本当の仲間
しばらくの戦闘の後、ようやく8合目くらいに差し掛かった。
俺と金太郎は少し疲れてきているが、まだまだ動ける。あともう少しという思いが俺たちを動かした。
「なかなかいい動きになってきたな。そろそろ親玉が、、、いや、来やがったな。わざわざ鬼の方から山を降りてきてくれるとは都合がいいぜ」
「なに、俺は最強だから大丈夫だ。桃太郎、ついてきやがれ」
そう言われ、前を見ると明らかに大きい鬼がこちらへ向かってきていた。
体格は遥かに俺らより大きい。190?いや200センチはある。
顔は下顎から牙が剥き出し、いかにも鬼って感じだった。
「お前らか、この赤鬼様の仲間を殺して回っとるんは!許さねえぞ!殺して、鍋で煮込んで食ってやる」
そう言い、赤鬼は叫んだ。
悔しいが俺はその時ビビってしまった。
だが、戦う気は失ってはいなかった。
なぜなら阿修羅。あいつと出会ってしまっているから。もうあいつより弱く見えてしまっているから。
赤鬼は叫び終わると金太郎めがけて猛突進してきた。
金太郎はなんとか避け、斧を振るが、先程の鬼と違って硬さが違う。
腕の皮膚が少し欠けたくらいでガードされてしまった。
俺もすかさず加勢に入るが、当然俺の剣も通らない。
「いいか、桃太郎、俺の斧に合わせて剣を振れ!てめえのことを信じる。合図するから合わせろ!」
「任せろ!」
手短だが、やりたいことが伝わった。
さっき金太郎と一太刀合わせたことでお互いに心が通じていたのだ。
赤鬼の攻撃をひらりと避け、金太郎の合図を待つ。剣でガードはできない。
おそらく、ガードの上から吹き飛ばされ、骨の一本や二本じゃ済まないだろう。
俺が攻撃を避け、横目で金太郎を確認する。
金太郎は四股を踏み、あの一撃の体制に入っていた。
「いくぜ!桃太郎!」
そう言うと、金太郎は先程、俺と戦った時とは非にならないほどのスピードで赤鬼の首を目掛けて斧を振った。
赤鬼はその速度に反応できず、首に斧が入る。
だが、まだ浅い。切り落とすまでは行けない。
「今だ!桃太郎!俺の斧に剣を!」
「おらぁっ!!!!!!」
俺は赤鬼の首に少し入っている斧目掛けて剣を振りかざした。鋭い金属音。
「うごぉぉぉぉぉぉおおお!!!」
赤鬼が叫ぶ。
『うおらぁぁぁぁぁぁ!!!』
俺と金太郎も叫んでいる。
その一太刀は赤鬼の首へ届いた。
首が宙に舞う。血飛沫が吹きだす。
俺と金太郎は赤鬼を退治した。
「な、俺は最強だろ。へへへ」
初めて金太郎が笑った。
「『俺たち』だろ。やってやったな!」
「ああ、俺たちだったな。いい連携技だったぜ桃太郎。」
俺たちはハイタッチして、その場に倒れこんだ。
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しばらくして、俺たちは村に戻った。
村人からはありがとうと言われ、料理をご馳走してもらった。
傷ついた体には良く効く。
すると金太郎がおもむろに森の中へ行こうとしているのが見えた。
声をかけづらい雰囲気だったので、俺は後をついていった。
しばらくついていくと、そこには大吉がいた。
「よお、大吉。無事倒したぜ、これでお前らみんな山へ帰れるよな。」
そう言うことだったのか。
村人達もいつ、鬼たちに襲われるかわからない恐怖と戦っていたが、動物たちも住処を奪われていたのだ。
「ありがとよ、金太郎。おめえならやってくれると思っていたぜ。」
大吉の声も聞こえた。
「なあ、大吉、俺、村を出ようと思うんだがよ、どう思う?」
「桃太郎って子についていくんかい?いんじゃねえか、お前が決めたことなら。いつもそうしてきたじゃねえか。」
「だけどよ、俺が出て行ったらあの村は誰が守るんでい。」
「あの村にはみんながいるだろ。それに、いざと言う時は俺たちが手を貸すさ」
「ふん、言うようになったな。鬼王とやらを倒したら必ず戻ってくるからよ。最後に一戦、相撲でもしようや」
「へっ、今の傷ついたおめえになんか負けるかよ、今日で100勝目だい!」
そのやりとりの後、俺は月夜に照らされた土俵で金太郎と大吉の楽しそうな組合を眺めた。
結果は。内緒ってことにしておこう。
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「よお、桃太郎。いるんだろ」
木陰から見ていたのがバレていたか。
「ああ、いいもの見せてもらった。」
「おらあ、おめえについていくぜ。鬼王の巣食う世界じゃ安心して相撲も取れねえ。最強の助っ人だい、感謝しな」
こうして俺と金太郎は「本当に」仲間になった。




