薄暗い吹雪の夜
同時刻。
鬼ヶ島にて。
「ふーん、あの巨人がやられたんだ。ちょっとは強くなってそうじゃん」
阿修羅はその綺麗な手でワイングラスを振りながら話を続ける。
「あんた達も桃太郎くんに会ったんでしょ?どうだった?」
「ありゃイイな。放っておくにはもったいねえ。儂に是非やらしてくれや」
空を悠々自適に飛びながら風神が答える。
そう、ここは鬼ヶ島の鬼王護衛軍四天王と鬼王が集う場所。
鬼ヶ島で最も深い最深部である。
「あら、ご生憎様ね。あの子は私が貰うって決めてるの」
「おうおう、勝手に決めんなや、儂ら風神雷神が久々に2人とも"イイ"と思ったんだからよ」
殺伐とした雰囲気がそこに流れる。
ピリついた空気。お互いの動きが止まり、少しでも動けばそこは戦場になる。
「お前らやめておかんか。鬼王様がおいでだ。」
そのピリついた空気を破壊したのはもう1人の四天王。
「ちっ」
風神雷神は舌打ちをして臨戦態勢を解く。
どす、どすと大きな足音と共に大きな扉が開く。
「久しいな」
その低く、重い言葉で四天王全員がビシッと正し、その鬼の方を向く。
その鬼は鬼のトップ。
鬼王であった。
「鬼王様、実にお久しいです。四天王の我々を呼んだということは何かあったのですか?」
普段陽気な阿修羅も完全にこの鬼の前では敬語を使い、規律正しくなる。
まるで人間の上下社会のように。
「ああ。そのことだが…」
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同時刻。
桃太郎サイドにて。
「さっっっむーーーーい!!」
俺とかぐやは雪山に足を踏み入れていた。
かぐやは相変わらずのテンションで寒い寒いと喚いていた。
ハープ&巨人戦で消耗した魔力はもう回復しているようだ。
仲間ながら恐ろしい強さだと感じた。
「この雪山はどこまで続くんだ…」
「東に行くなら絶対にここを超えなきゃ行けないのよ。交易ルートもまだ開通してないから不便なのよね本当に」
そうか、交易ルートとかもあるんだな。
ならジャックの村とか金太郎の村とかはどうしてるんだ?
交易ルートが開通されてないなら物資とかもあまり届いてないのか?
確かに農作物などが豊富だった気がするが、地産地消しているのか…。
「あんたのフェニックスで飛んでいけないの?」
「フェニックスは俺の魔力的にこんな高い山は越えられない。もう少し修行したら扱い方も分かってくるとは思うんだが…」
はぁ…と落胆のため息をかぐやはついた。
本当にこいつはしんどいことが嫌いなやつだな。
豆の木を登るときも文句ばっかりだった。
それにしてもこの雪山、吹雪がすごいな。
これじゃあ簡単に東の地域に行けないし、交易ルートも開かないわけだ。
並の人が立ち入ると遭難して即お陀仏だな。
しかしさっきからなんだか吹雪が強くなってきてないか…?
「おいかぐや、吹雪がさっきより強くなってないか…?」
するとかぐやの返事はなかった。
その代わり、フフと女性の笑い声のようなものが聞こえた。
「誰だ!!」
咄嗟のことに剣を抜くのが遅れた。
その瞬間、また吹雪が吹き荒れた。
俺はあまりの寒さで遠のく意識の中に、着物を着た女性の姿を確かに確認した。
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目を覚ますと、そこは洞窟のような場所だった。
周りには何もなく、近くに焚き火が焚いてあった。
どうやら意識を失う瞬間に見たソレは俺の命を奪う気は無いらしい。
でなければ俺はとうに死んでいるだろう。
かぐやの姿も見つからない。
これはまずい。かぐやと違って俺は先のハープ戦で体力、魔力を削られている。
今四天王、いやそれより少し下のクラスの鬼にでも襲われたら退治できるかわからないだろう。
「目が覚めたのね」
突然、背後からの声が耳に響いた。
しかし驚くことに、洞窟に反響はしていない。
俺はすぐに振り返り、臨戦体制を取る。
「ちょっと、誰があなたをここに運んだと思ってるの、やめてよ」
その姿は意識を失う前に見た姿では無かった。
まるで狩人のような格好をしている。
片足は義足で、弓を背負っている。
「あんたが寒さで気を失ったから私が運んであげたのよ」
そうだったのか…
じゃああの着物の女性は一体…?
「俺が倒れていた場所に着物の女性がいたはずだが、彼女はどこに行ったんだ?」
「着物…ねぇ…。いなかったわ。」
何か含みのある言い方だ。
こういう時だいたい人は何かを隠していると見ていい。
「何か、言いたいことがあるみたいに見えるぞ」
それを聞いて、彼女は驚く。
しかしすぐに顔を通常の表情に戻して、俺を見る。
実力的にはかなりやる女だとその時点でわかる。
「いいわ、あなたを見込んで話す。あなたが見たというのは私の姉。千代のことよ」
姉が一人であんな吹雪の中に…?
耐えれるとは思わない。
しかも俺に向けられていたのは確実に殺気だった。
「姉は今、おかしくなっているの。とてもね。だから私はここにいる。姉を戻したいから。あなたにも手伝ってもらいたいの」
なるほど。そういうことか。
「話を詳しく聞かせてくれ」
俺はその薄暗い洞窟の中で、話を聞き始めた。




