その男、金太郎
道中、特にイベントもなく、次の村付近までついてしまった。
まあ、イベントもなくっていってもモンスターらしきものはいたが。
一応、おばあさんとおじいさんからの贈り物として貰った剣と盾だけど役に立ったな。
剣道やっといてよかったぜ全く。
やはりここらへんの雑魚モンスターは阿修羅とはレベルが違うな。
簡単に勝てるレベルだ。まあRPGに置き換えると最初のスライムレベルってとこだな。
そういや、経験値とかあるのか?
転生があり得るんだし、何があっても驚かないけど。
「おい、そこの若えの。」
声がする方向を見てみると熊がいた。
俺の聞き間違えか。
「おい、無視すんなって、今目があったろ」
は?
熊が喋ってる!?
いや、驚かないとは言ったがこれは違うだろ!
「そんなびっくりすんな、周りの人間には聞こえてない。心の声ってやつだ」
納得はしないけど、まあ納得だ。
「俺は普通に話せば伝わるのか?え、これ伝わってる?大丈夫?」
「大丈夫だ。人間の言葉もわかる、このまま聞いてくれ。動物の心の声が聞こえるってことは心が清く正しい証拠だ。そんなお前さんに頼みがある」
「頼み?悪いが仲間探しで忙しいから、大した頼みじゃないなら断るぞ」
「なら丁度いいかもな。この先の村に金太郎っていう木こりがいるんだが、ちょっとしたトラブルが続いててな。様子を見てやってほしいんだ。」
なるほど。
どうやらその熊はよく金太郎と相撲などをして遊ぶ仲らしいのだが、最近金太郎が森に来ないので心配だそうだ。
自分で見に行きたいが、村に熊が出たとなると大事になるらしく…って
あれ?
これって童話であったよな…
熊と相撲ってまんまじゃねえーか!
桃太郎と金太郎っておんなじ世界線だったとその時初めて知った。
「まあいいぜ。ちょうどこの先の村に行く所だったし様子を見てくるよ」
「そいつはありがてえや。純粋な奴だからどうかよろしく頼むな」
そうやり取りを交わした後、再び村に向かった。
.
.
.
村が見えてきたな…。
ん?あの男は…。
「おい、そこの野郎止まりやがれ」
前方に立っていた男からそう投げかけられた。
身長は俺と同じくらいだが体格が違う。
ガッシリとした肉体に背中には斧を背負っている。
こいつが例の金太郎か。童話で見たまんまだ。
「てめえ、ここら辺じゃ見ない顔だな。鬼の仲間じゃねえだろうな?」
敵対心バチバチだがとりあえずここは穏便に。
「いや、俺は遠くの民家で生まれた桃太郎って言うんだ。そっちは金太郎であってるか?」
そう聞くと金太郎は驚いた顔をしてみせた。
しかしすぐさっきの疑いの顔に戻し、こう問いかけた。
「ああ、俺は金太郎ってんだが、どこでその名を?桃太郎ってのもここら辺じゃ聞かねえ名だな」
「道中会った熊にお前のことを頼むって言われたんだよ。怪しい者じゃない信じてくれ」
金太郎はそれを聞いてなるほどなるほどと言ったあとクルクルと回り始め、俺を直視した。
「大吉と喋れるってんなら悪いやつじゃねえ。みとめてやる。だが俺を頼むってのは心外だ、てめえが強そうには見えねえ」
あの熊、大吉っていうのか。
まあ確かに俺は桃太郎として生まれてまだ間もないわけだけど、あっちの世界じゃ俺はお前より歳上だからな?
そう思うも、言ったところで意味がないと察し、言葉は胸にそっとしまった。
「この村に入りたきゃ、俺と勝負しやがれ。んーそうだな、てめえの土俵で戦ってやらぁ。剣と斧の打ち合いでいいか?」
なるほど、そうなるか。
まあ男は立ち合った方が心が通うとも言うし。
ここはその提案に乗ろう。
「いいぜ、人型初戦闘だ。いくぜ」
そう言うと金太郎はすかさず斧を抜き出し、四股を踏んで俺にもう突進してきた。
すかさず俺も剣を抜き、初撃を受け止める。
お、重い…。流しきれない…。
ガッチリとした肉体から放たれる一撃は受け止めるので精一杯だった。
「おっしゃぁ!!!」
その掛け声と共に金太郎は斧を下から上に振り上げ、剣を弾いた。
俺の体勢が崩れる。と、同時に胸に爆弾でも食らったかのような衝撃が走った。
張り手だ。
斧を片手に持ち替え、もう片手で掌底のような張り手を胸に打ち込んできたのだ。
戦闘慣れしてやがる…。
俺は後ろに吹っ飛んだ。
「弱え!戦闘経験がまるでねえな!大吉のやつ、目が腐っちまったのか?」
そう言い俺を見つめる金太郎。
なんとか、こいつに一矢報いなければ。
戦闘経験では向こうに分がある。
なにか、俺が勝っているもの…。
速さと向こうの世界で学んだものの経験!
剣道では面を打つ時、必ず剣でガードする。
その頭上を飛び越えれれば…。
「なに、まだまだだ。いくぜ、気を抜くなよ」
「へえ、漢気だけはあんな。認めてやらぁ。かかってきやがれ」
そう言うと金太郎はまた四股を踏み、俺に突進してきた。
さっきと同じ一撃、避けれる…!
大振りの後は隙ができるもんだ!!
そして金太郎の一撃を避け、すかさず面を打ち込む…が、なんとかガードされる。
ここしかない…!!!
俺はその剣の勢いを利用して頭上を飛んだ。
そして後ろに回り込み、剣を喉元に突きつけた。
この速さには金太郎も反応できなかった。
「なるほど、やるじゃねえか。十分だ。」
金太郎は斧を再び、背中にしまった。




