雪と交えて
「私の名前をまだ言ってなかった。私は幸というの。あなたは?」
「俺は桃太郎だ。かぐやという女性と旅をしてたんだが、吹雪で逸れてしまった。かぐやも着物を着ているが、見てないか?」
「残念ながら見てないわね。しかも吹雪が凄かったのはあなたが倒れていた場所だけ。姉のせいでしょうね」
姉のせい?
そうだ、雪山に女の子が一人の時点で少しおかしい。
そのことを聞きたいんだったと思い出す。
「幸さんのお姉さんはなぜこんな雪山に一人で?」
「そうね、そのことを話さなくちゃ」
幸は、姉のことを詳しく語り始めた。
幸と千代は両親を早くに亡くし、2人で小さな民家に暮らしていた。
しかし、やはり2人で暮らしていくとなると食料やその他物資が枯渇する。
定期的にこの山の先の街へ買い出しに出かけていた。
しかしある時、山を抜けようとすると猛吹雪に襲われ、幸と千代は逸れてしまったそうだ。
まるで俺とかぐやの時のように。
幸は必死に千代を探したが、見つからず、吹雪の中で遭難してしまった。
寒さに震えながら、必死にどこか休める場所を探していた時に崖から転落し、片足を失ってしまったのだ。
それから自分で義足を作り、食料は狩りでなんとか繋いだそうだ。
「で、なんで俺を襲った?やつが姉だと思ったんだ?」
「姉はね。"雪女"になったのよ」
雪女?
昔話なんかでよく出てくる妖怪の類じゃないのか?
だが、いろいろな童話の人物が出てくる中で、海外の童話まで出てきたんだ。
それくらいあり得る話か…。
「このもう吹雪も姉のせい。姉を探して雪山で再会した時にはもう姉は姉じゃなくなってた」
「でも!必ず元に戻す方法があるとおもうの!優しい姉に戻って欲しい。だから協力して…」
幸さんがこんなに必死だったのはそう言うわけがあったからか。
たった一人の肉親…。
気持ちは痛いほど分かる。
「分かった。俺もかぐやを探したい。優しいお姉さんに戻ってもらおう。」
「ありがとう…感謝するわ」
そうして俺と幸は雪山を探索することにした。
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雪女は吹雪を操る。
つまりこの雪山は彼女のテリトリーだ。
だが、俺を殺すつもりなら倒れていた時にいくらでもできたはずだ…。
本当の狙いは一体…。
「なあ、幸さん。お姉さんを探すならどうするべきだと思うんだ?こんな広い雪山をあてもなく探すわけにはいかないだろ?」
「確かにそうね。でも、姉が現れるところには規則性がある。私が行くところの先で必ず姉は現れる」
「もうすぐ…よ」
幸さんの行くところに…。
姉妹の絆とでも言うべきか?
ならまだお姉さんの意識は完全には染まりきっていないのか?
不確定要素が多すぎる。
とにかく、出会わなければ何もわからない。
吹雪が強くなってきた。
「くるわ」
たったその一言、その一言が耳に入った瞬間にもう吹雪が目の前を白く覆った。
「な、なんだ!?」
咄嗟のことに体制を崩すが、すぐに視界を探す。
幸さんはいるか!?
「気をつけて!!」
そんな声が吹雪の向こうから聞こえる。
「ふふふふ、ははははははは!!!」
目の前に現れるのは宙に浮いた白い着物を着た高身の女性。
大きな高笑いとともに現れ、すぐに姿を消す。
一瞬だったが、確実に昔見た雪女にそっくりだった。
すぐに刀を抜く。
しかし、臨戦体制はすぐに砕ける。
吹雪が足元をすくう。
「すぐにここから出ていけ!!」
雪が至る所にあるせいで、思ったように動けない。
「こっち!」
幸さんが手を引いてそこから救い出された。
幸さんの周りには猛吹雪はなかった。
軽く雪が吹いているだけ。
視界が晴れ、姿をしっかりと確認できた。
高身で白い着物、雪を見に纏い、宙に浮く姿。
その凛々しく、華々しい女性は美しくも見えた。
「姉さん、目を覚ましてもらうよ」
俺と幸さんはその女性を前に臨戦体制を取る。
吹雪が吹き荒れるその中で。