白い悪魔
幸さんと共に武器を構えた瞬間に、氷の刃が目の前に飛んできた。
間一髪で避けたが、その一瞬で目の前から雪女が姿を消す。
「はやく、出ていくのだ!!」
「カハッ!」
死角からの一撃、背部に強烈な痛みが伴う。
魔法だけじゃなくて体術もいけるのか!?
「姉さん!目を覚まして!」
幸さんも応戦する。
しかし、彼女の弓は全て避けられ、空を切る。
幸さんのお姉さんなら殺してはいけない。
どうにか、戦闘不能になってもらわなければ。
だが、俺にそんな高度なことができるか!?
おそらく、落山を使えば勝てるだろう。
だが、それじゃダメだ。全員救う!
「凍れ!!」
雪女は猛烈な吹雪を辺りに撒き散らす。
また目の前が真っ白に!!
くそ、地の利は向こうか!戦いづらい…。
「桃太郎さん、このままでは防戦一方です!私が彼女の動きを止めるからそのままお願いします。」
そう言って幸さんは走って、一旦距離を取った。
かぐやの時と同じだ、動きに合わせて…。
「凍れ!凍れ凍れ凍れ!!」
また吹雪が飛んでくる。幸さんには見向きもしない。俺だけを集中的に狙っているようだ。
地面が一瞬で凍る。
すぐに避けて体制を整えなければ足元から凍って雪だるまになってしまう。
体制を整え、空に浮かんでいる雪女を見て一言浮かんだのは
「白い悪魔だ…」
幸さんの肉親だから申し訳ないという気持ちはあったが、それしか言い表せなかった。
「ふははははははは!!」
辺りを飛び回る。
幸さんはまだか!?
そう思った時、地面に着地した雪女の背後から気配を消して潜んでいた幸さんが飛びかかった。
雪女の体が拘束される。
「はなせ!!!触るなぁぁぁぁ!!」
まるで赤子が癇癪を起こすかの如く、雪女は暴れ回る。
「姉さん!目を覚ましてよ!私を覚えてないの!?」
幸さんが必死に声をかけるが、「うぅあぁ」とうめき声をあげるだけで、動きは止まらない。
「桃太郎さん!姉さんを、姉を救って!」
そう言われ、咄嗟に体が動く。
刃を逆さにし、体を傷つけないように幸さんの横から首目がけて振り下ろす。
その一刀で、雪女はドサッとその場に倒れ込む。
俺と幸さんはその場に座り込み、雪女の安否を確認する。
顔は鬼のようになっており、苦しそうな顔をしているが、息はあった。
「ありがとう…。このまま拘束して連れて行きましょう」
俺と幸さんは雪女を拠点に連れて帰った。
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なんとか戦いには勝ったが、まだ雪女…いや、千代さんが元には戻っていない…。
千代さんはなかなか目を覚さなかったが、暴れる可能性があるのでと、幸さんと見張りを順番にこなした。
2時間ほど経った時、千代さんが目を覚ました。
激昂の様子はないようだが、キョロキョロと辺りを見回している。
俺と目が合った瞬間に、顔が変わり、文字通り、鬼の形相になった。
「はなせ、、、ワタシの家族に触れるな…」
しかし先程までの勢いはなく、ゆっくりとそう言った。
吹雪や氷の礫を発現する力も残っていないようだった。
「姉さん、私は幸よ、姉さんの妹なの。」
千代さんは幸さんの話を聞いていたが、理解しているのかは定かではなかった。
「ぐるるる」とまるで獣のようなうめき声をあげ、口からは涎が垂れている。
しかし、幸さんは物怖じすることなく、千代さんに近づいていった。
俺ができることはここまでだ。
ここからはこの"姉妹"の絆の問題だ。
そう思い、一歩引き下がってやりとりを見ることにした。