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伯爵家の双子の令嬢、アーラとユーラ

《続》デキる美人令嬢の姉と違って愛されない娘だった私ですが、姉の想い人に気に入られたので姉を見返そうと思います

作者: 紅玲

「デキる美人令嬢の姉と違って愛されない娘だった私ですが、姉の想い人に気に入られたので姉を見返そうと思います」の続編です。


「馬鹿ねえ、ユーラ。こんなのすぐ解けるじゃないの。ね? 母様、父様?」

小馬鹿にしたような声が、聞こえてくる。

「アーラ、君は天才だよ。私達の誇りだ」

それに同調する、ーー両親の声が、聞こえてくる。


「でも父様、母様、私だって一生懸命ーー」

掠れる声で反論しようとする私に、ーー姉様は、言い放った。


「ユーラ、出来ないなら努力しようがしまいが同じよ。母様、そうでしょ?」


ーーどうして、私はこんなに馬鹿にされなきゃいけないの?


不意に浮かび上がった、その疑問。

それに応えてくれる人は、どこにもいなくて……。


独りぼっちの彼女は。


ーーいつしか、考えることも、やめた。





「……はあっ」

……夢か。

私は汗だくになって眠りから覚めた。ズキズキ、頭が割れるように痛い。

「はぁ、はぁ、うぅ……っ」

幼い頃の夢。姉様に、馬鹿にされていた時の夢。こんなのが許されるわけがない。





「アーラ、ユーラ。お客様だ」


伯爵である私の父様が、私達双子の姉妹を呼んだ。

今日は、来客があるのだという。


…昔なら、こんな時、いつも怯えて姉様の影に隠れていた。

なぜなら姉様のほうが綺麗で、私は下にみられるだけだとわかっていたから。


ーーだけど、今は違うわ。




私は、伯爵家の令嬢、ユーラ・アイネス。

私には双子の姉、アーラがいる。


彼女は、生まれた時から、ずっとずっと、私を見下してきた。何をやろうが両親の期待に応えるのは姉様だったから、母様も父様も当然、姉様ばかりを可愛がった。


私はいつだって影の存在。

姉様が上へ上へと上り詰めて行くのをじっとみていただけだった。


……でも、もうそんなの嫌。姉様が私を見下した分、私だって。


そう一念発起したのは、姉様が思いを寄せるスーパー令息、リアードさまとの一件からだった。





「アーラ、お客様をしっかりもてなすのだぞ」

父様が、姉様の肩をぽんぽんと叩き、にこやかに微笑む。


……ほらね? 

父様からしたら、美人の姉様に活躍してほしいのだ。だから、最近、私が公爵家のリアードと仲良しって聞いて、焦っているんだわ。

…あら、姉様、その恨みが増しそうな目線はなんでしょうか?おほほ。


姉様は、公爵家のリアードを前々から狙っていた。


だって、彼はイケメンで、優しくて、婚約者もいないのだ。

言うなれば、社交界の期待の星。


母様も父様も、姉様がリアードを好いていることは知っていたのよ。

だからお茶会を開いて、姉様とリアードを接触させようとしたのだけど……。そこに、意外な邪魔者がいたのよね。

ふふっ、思い出すと今でも笑えてくるわ。


そう、邪魔者は私。姉様には全然かなわないはずの、地味な私。


…まぁ、地味なのは姉様のせいと言っても過言じゃないけれどね! 詳しくは前話をご覧あそばせ。


でも残念なことに、その事実を母様も父様も認めようとはしなかったの。


……こうなったらもう、両親に行動で見せつけてやるしかないわ!






あくる日の午後。


「ユーラ!」

リアードが私に会いに来た。


あれ以来、私とリアードは個人的に会うくらいには親密になっていた。

この前は、呼び捨てで呼び合うことを約束したくらいなの。


慌てた様子の父様が、珍しく訪ねてきたと思ったら、私にこそっと耳打ちした。


「アーラも話に入れてやれよ」


……またか。私はげんなりした。

リアードは私に会いに来たのに、どうして姉様をリアードと仲良くさせなきゃいけないのよ?


それに、父様、アーラ関係じゃないと私になんか興味もないんでしょうね。

父様が私に話しかけるなんて、私が風邪をひくのと同じくらいの頻度なのよ?


しかも、父様も様子をみていくっていうの。


うーん、こうなったら、姉様が入る余地なんてないって、直接見せつけてやるしかないわね。

いい機会だと思おう。




「ごきげんよう」

私がリアードにお辞儀すると、姉様も後ろで微笑みをリアードに向ける。

…まだ諦めていないのか。


「ユーラ、アーラ様、こんにちは」

リアードが私をみて笑った。

この時点で、呼び捨てにされてる私と様付けの姉様との違いは明確だわね。


……姉様への仕返し、開始だ。


用意されたソファに姉様が座った。ちなみに、リアードの正面に座ったのは姉様。


どこまでも……図々しい。


さっそく行動を開始する。

「ねえリアード」

父様が後ろで目をむいたのを感じた。

私がリアードを呼び捨てにするからだ。


姉様は私の発言になんかちっとも興味が無いようで、懲りもせずじっとリアードをみている。


「リアードが好きなタイプは?」


姉様の肩が、ぴくんと上がる。


「え、僕が好きなタイプかい?」


リアードが笑って、「そうだなあ」と、しばし考え、私をちらりとみた。


「まず、派手すぎなくて」


姉様が、自分のドレスを見返す。


それは…レースがたくさんついていて、ところどころに大きなリボン。

フリルだらけのド派手なドレス!


私の茶色のドレスと見比べてみてよ。とにかく、その目が痛くなるピンクを身にまといたい―と思うのは、姉様だけだと思うわ。


(ああ……)

父様のため息が聞こえた気がするけれど、きっと気のせいよね!


「え〜、あとは?」

リアードが、面白そうに笑った。

「え〜、あと? うーん、控えめで」


(……控えめ?)

姉様の心の声が聞こえる。


「人を馬鹿にしたりしない人?」


リアード……それ、誰のことよ……。


私は笑いを我慢しつつ、リアードをチラリと見た。

姉様が私を馬鹿にしているのを知っていて、わざと言っているんじゃない?今言ったのって、姉様の特徴でしかないじゃない。


それなら私には好都合だけど。


「タイプって…、好きな人とは違いますわよね…」

姉様が小さな声でつぶやく。


……知らないわ。

姉様が、テーブルの上のクッキーを1枚手に取った。


「あ、あと1つ。食いしん坊じゃない人」

リアードがぽんと手をうって、ニッコリと姉様に笑いかける。


……リアード。姉様を地味に攻撃してない?


「…な………」

姉様がワナワナと震えた。


父様の様子をちらりと伺うと、父様は顔を手で覆っていた。


 …あのね、父様? 私だって父様の娘なんですよ。

何を「娘の内の一人だけ、姉様だけの味方」面しているんですか?

いつでも私に寝返ってもらって構いませんよ。私は父様や母様が姉様ばっかり可愛がるからこんなに不幸な目にあっているのですから。


……ああ、姉様がもうダメだ。激昂しまっている。


「……私、少し席を外してもよろしくて?」

ひきつった、ぎこちない笑みを、な・ん・と・か浮かべて、姉様は席を立った。


「アッ、アーラッ……。すまないが、用事を思い出したので、少し……」


これから姉様のフォローをするんでしょうね。

姉様、貴方は幸せ者だわ。こんな時でも両親が味方になってくれるのだもの。


…私にはこんな時、誰が味方してくれるのかしら………?


「ねえ、ユーラ」

リアードが、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、私に告げた。


「気付いた? さっきの」


「何をですの?」

知らん顔して聞く。


リアードは、そんな私を見て、ふぅ…と息を吐く。そして、少し思い詰めた顔で語りだした。


「…前、噂で聞いたんだ。伯爵家の双子の姉妹は姉ばかりが偏愛されていて、妹は影のように生きているのだと。姉は妹を見下していると。だから、前お茶会で会った時、ユーラと話してみたいと思ったんだ。アーラ様は噂通りの方だったしね」


「……そう、ですか」


私はそれを聞いて、何とも言えない感情に襲われた。


『伯爵家の双子の姉妹の内の影のような存在』と呼ばれる私。


両親の愛を姉にほとんど奪われて、影として扱われた私。


そんな、私だけれど……。


「ユーラ、さっきの僕のアーラ様への攻撃、どうだった? 上手かったかなぁ?」


リアードの言葉に、私は苦笑した。


「あれ、やっぱりわざとでしたね? ……リアード、あなたはもう私の味方だってことでいいですか?」


リアードはすぐさまうなずいた。

「ユーラが見下された時の辛さなんて、さっきの僕がアーラ様に浴びせた侮辱なんかちょろいものさ。僕はユーラの味方」


ーーたった1人でもいいから……誰か、誰か……味方になってくださいっ……。


幼い頃の悲願だった。


両親は姉様ばかりを可愛がっていたから、自然とメイド達も姉様にすりよっていた。

だからこの願いは、夢のようなもの、だった。

だけど……、それが今、ようやく、叶ったのかもしれなかった。


「リアード」

初めて味方になってくれた人。

……そして、初めて私が姉様から『奪った』人。


これは序章。

幼い頃から虐げられてきた私の復讐劇は……ここから始まった。

読んでくださってありがとうございました。






4月21日追記

沢山の評価とブックマーク、嬉しい限りです! ありがとうございます。励みになります! 

またこういうジャンルの話を書いてもいいかな~、なんて思うこの頃です。

最近暑さでへたばっている作者より。

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