炎の翼
確かに、このまま落下すれば3人とも死ぬだろう。
だが、俺には秘策があった。
さっき貰った魔導書で引いたとっておきだ。
「ちょっと桃太郎!!このままじゃ3人まとめて死んじゃうわよ!!」
「任せておけ」
「フェニックス!!」
そう唱えた瞬間、桃太郎の背中の炎の翼が羽ばたいた。
魔導書から引いて身についた魔法はどうやら詠唱しなくても使えるらしい。
この魔法は炎の一級魔法。
フェニックスを彷彿とさせる炎の翼を背中に纏い、空を飛行できるというものだ。
もちろん、一級魔法ゆえ、魔力の消費は激しい。
しかし、豆の木から下に着くくらいなら魔力は余裕で持つ。魔力増強玉もあることだし。
「な、なによこれ!!すごい!!」
「さっき貰った魔導書から引いたんだ。ちょっとしか使えないけど、しばらくは空を楽しもう」
そして、かぐやとジャックを抱えたまま、少しの空中遊泳を楽しんだ。
かなり便利な魔法を手に入れた。
しばらくして、地上に無事、降りることができた。
地上に着くと、村の住人たちがわらわらと広がっていた。
そう、カブは消えていたのだ。
「桃太郎さん!!本当にカブが消えてます!よかった!!」
ジャックがキャッキャッと喜んだ。
村人たちもすぐに桃太郎とかぐやに気付き、寄ってたかって称えてくれた。
その日は村の村長の計らいで、ご馳走になり、村に泊まっていくこととなった。
正直俺もかぐやもヘロヘロだったから助かった。
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少しして、夜中に目が覚めた。
横を見るとかぐやとジャックが寝ていた。
俺は起こさないように外に出た。
こうして夜風に当たりながら、景色を見渡すと、俺があっちの世界にいた時のことを思い出す。
嫌なこと、辛いこと、しんどいことがあった時、寝れない時。
そんな時によく外に出ては感傷に浸った。
でも今は
そんな気持ちじゃないのに不思議だな。
するとかぐやが起きてきた。
「すまない、起こしてしまったか」
「いいえ、大丈夫。寝れないの?」
「あぁ。あんな激しい戦いの後だし興奮してるのかもな」
「そう」
しばらく2人は黙って景色を見ていた。
するとかぐやが突然話し始めた。
「あんたって、こっちの世界の人間じゃないでしょ」
俺はかぐやの言葉に驚いた。
返す言葉がなかった。
「なんとなくだけど、そんな気がするの。違ったらごめん」
「いや…。そうだ。前世…って言っていいのかわからないが、その時の記憶はある」
俺は桃に誘われてここへ来たこと。
昔の生活、全てを話した。
今までこのことは誰にも言えなかった。
言っても信じてもらえないだろうし、気持ち悪がられるだけだと思って。
でもかぐやは親身に話を聞いてくれた。
なにもおかしいことはないと。
「なんであんたはそこまでして鬼王を倒そうとするの?桃太郎としてのやるべきことだから?」
「実際にはわからない。でも、もう前の俺じゃ嫌なんだ。」
俺はずっとクソみたいな生活を送ってきて
言いたいことも言えず、誰からも頼りにされず
そんな生活とはもうおさらばしたい。
鬼王を倒せば元の世界に戻れると言う話だったが、こっちの世界で桃太郎として暮らすのも悪くないのかもしれない。
「詳しいことはわかんないけど、私は今のあんたしか知らないわ。だから言うけどあんたは強い。きっとどこへ行ったってね」
「ありがとう」
それ以降会話を交わすことはなかったが不思議と落ち着いていた。
2人して黙ったまま、外の景色を堪能して、そっとまた寝床に戻った。
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「桃太郎さん、本当にありがとうございました!」
ジャックと一緒に村の住人がみんな見送りに来てくれた。
このみんなの顔を守るために俺は桃太郎として生きていく。そう決めた。
「もしまた機会があれば是非遊びに来てください!歓迎します!」
「その時までにもっと強くなってなさい、私たちと一緒に戦えるようにね」
そう言って俺たちはジャックの村を後にした。
「これからどこに行けばいいと思う?」
かぐやの方がこっちの地理は詳しいだろうし、聞いてみることにした。
「んー、そうね。ここからさらに東に行ったらこの世界で一番大きな街があるわね。まずはそこに行って情報収集でもしてみる?」
なるほど、その街ならもしかしたら鬼王のこともわかるかもしれない。
「でもその街に行くまでにあの雪山を一つ越えないとなのよね。結構根気がいるから覚悟しないと」
「分かった、その街に行こう。雪山はなんとかなるだろう」
そう言って俺たちは目の前に聳える雪山の麓を目指して歩き始めた。




