


「はい。また明日」

再びそこには明るく微笑む彼女の姿があった。


どこか昨日初めて会った時とは違う感情が僕の中に芽生えた、そんな気がした。

読んでくださった方ありがとうございました。

評価、ブクマ等もよかったら。

次話もぜひぜひよろしくお願い致します。

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